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第40話 くり返すデジャヴ


 きーんこーんかーんこーん


 きーんこーんかーんこーん


 がやがやがや……


 ーーノエマが

 『 私立オラーティオ・サンクタ高等学園 』

 に編入して、はやくも数ヶ月の時が経った。



 『平穏で刺激的な毎日。』

 

 『見るもの感じるもの全部が新鮮で。

 ミノリやハガネちゃんとの何気ない会話も』

 

 『すっごく楽しくて。』


 『なんだか、このままずっと三人で、こうやって学校で楽しくできたらなあ。心からそう思う。』



 だが、そんな穏やかな毎日にも、ひそかに綻びが生まれ始めていた。


 ノエマ自身はまだそれに気付いて

 いないだけで。


 それはある日の授業で--



 こつこつこつ………かっ


 それは、白いチョークで黒板に書かれた文字が、ノエマには全く見えなかったことから始まる。


 ごしごしごし……と目をこするノエマ。


 『あれ?なんて書いてあるか、

 全然見えないな』


 フィデリスの血をひくノエマには、『 電子的な光子文字 』や、同じ『 フィデリス人同士の意識 』ならば簡単に読めるのだが、こうした『 地球由来の素材 』で作られた『 チョークなどによって書かれる文字 』はとても見辛かった。


 そして彼女の頭には授業の内容がまったくもって入ってこなかったのである。


 「ふあ……」


 「リュクシエル君!また欠伸ばっかりして

 夜更かしばっかりし過ぎるじゃないよ。

 まったく君は……」


 「「「ははははは〜〜〜!!」」」


 「はっ、はい!ごめんなさいっ……」


 『あ〜もお!色んな音がして

 頭が痛いよ。』


---


  授業が終わってすぐの休み時間に、

 ミノリが心配して来てくれた。


 「ノエマ、やっぱ寝不足?」


 「ミノリ……わたし……」


 「こくばんに書いてある文字が全然見え

 なくて……」


 「ほう!それでか。」


 ぽん!と手を打つミノリ。


 「待ってよ〜」

 「じゃあ、これは?」


 ぽちぽちーっとミノリが薄型端末の画面を

 ノエマに見せる。


 「?」


 「ふつうに読めるよ?」


 「……たぶんそれ、あんたの特性だね。」


 「当分は、あたしがなんとかするわ。」


 「あ、ありがとう!ミノリ。」


 そして、またあくる日には--




 体育の授業中。


 体育館では男女混合でバスケの試合が

 行われていた。


 キュッ! キュキュッ!


 どむどむどむっ!


 どむ。ヒュッ


 パシ! 「ノエマ!いくよっ!」


 ひゅっ がし。


 ミノリからパスされたバスケットボールを掴んで

 ノエマがジャンプすると--


 ぴょんっ!!!


 その時、ほんとに軽く床を蹴ったつもりだった。しかし次の瞬間--


 視界はあっという間に体育館の天井付近まで上昇して……


 ……がっつんっ!


 ボールを持ったノエマは体育館の頂点に頭を強打して自然落下する。


 ひゅーーーーーー


 どさ。 ころころころん……


 「「「……!!!?!?」」」


 ぴーーぴーーっ!ぴーーーっっ!!!


 ざわざわざわ………

 ざわざわざわざわ


 体育教師は慌ててホイッスルを鳴らし、試合は一時中断される。ノエマの無事を心配しざわめき出す他の生徒たち。


 たったったった!


 「ねえ!?ちょっと!!だいじょぶ?!

 ノエマ?」


 鼻血をたらして仰向けで倒れた

 ノエマの安否を確認するミノリ。


 「あたたた……ミノリ……ごめん。」


 「体は全然だいじょぶだよ。わたし頑丈だから。でもちょっと……加減が出来なかったかな……?」


 「はああ〜〜〜びっくりしたあ……」

 「は?!普通なら骨折とかの高さだったよ!?」


 「ああーそんなことより!とりま保健室いこ。

 ほれっ乗れ!」


 「あいたたた……ミノリ、ほんとにごめんね。」


 ノエマは自分より小さいミノリの背中におぶさり、保健室へと向おうとミノリは己に喝を入れて言った。


 「だあ〜〜〜!!こんなもん気合いだっ!!!」


---


 そして、保健室から包帯ぐるぐる巻きにされて帰ってきたノエマをたまたま発見した体育教師が


 「で、大丈夫だったの?……の前に、

 危ないよ!」


 「はい。なんともなかったです。」


 「ほんと今度からは無茶しないで、

 気をつけてね?リュクシエルさん」


 「はい先生、ごめんなさい……」


 『わたしは、その後で少しだけ

 一人で泣きたくなった。』


---


 きーんこーんかーんーー


 そしてまたある日のお昼休みの時間。


 「ふはああぁ〜………」


 つんっ!


