第39話 あなたはだれ?
ぽた。
ぽた……
ぽたっ。ぱああ
「わっ!!冷たっ。」
冬のある朝。学校へと向かう途中で。
近所の家の屋根にできた氷柱からノエマの頬へ水滴が落ちる。そしてほっぺたが一瞬だけ淡く光る。
「っと。だめだめだめ!!ノーカン!」
「???」
「ノエマ、外出るときはほんとに
気をつけないとだねー」
「え?なんで?」
「だって、あんた光るんだもん。」
「ミノリ……そーいえば、『 あれ 』
ってなに?」
と、屋根に大きくぶら下がった氷柱を
指すノエマ。
「あーノエマこーゆーのも初めて見んのか。
んとね〜。あれは『 つらら 』っていうんだよ。」
「パルスマグナの冬の風物詩!……そんな風に思ったことはないんだけどさ。」
「『 つらら 』……なんかとんがってて
きれいだね。」
ぽたっ!
「ひゃっ」 ぽわ〜
ノエマの肌が再び淡く光る。
「だあ〜!!ほらっ!誰かに見られたら
やば……あ」
「はっハガネ?!」
「……もしかして今、見ちゃったかんじ?」
「…………」
すたすたすた
「いやいやいや!!ちょっと待てーーーい。」
ものすごい速さでハガネの進路をふさぐミノリ。
腕をぱたぱたさせてる姿がなんか可愛い。
「ハガネ!これには色々複雑で宇宙的で超難解な難しい理由があって……!!」
「ミノ……ノエマって……」
ハガネの次の言葉に
息を呑む二人。
「なに者なん?」
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学校帰り。
近所のカフェに立ちよった三人は、窓側のテーブル席に座り、まるで企業面接のような緊張感をただよわせていた。
「んっ!うぇっ……ごほっげほ!っごほ。」
「えー……ではまず、先ほどの件ですが……」
面接官ミノリは咳き込みながら、向かいに座っているハガネにそう言った。
「お、おお……」
「実はねハガネ……ノエマはーー
「惑星フィデリスって星の異星人なのっ!」
と、ノエマが面接官の話を遮って先に言った。
すかさず、ごまかすミノリ。
「ノエマ……!!ちょっと……!」
「声のボリューム少し下げて……!!」
「あっ……!ごめんミノリ。ハガネちゃん、
わたしね、今からずっとずっと先の未来からきた
『 うちゅうじん 』なの。」
「ノエマ……それってまじ……なやつか?」
こくんと小さく頷くノエマ。
汗だくのミノリが言う。
「まっ……まあそうなんだよね〜!公園でぼろぼろだったノエマを、あたしがたまたまみっけてさあ。」
「……そのあと勝手に家に連れて来ちゃったって……そーいうわけなのよ……」
「そか……」
と、腕を組んでしばらくなにかを
考えこむハガネ。
「…………」
すると突然、カッ!!と目を見開いて
ハガネが言った。
「ノエマ、ミノリ」
「この後ちょっと私ん家、寄ってかないか?」
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がちゃっ
「ただいま。」 「おっす中坊ー!」
「ん?」
「お、姉貴じゃん。おかえり!げっ、ミノリもいんのかよ……あ?あとは、って……外人!?」
ぺこっ
と、玄関でおじきをしたノエマが
その少年に丁寧なあいさつをする。
「はじめまして。ノエマ・リュクシエルと
いいます。おじゃまします。」
少年は、ノエマの深く透明な翡翠色の瞳に
吸い込まれそうになって焦った。
「お!押忍……あ、姉貴ちょっ……
ちょっと……!!」
その赤髪のやんちゃそうな少年は、ハガネの耳元でなにかをごにょごにょ伝えると、そそくさと部屋に入って行ってしまった。
「あれ?わたし、なんかへんだったかな……?」
「いや、ちがうな。」
すかさずハガネが答える。
「?」
「ノエマ……まず、あいつは私の弟の
『 ベリル 』だ。あの……な?」
「あいつ、ノエマが美人過ぎて人見知り
したみたいだ。それに」
「「それに?」」
ノエマとミノリが口を揃えて言う。
「あー……あれだ。こほんっ。つまりだな……
その……ノエマの胸が……」
「てか私にそんなこと言わせんなっ!!
