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大鍋が焦げついたので、幼馴染みと共に魔道具探しの旅に出ます  作者: 輝久実


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2/11

霧降の渓谷

――数日後。


王都の喧騒を遠く離れ、メル、リュカ、ポポの2人と1匹は、目的の未開の地『霧降の渓谷』のふもとに到着していた。


「うわあ……! 見て、リュカ! 空気がとってもひんやりして、お肌がツルツルになりそう!」


メルは馬車を降りるなり、大きく両手を広げて渓谷の澄んだ空気を吸い込んだ。


その名の通り、渓谷の入り口にはうっすらと幻想的な白い霧が立ち込めている。未知の景色に目を輝かせるメルは、すでに大鍋の焦げ付きのショックを通り越し、新しい素材への好奇心で胸を躍らせていた。


「メル、はしゃぐのはいいが、俺の側を離れるなよ。ここは未開の地だ。何が飛び出してくるか分からない」


そう言って、リュカはごく自然な動作でメルの小さな手を自分の大きな手で包み込んだ。


ぎゅっ、と少し強めに握られたその手に、メルはドクンと心臓が跳ねるのを感じる。


「あ、う、うん……ありがと、リュカ。でも、私もう子供じゃないんだから、そんなに強く握らなくても迷子にはならないよ?」


少し赤くなった顔を隠すように、メルはもごもごと呟いた。


幼馴染みのリュカは昔から過保護だったけれど、最近はその距離がさらに近くなっている気がする。ただの幼馴染みなのに、手が触れ合うだけでどうしてこんなに胸が苦しくなるのだろう。


「だめだ。お前は珍しい草や魔道具の素材を見つけると、周りが見えなくなる。……それに、手を離すのは嫌だ」


さらりと、大真面目な顔で独占欲を口にするリュカ。

その完璧な横顔に、メルはそれ以上何も言えなくなってしまい、ただ大人しくその手に引かれて歩くしかなかった。


「はいはい、ごちそうさまなの。まだ旅が始まったばかりなのに、ポポはお腹がいっぱいなの」


2人の後ろをトコトコと歩くポポが、短い尻尾をふりふりしながら呆れた声を出す。


「それよりメル、見てみるの。あそこの川の浅瀬に、何かきらきら光るものがいるの!」


「えっ? どこどこ?」


ポポが指し示した渓谷を流れる清流に目を凝らす。

するとそこには、七色に輝く美しいウロコを持った、丸々とした魚が群れをなして泳いでいた。


「まあ……! あれって、古い文献にしか載っていなかった幻の汽水魚『レインボー・トラウト』じゃない!? 凄く良い出汁が取れるって噂の!」


「間違いないな。ギルドの図鑑で見たことがある。よし、メル、そこでポポと待ってろ。今夜のパエリアのメイン食材にしてやる」


リュカはメルにそう言い残すと、驚異的な身のこなしで川へと近づいた。


抜剣するまでも乗ぜず、愛剣の鞘を使って、水面をバシャリと一突きする。


「……捕れたぞ」


リュカが振り返った時には、その手に見事なレインボー・トラウトが2匹、ピチピチと跳ねていた。ギルドの一流冒険者の戦闘技術が、完全に「今夜の夕食の調達」のためだけに無駄遣いされている。


「すごい、リュカ! さすが私の幼馴染み、世界一頼りになるわ!」


パッと花が咲いたような笑顔で駆け寄ってくるメルを見て、リュカは満足そうに口元を緩めた。ギルドの誰もが恐れる冷徹な若手実力者は、彼女の「世界一」という言葉だけで簡単に極上の笑みを浮かべるのだ。


「これだけの食材が揃えば、あとは『研磨の星砂』を見つけるだけね。よし、早速渓谷の奥へ進みましょう!」


「ああ。……だが、霧が少し濃くなってきたな。ポポ、案内を頼む」


「任せるの。ポポの鼻にかかれば、お宝の場所なんて一発なの!」


ポポは胸のふかふかな毛を張り、くんくんと鼻を鳴らしながら、白い霧の奥へと2人を先導し始めた。


川のせせらぎと、時折響く小鳥のさえずり。


未開の地という危険な場所のはずなのに、3人の間にはどこまでも穏やかで、温かい時間が流れていた。


しかし、目的地である渓谷の最深部――『研磨の星砂』が眠る洞窟の入り口にたどり着いたその時。


霧の向こうから、ゴゴゴゴ……と不気味な地鳴りのような音が響き渡り、2人の前に「想定外の影」が姿を現したのだった。

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