古代ゴーレム
雲海を突き抜け、白銀の魔導浮遊馬車がたどり着いたのは、地上の常識が通用しない神秘の世界でした。
「メル、見てみるの! 本当に島が空に浮いてるの!」
ポポが窓にピタッと張り付いて歓声を上げます。
そこは、青空の中にぽっかりと浮かぶ緑豊かな孤島――『天空宮殿ラピュタス』の遺跡でした。
地上よりもずっと太陽が近く、周囲には見たこともない白く輝く鳥たちが群れをなして飛んでいます。そして何より、島のあちこちから滝のように水が流れ落ち、それがそのまま雲へと消えていく、幻想的な光景が広がっていました。
「本当に綺麗……。あ、見てリュカ! 島の入り口の岩肌に、真っ白くて丸いキノコがたくさん生えてる!」
「……あれが、ポポの言っていた『スカイ・マッシュルーム』か」
リュカは馬車を遺跡の広場へと静かに着陸させると、すぐに剣の柄に手をかけました。
「メル、ここからは徒歩だ。ガイルの言っていた通り、遺跡の周りには奇妙な魔力の気配がある。俺の側から一歩も離れるなよ」
「うん、分かってる!」
馬車の扉を開けると、地上のものより少し薄いけれど、驚くほど澄んだ空気が鼻腔をくすぐります。
メルが真っ先にスカイ・マッシュルームへと駆け寄ろうとすると、リュカがその細い腰を後ろからガシッと抱きとめ、自分の胸元へと引き寄せました。
「ひゃっ!? り、リュカ!?」
「言ったそばから離れるな。……ほら、お出迎えだぞ」
リュカの視線の先――遺跡の奥から、ガシャーン、ガシャーンと重々しい金属音を立てて、古代の魔導人形が姿を現しました。全身が頑丈な青銅でできており、その胸の奥には、鈍く光る魔術回路が見えます。
「ガルル……あいつ、侵入者を排除するモードになってるの!」
ポポがメルの肩の上で身構えます。
「メル、あのゴーレムの動力源、どうなってる?」
リュカはメルを背中に隠しながら、鋭い視線でゴーレムを観察します。
「待って、今分析する……! あの青銅の継ぎ目、あそこに古い古代文字が刻まれてるわ。あれは『風の障壁』の術式よ。普通に攻撃しても、刃が風で受け流されちゃう!」
「なら、どうすればいい?」
「私の魔導杖で、術式の循環を逆流させる『反転魔力』を撃ち込むわ! その瞬間、一秒だけ風の守りが消えるから、そこを!」
「了解だ。……一秒もあれば十分すぎる」
リュカが不敵に微笑んだ瞬間、ゴーレムが巨大な鉄の拳を振り上げて突進してきました。
「いっけぇーー!」
メルがタイミングを合わせて魔導杖を突き出すと、正確にゴーレムの胸の術式へと光線が命中します。バチバチッ!と青い火花が散り、ゴーレムを包んでいた目に見えない風の鎧が、霧散するように消え去りました。
「――終わりだ」
次の瞬間、リュカの姿がブレるほどの速度で踏み込みました。
風の守りを失った青銅の関節に向けて、リュカの愛剣が目にも留まらぬ速さで一閃、二閃、三閃――!
ガシャァァーン……!
完璧に急所を破壊されたゴーレムは、メルの言った「一秒」の間に、音を立てて崩れ落ち、ただの動かない金属の塊へと戻っていきました。
「すごい、リュカ! 完璧なタイミングだったわ!」
「お前の分析が正確だったからだ。……怪我はないか? 怖くなかったか?」
リュカは剣をサッと鞘に戻すと、すぐにメルの両手を握り、顔をこれでもかと近づけて心配そうに覗き込んできます。過保護モードへの切り替えが早すぎます。
「全然平気だよ、リュカが守ってくれるって信じてたもん。それより……!」
メルは崩れたゴーレムの足元を指差しました。ゴーレムが壊れた衝撃で、周囲の土が少し削れ、そこから信じられないほど丸々と太った、極上の『スカイ・マッシュルーム』がゴロゴロと顔を出していたのです。
「うわあ……! これ、触るとしっとりしてて、中からじわっと水分が溢れてくる! 最高の出汁が取れるって、見るだけで分かるわ!」
「本当に美味しそうなの! ポポの鼻に狂いはなかったの!」
ポポとメルが嬉しそうにキノコを収穫する姿を見て、リュカもホッと表情を緩めました。
「よし、これでキノコは手に入った。あとは、あの遺跡の最深部にある『動力結晶』だな」
リュカはメルの頭を優しく撫で、その手を再びぎゅっと握りしめました。
「コアを手に入れたら、今夜はこの浮遊島の最高の景色が見える場所で、このキノコを使った新しいパエリアを作ろう。……もちろん、俺への『一生分のパエリア』の、特別な新作としてな」
「もう、リュカったら、まだそんなこと言ってる……」
メルは顔を赤くしながらも、嬉しそうに微笑んでその手を強く握り返しました。
古代の謎が眠る天空宮殿。
2人と1匹の絆は、新しい最高の食材と、お互いへの絶対的な信頼を胸に、いよいよ遺跡の最深部へと進んでいくのでした。




