武器作り1
「おはよう。」
宿にある井戸の前で顔を洗っていると後ろから北条が挨拶をしてきた。
「ああ、おはよう。昨日は眠れたか?」
俺が返事をすると、
「ああ、ぐっすりと眠れたよ。夢まで見てしまった。」
そう言って少し微笑んだ。
二人で適当に話しながら、宿に戻るとそこに変態がいた。
いや、正確には美少女と変態である。
走ってこっちに来るのが天野だろう。
その後をまだ寝ぼけ眼な武が
「天野さ~ん。」
と言って手を前に伸ばして追いかけていた。
「服部君あのキモイのどうにかして!」
天野が俺の後ろに隠れてそう言う。
俺は少し考えて、武の方へ歩み寄る。
途端に「天野さ~ん」と叫びながら俺に向かって、飛び掛かってくる。
流石に怖気を感じたが、紙一重で躱し、蹴りを腹に入れた。
「ぐふぅっ!」いつか見たときの様に武は廊下をごろごろと転がり、眠りについた。
武が起きた所で、4人で広場へ歩いていく。
すると、そこには村人に囲まれた賢人がいた。
「族長!どういうことですか!?」
「いったいどこの種族がこんなことを?」
口ぐちに賢人に質問している。
「賢人どうしたんですか?」
俺は賢人に声をかけた。
「おお、信也殿。実は―――」
「あなたたちには関係ありません!」
賢人が話を続けようとしたところで、村人が遮って言った。
そして賢人にまた詰め寄って質問し始めた。
これでは話をすることはできないだろう。
「一回宿に戻ろうか。」
そう言って4人で宿の食堂へ行った。
「正座なんて久しぶりだな。」
北条が話しかけてくる。
小人用の椅子では小さすぎて座れなかったので俺たちは床に座っている。
「日本人用の宿まであるんだから、椅子も用意しろよな。」
そんなことを愚痴っている野郎もいる。
「すまんのう。日本人は正座をするのが主流と聞いたものでな。」
後ろからいきなり話しかけられたので全員が驚きながら振り返る。
「す、すいません。そんなつもりなかったんですけど。」
武が弁解する。
「それに、あの宿はおぬしらの様な日本人のためのものではないぞ。」
賢人がそう言ったので、
「他種族のためですね。」
俺がすかさずそう言うと、
「流石じゃの。その通りじゃ。」
賢人が肯定した所で天野が質問する。
「村人の方は大丈夫?」
「ああ、彼らは一応説得して仕事をさせておる。」
「で、なにがあったんですか。」
俺がそう質問するのを待っていたように賢人が話し始めた。
「実は昨日の夜、村人が攫われたようなんじゃ。」
「「「え?」」」
俺以外の三人の声が重なる。
「やはり昨日の騒ぎのせいでしょうか?」
俺はできるだけ静かにそう聞いた。
「確かに昨日のお祭り騒ぎに乗じてじゃろう。
しかしおぬしらが気に病む事はないぞ。
むしろ今までこんな事が起きなかった事の方が不思議なぐらいじゃからのう。」
賢人は何か思うところがあるようにそう言った。
「服部どういう意味だ?」
北条が聞いてくる。
「この小人族は他の種族に武器を売って生活している。
しかし他の種族達は互いに争いあっている。
すると、武器の独占を目論む種族もいるだろう。
だから、誘拐をして武器を作らせようとするんだ。」
「でもよ、信也。小人族は他にもいるじゃないか。
2,3人連れて行っても意味ないんじゃないか?」
「ああ、だから多分―――」
「攻めてくるじゃろうな。」
賢人が俺の言葉を引き継ぐ。
「え、攻めてくる?!」
武が驚いたように叫んだ。
「「・・・」」
北条と天野は話が全て分かったようで、難しい顔をしている。
「ああ、きっと他種族への武器の供給を断つために攻めて来て、
小人族を滅ぼすなり、生け捕りにするなりするだろう。」
「まじかよっ!俺たちもヤバくねえか!?」
武が悲痛な声を漏らす。
「これからどうするんだ?服部。」
今まで静かに聞いていた北条が問いかけてきた。
俺はそれにこう答えた。
「ああ、今日の予定は昨日言ったように『武器作り』だ。」
