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大鍋が焦げついたので、幼馴染みと共に魔道具探しの旅に出ます  作者: 輝久実


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エターナルコア

ゴーレムを突破したメル、リュカ、ポポの3人は、白碧の苔に覆われた遺跡の長い回廊を進んでいました。


天井の崩れた隙間から差し込む太陽の光が、空気中に舞う魔力の粒子をきらきらと輝かせています。まるで光のカーテンの中を歩いているような幻想的な空間ですが、リュカの警戒は一瞬たりとも緩みません。


「……ここが最深部だな」


やがて辿り着いたのは、ドーム状になった広大な謁見の間。


その中央に浮かぶ祭壇の上で、周囲の空気を歪めるほどの圧倒的な存在感を放つ、拳大の美しい結晶が静かに輝いていました。


青と金色の光が混ざり合い、脈打つように呼吸しているそれこそが――『失われた古代魔導船の動力結晶エターナル・コア』でした。


「綺麗……。これが世界中の空を飛べるようになる、伝説の心臓部なのね……」


メルが息を呑んで見つめていると、ポポがくんくんと鼻を鳴らしました。


「メル、リュカ、油断しちゃダメなの! コアの周りに、さっきのゴーレムとは比べ物にならないくらい濃い魔力のトラップが張り巡らされているの!」


見れば、祭壇の周囲には幾重もの赤い光のライン――触れたものを一瞬で消滅させる古代の防衛結界が、複雑に入り組んで展開されていました。


「なるほど、力任せに奪おうとすれば、結晶ごと爆発する仕組みか」


リュカが低く呟き、メルを見つめます。


「メル、解除できそうか?」


「任せて。ガイルさんのところで、古い魔術回路のパズルはたくさん解いてきたから!」


メルは工具を取り出すと、結界の起点となっている制御盤の前に跪きました。


ここからは、一ミリの狂いも許されない繊細な作業です。メルの額に緊張の汗が浮かびます。


「……っ、ここをこうして、魔力を逆方向に流して……」


リュカは剣を抜き、メルの背後にぴたりと寄り添いました。もし解除に失敗して結界が暴走した場合、自分の命に代えても彼女の盾になる――その覚悟が、彼のブレない背中から伝わってきます。


作業開始から数分。メルの指先が、最後の魔術導線をカチリと繋ぎ替えました。


「できた……! 結界、解除!」


次の瞬間、謁見の間を包んでいた赤い光のラインが、嘘のようにサラサラと光の粒となって消え去りました。それと同時に、祭壇に浮かぶエターナル・コアが、まるで主を認めたかのように、メルの手の中へと吸い込まれるように収まったのです。


「やったわ、リュカ! コアを確保したよ!」


「ああ、よくやった、メル」


リュカはホッとしたように剣を収めると、メルを後ろから優しく抱きしめました。彼の胸の鼓動が、驚くほど速く、強く打っているのが背中越しに伝わってきます。いくら優秀な冒険者でも、メルの安全がかかっている間は、生きた心地がしていなかったのです。


「リュカ、苦しいよ……っ」


「少しだけこのままでいさせてくれ。……お前が無事で、本当によかった」


耳元で少し掠れた声で囁かれ、メルは手の中の結晶よりも自分の顔が熱くなるのを感じました。ただの幼馴染みから、かけがえのないパートナーへ。2人の心の距離は、確実に新しい段階へと進んでいました。


「ふにゃ〜、無事に終わってよかったの! ポポはお腹と背中が完全にくっついたの! 約束のパエリアの時間なの!」


ポポが空気の読めない明るい声で叫び、2人はクスッと笑い合って身体を離しました。


その日の夕方。


浮遊島の一番見晴らしの良い崖の上で、白銀の馬車をバックに、特製の大鍋が再びセットされました。


今回のメイン食材は、手に入れたばかりの『スカイ・マッシュルーム』。


メルが包丁を入れると、キノコから驚くほど濃厚な白いスープが溢れ出します。それをリュカの火魔術でじっくり温めると、王都で仕入れたエビや貝の香りと混ざり合い、天空の島全体を包み込むような、甘く芳醇な香りが立ち上りました。


「できたわ! スカイ・マッシュルームと海の幸の、天空特製パエリア!」


お米の一粒一粒がキノコの極上の出汁を吸い、見たこともないほど艶やかに炊き上がっています。


「いただきますなの!」


ポポが真っ先にハフハフとお米を口に運び、目を丸くしました。


「な、なんなのこれ……! お米を噛んだ瞬間、雲の上を飛んでいるみたいな濃厚な旨味が広がるの! 美味しすぎるの〜!」


リュカも静かに一口食べると、その端正な顔をこれ以上ないほど和ませました。


「美味い。今までのパエリアの中で、間違いなく最高峰だ。……メル、やっぱりお前を誰にも渡したくない。一生俺の隣で、この飯を作ってくれ」


「もう、リュカったら、またプロポーズみたいなこと言って……」


メルは真っ赤になりながらも、今度ははっきりと、彼の目を見つめ返しました。


「うん。……ガイルさんの馬車が完成したら、本当に世界中を旅できるようになるね。その時は、もっともっと新しいパエリアを、リュカのために作るね」


「ああ。約束だ」


リュカはメルのソースのついた指先をそっと引き寄せると、今度はからかうように、だけど深く愛おしそうに微笑みました。


手の中にある、世界の果てまで飛べる古代の動力結晶。


そして、それ以上に強く、温かく結ばれた2人の絆。

幼馴染み2人と1匹の美味しい大冒険は、この広大な空の向こうに待つ、まだ見ぬ世界へと、どこまでも甘く続いていくのでした。

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