浮遊島へ出発
翌朝、王都の青空を割るようにして、ついにガイルの「最高傑作」がお披露目となりました。
「おい、ガイルのじいさんの工房の前に、とんでもねえ馬車が止まってるぞ!」
「馬車っていうか……あれ、浮いてねえか!?」
王都の通りが朝からざわざわと騒がしくなる中、メルとリュカ、そしてポポはガイルの工房の前に立っていました。
そこに鎮座していたのは、白銀の装甲に包まれた、車輪のない馬車。なんと、地面から数十センチほど完全に浮遊しているのです。
「ガイルさん、これって……!」
「ふん、驚くのはまだ早いぞ、メル」
ガイルが自慢げに白髭を蓄え、馬車の側面を叩きました。
「これは『風色結晶』の力で浮力を生み出し、どんな険しい山道や崖、沼地でも平然と進める『魔導浮遊馬車』だ! 中を見てみろ」
メルがワクワクしながら扉を開けると、そこはまるで小さな家でした。
コンパクトながらも使いやすそうな最新の魔導コンロが備え付けられたキッチン、ふかふかのベッド、そしてメルが魔道具の研究をするための作業机まで完備されています。
「すごーい! これなら移動中も、どこでもパエリアが作れちゃう!」
「……ほう、キッチンが広いな。これなら俺がメルの隣で食材を切っていても邪魔にならない」
リュカが早くも「おうちデート」の空間として品定めを始める中、ガイルが真面目な顔をして一枚の古い地図を机に広げました。
「さて、本命の依頼についてだ。お前たちに向かってもらうのは、はるか上空、年中激しい嵐の雲に覆われた伝説の浮遊島――『天空宮殿ラピュタス』の遺跡だ」
ガイルの指先が、地図の遥か上空に描かれた孤島を指します。
「その最深部に、かつての古代文明が作り出した『失われた古代魔導船の動力結晶』が眠っている。その結晶があれば、この馬車は単に浮くだけでなく、本当に空を飛んで世界中を旅できるようになるのだ。……ただし」
ガイルは、少し声を潜めてリュカを見上げました。
「浮遊島は、地上とは全く異なる生態系だ。強力な飛行魔獣だけでなく、遺跡を守る古代の魔導人形どもがうごめいている。生半可な冒険者じゃ、島に降り立つ前に墜落して骨も残らんぞ」
「問題ない」
リュカはメルの肩を抱き寄せ、冷徹とも言えるほど自信に満ちた笑みを浮かべました。
「どんな魔獣だろうがゴーレムだろうが、メルの前に立ちはだかるものは全て俺の剣で塵にする。……それよりガイル、その浮遊島にはどんな『食材』があるんだ?」
「は? 食材?」
ガイルが呆気に取られた顔をします。
「リュカ、そこは一番に聞くところじゃないの!」
メルが赤くなってリュカの脇腹をツンと突くと、ポポがふかふかの胸を張って代わりにガイルの地図に飛び乗りました。
「ガイル、リュカの言うことは正しいの。美味しいご飯がなければ、冒険のモチベーションが上がらないの! ポポの調べによると、あの浮遊島には、雲の水分を吸って育つ『スカイ・マッシュルーム』っていう、信じられないくらい濃厚な出汁が出る幻のキノコがあるはずなの!」
「……なるほど。キノコか」
リュカの目がギラリと光りました。あのレインボー・トラウトの出汁に、さらにその幻のキノコの旨味が加わったら、メルのパエリアは一体どこまで美味しくなってしまうのか。
「よし、メル。依頼を受理する。今すぐ出発だ」
「もう、リュカったら気が早すぎるよ! でも……うん、ガイルさん! 私たち、絶対にその『動力結晶』を持って帰ってきます!」
「おう、期待しとるぞ。お前たちのために、馬車のフライトシステムの設計を終わらせて待っとるからな!」
ガイルに見送られながら、3人は白銀の魔導馬車へと乗り込みました。
御者席に座ったリュカが魔力を流し込むと、馬車は静かに、しかし力強く王都の地面を離れ、遥か上空の雲を目指して加速していきます。
「わあ……! 王都が小さくなっていく……!」
窓の外に広がる絶景に、メルは目を輝かせます。
「メル、これからは2人っきりの時間が長くなるな。……ポポは寝かせておくとして」
「ポポは起きてるの! 職務放棄させないでほしいの!」
賑やかな声を乗せて、馬車は雲海へと突き進んでいきます。
まだ見ぬ天空の遺跡、強力な古代の守護者、そして何より「幻のスカイ・マッシュルーム」。
幼馴染み2人と1匹の、甘さも規模もスケールアップした『本命の大冒険』が、いま最高のファンファーレと共に幕を開けたのでした!