「ふむ、では弓を一つと、鉈を一つ、その、ええと、なんだっけ?」
武器職人が質問してきたので、俺が答えた。
「メリケンサックと拳銃だ。」
「ああ、そうそう。めりけんさっく と けんじゅうだな。
で、どうやって作るんだ?」
「この本を見てくれ。」
俺はそう言って、鞄から銃の構造が書かれている本を見せた。
「ここをこんな形で作り、あとは―――」
俺が説明している間、三人は他の職人と武器の材料について話し合っていた。
「弓は神木を使わねえとダメだな。」
「ふむ、そうか。確かにさっきの弓はすぐ折れたしな。」
「いや、そう簡単に折れるはずがないんだが・・・。」
と北条が話していたり。
「向こうのお嬢ちゃんと一緒で、神木を使わないと、すぐ折れるな。」
「刃の部分はどうするの?」
「金属は洞窟に行かねえとないからなぁ。」
と天野が話していたり。
「おい、坊主!」
「何だよ。俺の方がデカいんだから、坊主って呼ぶな!」
「うっせえ!餓鬼のくせにデカい口叩きやがって!」
と武が話したり(?)していた。
「よし、今日は洞窟に行って金属を採集してくるか。」
俺がそう言うまで3人とも熱心に武器職人達と話していた。
「では、気を付けての。」
賢人に見送られて、俺たちは金属の取れるという洞窟に向かった。
「距離はどれくらいだっけ?」
天野が話かけてくる。
「確か歩いて一刻つまり2時間って言ってたな。」
天野は涼しい顔をしているが、武と北条はこれからの道のりを想像してだろう。
とても嫌そうな顔をしていた。
だが、俺たちの予想に反して30~40分程でそこに着いた。
「うお、でっけえな。」
洞窟の入り口を見た武が唸る。
「思った以上に早く着いたな、服部。」
「ああ、俺たちの歩幅は小人のそれとは大きく違うからな。」
北条は俺に話しかけてくる。
「カン、カン」
天野は洞窟の入り口の石を壁に打ち当てて、じっくりと観察していた。
「さて、中に入ろうか。」
俺がそう言うのを聞いて、三人とも頷き返してきた。
「ふむ、中々上質な鉄鉱石だな。はい、北条。」
「お、これも鉄鉱石だな。」
「ゆうひ~これも?はい、あげる!」
「信也!助けてくれ!げふぅっ!」
四人で和気藹々と鉄鉱石採集を行う。
まあ、武だけは洞窟にすむ魔獣と戯れて、サボっているようだが。
「よし、これだけあれば十分だな。帰ろうか。」
三人で入口の方へ戻っていく。
「おつかれ~。」
天野が俺と北条を労う。
「さて、入り口に戻ってこれたし、お茶でもしようか。」
そう言って、北条がピクニックシートを広げ、お茶を飲み始めた。
「どれだけ取れたんだ?」
「ああ、こぶし大のを20個ほどだ。」
「結構取れたね。いい鉈が作れるといいけど。」
三人で静かに話していた。
すると突然、
「信也!後ろ!」
北条が叫ぶ。
俺はとっさに後ろを向こうとする。
視界の隅で俺に何かが突撃してくるのが見える。
けっこうなスピードだ。
だが、俺は身をひねるように回転し、
突っ込んできた『それ』を進行方向へ押すように回し蹴りを決めた。
『それ』はつんのめって、地面に転がる。
「がぁっ!」
『それ』が呻く。
そして俺は体勢を整え、『それ』を視界に入れる。
案の定、そこには
気を失った『武』がいた。
「いや、すまなかったな。すっかり忘れていたんだ。」
俺が真面目な顔で武にしっかりと謝る。
「嘘だ!わざと置いてったくせに!」
「武、お前は『自分が親友と思っている奴』の言うことが信じられないのか?」
「うっ!」
武は呻き、何かブツブツ口の中で呟いていたが、真面目な顔をして
「そうだな。悪かった。信じるよ。」
と言った。
ちなみにさっきのセリフからも分かると思うが俺は武のことを親友とは思っていない。
勝手に向こうが俺を親友だと言っているだけだ。
北条と天野はそれが分かったのだろう。
武の後ろで笑いをこらえていた。
「さて、武も来たことだ。村に戻ろうか。」