 「あで!」


 「なあ〜に女子高生が深い溜め息ついちゃってん

 のよ!幸せにげちゃうよー?」


 「ほらっ一緒にお弁当食べよ!ノエマ。」


 「んん〜?なんだ……ミノリか……」


 「なっ!?なんだとはなんだ!!……

悩んでないで話してみっ!てかまず見てほら。

じゃーーーん!」


 「わあ……すごいきれい……

 ミノリお料理うまくなった?」


 「ま……まーね!ほれほれ、特別に一口

食べさせたげる。あ〜ん……あ?」


 数名の男子が羨ましそうに目を輝かせ、ミノリとノエマの二人を指をくわえて見つめていた。


 ぱくりっ


 「ふ〜〜〜ん!おいひい!!」


 「でっしょお〜〜〜?さっすがミノリちゃん!天才と美少女。そして華の女子高生の三拍子を兼ね備えるもはやスーパーウーマンっ!」


 ミノリがへんなポーズをして見せる。


 「ほら、ノエマもお弁当出して

 一緒に食べよ。」


 「うん!ーー


 すると視界がだんだん大きくブレて、

 ミノリの手元が白くかすんでいく


 瞬間、意識が途切れて---


♦︎♦︎♦︎


 栗色の髪をした少年は照れながら笑った。


 ーーまただ。 

 いつも同じ『 知らない少年 』の夢


 少年の笑顔は、少女がこの世界で初めて感じた

暖かい火のようだった。


 ---は、どうしてもそのまま黙っていられなくなってついに、言葉が口から飛び出す。


 「……あ、あのさ!」


 びくっ!とノエマは小さな肩を揺らす。

 聖堂の空気が、少しだけ緊張した。


 「え?」


 ---の言葉はもう止まらなかった。


 「お、おれさ、……あんまり頭もよくねえし、

 正直言って!この世界やばい気しかしないん

 だけど……!」


 彼は左胸を押さえながら、

 ぐっと少女を指さした。


 「と、とりあえずっ!!こ、ここで

 一緒に暮らさね!?」


 「だって……一人よりは二人の方が

 絶対マシだし!!」


 砂漠の夜に、ちょっぴり情けない声が

 響きわたった。


 「………」


 ノエマは瞬きをした。

 そして小さく首をかしげる。


 「……いっしょにいるの? ここで?」


 「う、うん!!」


 ---は思わず胸を張る。


 「てか、ここしかねーし!外、砂漠だし!」


 「心細過ぎるし!!……あ、いや!ごめん。

何いってっか自分でも良く分かんないんだけどさ……」


 叫んだあとで、少年は耳まで赤くする。


 「その、ノエマも……

 ずっと一人でここにいたんだろ?」


 「だったらしばらくさ……しばらく!

 おれと一緒にいよーぜ!!」


 そう。


 その子がしたへんなポーズを見て、わたしは可笑しくて、笑い出すのを必死に我慢していた。


♦︎♦︎♦︎



 ………マ



 ……エマ!



 「ノエマ!!」


 「わっ!!……あれ?!ミノリ?」


 「どしたの急にまたぼーっとして。ほんとに悩みあんならなんでもあたしに話しなー?」


 「あ〜もーっ!おかず冷めちゃうから

早く食べなきゃ!」


 ミノリは彩豊かなお弁当を、

 男子顔負けの勢いで食べていた。


 『夢……みてたのかな?』


 『また同じあの男の子のこと……考えてるの?』

 『わたし……』


 少年の灰青の瞳は、どこかで見たことがある気がして。ノエマの胸の奥で、それがずっと消えずに残っていた。


 ミノリのへんなポーズと、名前も知らない幼い男の子の姿が重なって。


 ノエマは心ここにあらずな様子で、今朝作ったサンドウィッチを口に入れたまま、ずっとその男の子のことを考えていた。


♦︎♦︎♦︎

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