なんか……こっちまで恥ずい。」
「ええぇ……?!」
「おっふ。さっすが思春期!中二病真盛り
ですなあ〜」
ノエマの肩を小突き、意味ありげな視線を送るミノリと、照れながらそっぽを向き、あくまで我関せずを押し通すハガネ。
ノエマは始め二人の態度や、言葉の意味が分からなかったが、途中で「は!」と気付いて赤面した。
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きいっ
ハガネが自室のドアーを開けると--
「わああ。すごい……」
ハガネの部屋は全体的に黒くてダークでシンプルな感じで、広さは12畳ぐらい。
複数のモニターがある広いPCデスク。ソファやベッドには、ところどころにレースが付いててすごく可愛い。
まわりには見たことがない機械や端末があって。宝石をあしらった写真立てには、仲の良い幼い姉弟が映っている。
特にノエマの目を引いたのは
「ハガネちゃん!これ、なんていうの?」
「おー、これか?」
「これはこないだゲーセンでとった
『 サタナスちゃんのぬいぐるみ 』だ。」
「ああ、ノエマそれ。あたしもカバンに
付いてるよ。ほら」
二人が言う『サタナスちゃん』とは一体なんなのか。ノエマはそれが気になってしょうがなかった。
「すっごく……かわいい……」
「そんなにか!?待て、確かまだこの辺に……!あったあった。」
ぽんっ! はし。
「っとと。」
ハガネが投げてよこしたそれをキャッチしたノエマは、翡翠の瞳を明るく輝かせた。
「それさ、同じの持ってるから。
ノエマにやるよ。」
「え!?良いの?ハガネちゃん、ありがと。」
ノエマは『 サタナスちゃんのアクキー 』
をGETした。
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「で。本題なんだが……。」
ゲーミングチェアに深く座り直した
ハガネが言う。
ミノリはベッドで漫画を読んでくつろいでおり、当のノエマはハガネと向かい合ってソファに座っていた。
「うん。ハガネちゃんは
わたしの何が知りたいの?」
「あ、私か?うん。……そーだな……」
「記憶喪失だってのはミノリに聞いていたんだが……ノエマはその……どこまで覚えてんだ?」
ハガネは丸メガネをかけ、ノエマを傷つけまいと慎重にそう聞く。
「記憶か……んーとね。」
「……私はもっと、んーっと。今より体が
ずっと小っちゃかったの。」
「それで最初に目が覚めた時、なんにもおぼえてなくって」
「それでね?わたしがいたのは広い砂漠のなかにあった『 龍の神殿 』って呼ばれる建物だったの。」
「『 龍の神殿 』?……砂漠……」
「うん。それでね。目が覚めたその夜に、
……あれ?」
「その後だれと会ったんだっけ?」
「ノエマ、まじで無理はしないでくれ。」
「話せるとこだけでいい。」
「あっあれ?ごめんね……おかしいなー?
それから……」
「そう!フィリム!」
「砂漠でおもちみたいなフィリムと会ってね。
その時にケガしてたから、わたしどうにかしなきゃって思って……」
「なんとか、フィリムのケガは治ったの。」
「あとは……フィリムと一緒に失くなった記憶を探しに、おっきな木がたくさん生えてる場所に行ったよ。」
「そしたら急に地面の下に落っこちちゃって。でも、フィリムが助けてくれて……」
「わたし、『 だれ 』とあんなに色々がんばって、扉を開けたんだっけ?」
「……たくさん笑って……泣いて……
それから……」
その『 だれか 』の顔を思い出そうとすればするほど急に呼吸が早く、胸が熱くなって両手が震えだす。
「あれ……?なんでだろ。涙止まんないや。」
そう言って笑うノエマ。
ハガネは一瞬、ノエマの頬の光に見惚れた。
「ノエマ……今日はもういい。
いきなり色々聞いてわるかったな。」
「私さ、いちおう『 天文学部の部長 』やってるし、なんか手助けできないかって……そう思ってて。」
「あー……なんかうまく言えんけど、もし困ったら、そん時はいつでも頼ってくれよ。」
ハガネはそう言って、サタナスちゃんの顔がプリントされたハンカチを、ノエマにそっと差し出した。
「あーあー!ハガネがノエマ泣かしたー!」
「……っく。うっせーな!だから、
ちゃんと謝ったって!」
「ハガネちゃん、ミノリ」
急に押し黙ってノエマを見る二人。
「わたしは、全然だいじょーぶだから!
けんかしないで?ね?」
「ハガネちゃんにもミノリにもまた、話せたらきっと……ちゃんと話すね?」
ノエマはそう言うとハガネの『 サタナスちゃんぬいぐるみ 』をきゅっと抱きしめて笑った。
彼女の頬を伝って落ちた一粒の涙が、サタナスちゃんに当たって、ぬいぐるみまで泣いているみたいだった。
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