俺たちは森を歩き始めた。
しかし、俺たちが15分ほど歩いたところで『それ』は現れた。
「ガサッ」
茂みから音がした。
4人ともがピタッと足を止めた。
息を殺して『それ』が出てくるのを待つ。
果たしてそこには大きな『イノシシ』がいた。
「でかっ!」
武が叫ぶ。
いつもならその大きな声にうるさいだのなんだのと文句を言うだろう。
しかし俺たちにはそんな余裕は無かった。
「迂闊だった。こんなに大きなイノシシが生息しているなんて。」
俺はそんなことを呟くが、そんなことを言っても状況は変わらない。
「ブォォォォォォ!!!!」
その大きな口を開いて、イノシシが雄叫びを上げる。
「うわっ!」
天野が耳を塞ぐ。それほど大きな音量だった。
瞬間、俺は嫌な汗が噴き出すのを感じた。
1頭なら何とかなると思っていたイノシシがさらにもう2頭奥からやってくるのが見えたからだ。
「どうする信也!村まで走って逃げるか?!」
「いや、佐藤ダメだ!それではイノシシを村に入れてしまうぞ!」
そう、北条の言うとおり、村にイノシシを入れるわけにはいかない。
「北条と天野があの1頭を俺と武は1頭ずつ相手をする。」
おれがそういうと天野と北条は驚いたようにこちらを向いた。
「でも服部君は――――」
「いや、信也なら大丈夫だ。」
天野が全てを言い切る前に武がそう言葉を重ねた。
天野がさらに何か言おうとしたが、武が今までにないほど真剣な顔をしているのを見て、
言葉を飲み込んだ。
北条は少し不安げにこちらを見たが、
「任せた。行くよ、輪ちゃん!」
そう言って1頭を引き付けて左の方へ走っていく。
「待って夕日!」
天野は少し俺を見つめた後、北条を追いかける。
1頭のイノシシがその後を追おうとしたが、
「せいっ!」
武の蹴りによって体勢を崩される。
武が右側の林の奥に走って行くと、
起き上がったイノシシは怒り狂ったように武の後を追って林に入って行った。
「さて。」
俺は眼前のイノシシを見る。
大きさはさっきの3頭の中で最も大きい。
「ふぅ。」
俺は小さく息を吐き、構える。
それを待っていたように、イノシシはこちらへ突撃してくる。
大きいだけあって、その威圧感は半端でなく、立派な牙がこちらを怖がらせる。
はずだった。
しかし、信也は冷静にイノシシを見ながら、
そこから大きく1歩だけ横へ絶妙なタイミングで避ける。
それだけでイノシシは標的を見失い、信也の後ろにあった巨木に顔面から激突した。
「はぁ。」
ため息を吐きながら辺りを見る。
少しすると、天野と北条がゆっくりと歩いて来たのと、
武が腰をさすりながら歩いてくるのを見て、
再び小さく安堵のため息を吐き、村への道を歩き始めた。
「お疲れ!」
そう言って大きく笑う鍛冶屋のおじさん小人に
「お願いします。」
と一言だけ言って、武は宿に戻る。
「やっぱり信也はすごいな。」
何気なくそう呟く。
実際、信也の対峙したイノシシは他の2頭と比べ物にならない威圧感があった。
それを信也は冷静に対処したことに武はやはり驚いていた。
武はこれでも空手では全国レベルの実力を持っている。
それでも信也にはきっと勝てないだろう。
武は自嘲気味に笑った。
武も信也のより一回り小さいとは言え、
イノシシ1頭を素手で倒している。
十分に強いのだが、武はいつもの振る舞いからは想像できないが意外と自分に対する自信があまりなかったのだ。
「さて、明日は森に行かなければな。」
3人に向かってそう言うと、
「ああ、私の弓と―――」
「私の鉈だね!」
北条と天野が張り切ったようにそう言う。
「ああ、じゃあ今日は明日に備えてもう寝るか。」
そう言って俺たちはそれぞれの部屋へ入って行った。
夜の闇の中、『影』はそれをじっと見つめる。
「ふっ!」
『影』は無心でそれを振るう。
「仲間を守るんだ。」
そう言って静かにそれを振るっていた。
別の『影』が自分を見ていることに気付かずに。




