特命専属冒険者
王都へ戻る道中も、2人と1匹の旅は相変わらず賑やかで、どこか甘い空気に満ちていました。
数日後、懐かしい王都の城門をくぐったメルたちは、その足でギルドの裏手にある偏屈な魔道具職人――ガイルの工房へと向かいました。
コンコン、とメルが緊張しながら木の扉を叩くと、
「入れ!」
と中から地響きのようなダミ声が返ってきます。
「ガイルさん、ただいま戻りました! ご依頼の『研磨の星砂』、無事に採取してきました!」
メルが誇らしげに、星砂の詰まった袋と、あのピカピカに蘇った大鍋を机にドンと置きました。
部屋の奥から現れた白髭の頑固親父・ガイルは、虫眼鏡を取り出して星砂の質を確かめ、それからメルの大鍋を凝視しました。メルは、起こった事を一通り説明しました。
「……ほう。アース・ベアの鎧になっていた星砂を、傷一つつけずに剥ぎ取ったか。それどころか、その強力な研磨作用を完全にコントロールして、炭化した魔力汚れだけを綺麗に落としおったな」
ガイルは驚いたように眉を跳ね上げ、それからフッと満足そうに鼻を鳴らしました。
「合格だ。リュカの腕前は知っていたが、メル、お前の素材に対する知識と咄嗟の魔力制御、見事なものだ。これなら『失われた古代魔導船の動力結晶』の回収も、お前たちに任せられる」
ガイルは机の引き出しから、ずっしりと重みのある銀色のバッジを2つと、ポポの首輪用の一回りを小さなバッジを取り出しました。それは、ギルド公認の『特命専属冒険者』の証でした。
「お前たちが結晶を持ち帰ったら、ワシが作っている特製の魔導馬車を譲ってやる。世界中のどんな険しい未開の地でも、我が家のように快適に過ごせる最高傑作だ。……どうだ、受けるか?」
「はい! 喜んで!」
メルが目を輝かせて答えると、隣のリュカも深く頷きました。
工房を後にした3人は、これからの新しい大冒険への期待で胸を膨らませながら、いつもの自分たちの小さな工房へと歩きます。
「ふにゃ〜、緊張したらお腹が空いたの。メル、今日は王都に戻ったお祝いに、何か特別なものが食べたいの!」
ポポがメルの足元で身軽に跳ねながらおねだりします。メルはリュックの中の、ピカピカになった大鍋をそっと撫でました。
「そうだね! じゃあ今日は、おじいちゃんのパエリアじゃなくて、私とリュカ、ポポの3人で新しく見つけた『レインボー・トラウトの出汁』を使った、特製のステーキパエリアにしよう!」
「異議なしだ。手伝うことはあるか、メル」
リュカがすかさずメルの隣に並び、その荷物(重いパエリア鍋の入ったリュック)をごく自然に自分の肩へと担ぎ直しました。
「あ、ありがとう、リュカ。じゃあ、お野菜とお肉のカットをお願いしようかな。リュカの剣技なら、一瞬で綺麗なサイコロステーキサイズになりそうだもんね」
「任せろ。お前のためなら、どんな高級食材でも寸分違わず切り刻んでやる」
真面目な顔で、どこか愛の重い台詞を口にするリュカに、メルはもう苦笑いするしかありません。でも、その心地よい過保護さが、今のメルにとってはたまらなく愛おしいものでした。
夕暮れの王都。
小さな工房のキッチンから、再びパチパチと小気味よい音が響き、やがて渓谷の思い出が詰まった最高の香りが街角へと広がっていきます。
「リュカ、お焦げのチェックお願いね」
「ああ。……それと、メル」
「ん?」
味見をするメルの口元に、リュカが指先でそっと触れ、ついていたソースを拭い取りました。そのまま自分の口元へ運ぶリュカの動作があまりにも自然で、メルの顔は一瞬でパエリアのトマトソースよりも真っ赤になります。
「……やっぱり、美味いな」
それがパエリアのことなのか、それともメル自身のことなのか。
リュカは意地悪そうにニヤリと微笑むと、メルの頭を優しく撫でました。
「もうっ! リュカのいじわる!」
「やれやれ、ごちそうさまなの。ポポのご飯には、甘口のソースは要らないの!」
呆れるマスコットと、過保護が止まらない最強の幼馴染み。
美味しい料理の香りに包まれながら、3人の絆はより深く、より甘く紡がれていきます。
王都でのひとときの休息を終えれば、次は伝説の浮遊島へと続く、さらに大きな世界への旅立ちです。
メルとリュカのじれったくも温かい恋の冒険譚は、美味しいパエリアの味と共に、これからもずっと、どこまでも続いていくのでした。




