第35話 はじめてのコロッケ
ぽんっ。(判子を押した音)
「ふぅ。……ノエマちゃん。」
どきどきどき……!
「それじゃあ、あなたもこれで………」
「正式にわが
『 私立オラーティオ・サンクタ高等学園 』
の一生徒よ!」
「しっかりね。そして」
「ようこそ!我が学園へ。」
ノエマは初めて地球の『 学校 』内にある書斎の様な一室で、立派な木製の机に座った理事長と静かに向かい合っていた。すぐそばにはミノリも付き添っている。
「この学校のモットーは
『 清く美しくあれ! 』よ!」
果物みたいな清々しい香りがするハンカチを、額にあてながらノエマにそう言ったのは、他ならぬミノリの母=『 オラーティオ高校の理事長 』を務めるリモネイ・ヴァンデミアだった。
「………!!」
ぱああ!と顔を綻ばせるノエマの背を、
急に叩いた付き添いのミノリ。
ばんっ!
「いでっ……なんで?!ミノリ?」
「やったじゃん!ノエマ!」
「あとは、あんたの住む家なんだけどさあ」
さすが親子。娘の話を自然に遮った
リモネイ理事長が言う。
「あのねノエマちゃん……
ミノリに聞いたんだけど……その……」
「少し言い方がわるいかも知れないけれど。
あなた、ご両親がその……いなかったのね。」
「それに……記憶喪失だなんて……」
「ああ!!も〜分かったわ!
ぜんぶ、おばちゃんに任せときなさい!」
「そう!それと、あなたの住むお家も
実はもう決まっているのよ?」
ノエマは直立不動のまま、理事長の言葉を待って
いた。すると先にミノリが言う。
「ノエマ!あたしん家のとなりに住みな!
ほんとはウチの物置だったんだけど……」
「片付ければ全然だいじょぶだからさ!」
「ええ??……ほんとに良いんですか?!」
ノエマがリモネイ理事長に向き直る。
「ええ。もちろんよ。家賃はー……
そうね。これからその体で払ってもらうわ。」
「!!?」
そう言ったリモネイ理事長は、ミノリとそっくり
な顔で不敵に笑った。
「ええーーー?!からだで……って?」
固まるノエマの様子を見て、
ミノリがすかさずツッコむ。
「ノエマ……あんた、
もしかしてへんな想像しちゃってない?」
「え?」
「あたしと一緒に『 バイト 』するんだよ。」
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「おかえりなさいませえ♪ご主人さまっ⭐︎」
「………」 べし!
「おっおかえりなさいませ……
ご、ごしゅじんさまっ!」
「ミノリ……もしかしてこの人って
すごくえらい人なの?」
フリルたっぷりのメイドコスチュームを着せられた、もはやその可愛いさが異次元Lv.のノエマはたどたどしい接客をしながら、先輩メイドに小さな声でそう聞いた。
うんうん。
と頷くメガネをかけた野暮ったいデニムにチェックのシャツをオールINした、小太りの常連客はとても満足した様子で言った。
「ミノリ様……こちらのプラチナ髪の麗しい姫
はもしや……」
「『 新人さん 』……なのでしょうか……?」
「はいっ!ご主人さま♡そうですよ?」
「今日から入った新人メイドのノエマちゃん
で〜すっ♪これから、やさしくしてあげてくだ
さいね〜!」
べし!!
「あだっ!のっノエマといいますっ!
今日から……よろしくおねがいします!!」
べし!!!
「ごっ……ご主人さまっ!」
初日から先輩メイドのパワハラに耐えていた新人メイドのノエマは、プラチナに輝く髪を揺らし、ぎこちない様子で常連客にぺこりとおじぎをした。
「きょっ恐縮です!!ノエマ様が超絶美少女過ぎました故、当方よもや感激の極地にござりまするうっ〜〜!」
そのオタクはその後もずっと幸せそうな顔を浮かべながら、二人のバイトが終わるまで店でクリームソーダを永遠に飲んでいた。
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「ノ〜エマっ!」
どんっ!
