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大鍋が焦げついたので、幼馴染みと共に魔道具探しの旅に出ます  作者: 輝久実


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本命の依頼

翌朝、渓谷に差し込む眩しい朝日でメルは目を覚ましました。


昨夜のリュカの言葉――『一生、俺のために美味いパエリアを作ってくれ』という、プロポーズにしか聞こえない台詞と、ぎゅっと握られた手の温もりが頭から離れず、メルは布団の中で一人、ぼふんと顔を真っ赤に染めていました。


「……メル、起きてるか?」


テントの外から、少し低くて心地のいいリュカの声がします。メルは慌てて髪を整え、パタパタと外へ飛び出しました。


「お、おはよう、リュカ! 早いのね!」


「ああ、おはよう。……なんだか顔が赤いな。熱でもあるのか?」


リュカが心配そうに、ごく自然な動作でメルの額に自分の手を当ててきます。ひんやりとした彼の大きな手のひらが触れた瞬間、メルの心臓は再び爆発しそうになりました。


「な、なんでもないの! ちょっと寝惚けてるだけ!」


「そうか? ならいいが。……ほら、ポポがもう待ちきれないみたいだぞ」


見れば、リュカの足元でポポが空っぽのスープ皿を両手(前脚)でしっかりと抱え、じーっとメルを見上げていました。


「メル、おはようなの。ポポのお腹と背中がくっつきそうなの。昨日のレインボー・トラウトの残りの出汁で作った、朝のごはんが食べたいの」


「ふふ、ごめんね、ポポ。今すぐ準備するわ!」


昨夜、リュカが丁寧に引いてくれた極上の魚介出汁。メルはそれを温め直し、旅用の乾燥野菜と、王都から持ってきた固めのパンをちぎって鍋に投げ込みました。ひと煮立ちさせれば、朝の冷えた身体に染み渡る、濃厚なクルトンスープの完成です。


「熱いから気をつけてね」


「いただくの! ……ふにゃ〜、やっぱりメルのご飯は最高なの。生き返るの〜」


ポポが幸せそうに目を細めてスープを啜るのを横目に、リュカも静かにスプーンを口に運びます。そして、満足そうにひとつ、頷きました。


「美味い。……やっぱり、俺の選択に間違いはなかったな」


「え? 選択って?」


メルが首を傾げると、リュカはスープ皿を置き、懐から一枚の古びた羊皮紙を取り出しました。それは、王都を出る前にギルドの偏屈な魔道具職人から手渡された、もう一つの『依頼書』でした。


「今回の『研磨の星砂』の採取は、実はその職人からのテストだったんだ。これを無事に持ち帰れば、本命の依頼を任せると言われていた」


「本命の依頼……?」


メルが覗き込んだ羊皮紙には、緻密な魔法陣のスケッチと、見たこともない珍しい鉱物の名前がびっしりと書き込まれていました。


「『失われた古代魔導船の動力結晶』……!? え、これって、伝説の浮遊島に眠るって言われている、歴史的な大発見の素材じゃない!」


「ああ。その職人は、それを組み込んで『どんな未開の地でも自由に旅ができる魔導馬車』を作りたいらしい。そのための素材集めの専属冒険者として、俺たちを指名してきた」


リュカはメルの目を真っ直ぐに見つめ、少し悪戯っぽく、だけどたまらなく甘く微笑みました。


「これで、お前が言っていた『色んなところに一緒に素材を探しに行きたい』っていう願いが叶うな。世界中を旅して、珍しい素材を集めて、お前は新しい魔道具のアイデアを形にする。……そして俺は、お前を狙う有象無象を全部叩きのめしながら、毎日お前の美味い飯を食う」


「それ、完全に夫婦のハネムーン計画なの」


と、スープを飲み干したポポがぷはぁと息を吐きながら突っ込みますが、リュカは全く気に留める様子もありません。


「リュカ……」


メルの胸に、じわりと温かいものが広がっていきます。


リュカは、メルが何気なく言った「これからも一緒にいたい」という言葉を、ただの約束で終わらせず、こうして未来の形として用意してくれていたのです。


「うん……! 私、その依頼、絶対に受けたい! どんな未開の地でも、リュカとポポと一緒なら、きっとすっごく楽しいもの!」


「決まりだな。……じゃあ、まずは王都へ戻って、あの偏屈じいさんにピカピカになった大鍋を見せつけてやろう」


リュカが立ち上がり、荷物をまとめ始めます。


メルもまた、すっかり綺麗になったお気に入りのパエリア鍋を愛おしそうに撫で、リュックへと仕舞いました。


「待ってろ、王都のご飯たちなの! ポポの胃袋は次の冒険の準備万端なの!」


ポポを先頭に、2人と1匹は再び歩き出します。


眩しい朝日に照らされた渓谷の帰り道。


リュカは今度も自然にメルの手を握り、メルも今度は照れることなく、その手をぎゅっと握り返しました。


幼馴染みの関係から、一歩ずつ、だけど確かに進んでいく2人の距離。


美味しい料理と、ちょっぴり過保護なヒーロー、そしておませなマスコットの、賑やかで愛おしい大冒険は、ここから本当の始まりを迎えるのでした。

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