「わっ!もーびっくりしたぁ……」
「今日はミノリにたたかれてばっかり
だったなあ……」
「おつかれおつかれ!初バイトの初日は
どーだった?!」
「ううー……ちょっとつかれたけど、
なんかおもしろかった……かも!」
「はは!そか!まあ、これで『 帰る場所 』と
『 お小遣い 』は確保できたもんね。」
「んじゃ、帰りなんか食べ物買って一緒に
帰ろ〜!」
「ノエマほら!あそこのお肉屋さんの
『 出来たてコロッケ 』なまらやばいから!」
たったった!
「ほらーなにやってんのあんた。
早く行かなきゃ店終わっちゃうよー!」
「あ!……待ってミノリ〜!」
とてっ!たったったっ
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がちゃがちゃっ
ばたん!
「ただいまー!ノエマはとりあえず、となり片付くまでは、あたしの部屋に泊まんな。」
「あれ?お父さんも帰ってきてる?まじか。
ほら、寒いから早く入んなって!」
「う、うん!ありがと。」
『やっぱり……ミノリのお家はあったかい。ここはにおいも場所もぜんぶ、はじめてなのになんでだろ。すごく落ち着く。』
ぱたぱた
ぺたぺたっ
がちゃ
「あーやっぱりお父さんじゃーん!なんでいんの?仕事は?まさか……クビになった……とか?」
「ん?……おお!ミノリおかえりー。
クビって!そんなわけあるかい!」
「今日こっち戻って来たばっかで今、丁度一杯
やってたとこだ……って、あれ?友達か?」
現代地球の言葉っぽく言えば『 イケオジっぽい 』ミノリの父=『 オレガノ・ヴァンデミア 』が
ノリツッコミしつつそう答えた。
「そうそう!今度からあたしんちの物置……
じゃなくてとなりに住むことになったのよ。」
「そんで、お母さんに言って、あたしたち今日
から同じ高校に通うことになった!」
「ほう。そーかそーか。なんかまあ、色々あったんだな。まあ、となり片付くまでしばらくゆっくり泊まってって良いからね。で……えーと?」
「あっ……!ノエマ・リュクシエルと
いいます!おじゃましています。」
ぺこり
「リュクシエル……ん?なんかどっかで
………もしかして」
「「……っ!!」」
「外人さん?」
「まあまあまあ!お父さんいいから!んじゃ、あたしたちバイト明けで超疲れたから部屋もどるわ!」
「お……おう!ノエマちゃんも、気ぃつかわないでゆっくりしてってね〜」
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「ふーーーっ」
「まさかのお父さんにノエマが『 宇宙人 』だってそっこーバレたかと思ったわ……」
「ノエマ?」
「ねえ、ミノリ……昨日からフィリムが
いないの。」
「え?!あの宇宙王子が!!?」
「……それやべえじゃん。あたしぜんっぜん気
づかなかったわ……ごめん。まじで。」
ひょこっ
「「………!!」」
「フィリム!」
「あれ?でもどうして元にもどっちゃったの?」
「フィー!」
「ぜんっぜん、なんでか分からん。」
ぐううう………
「フィリムおなかすいたの?」
「フィ………」
ノエマがフィリムに、バイト帰りに余分に買っておいたコロッケを渡すと
ぴょんっ はむ
もしゃもしゃ
ごくん。
ぼんっ!!!
「出た!!宇宙王子!」
「ノエマ様……このとても美味しい
食べ物は一体……」
「フィリム、良かった。ん?これは
『 ころっけ 』って言うんだって。
おいしかった?」
「はい!なるほど……『 ころっけ 』と
いうのですね……ほんとうに美味しく
いただきました。」
「ノエマ様、ありがとうございます。」
「恥ずかしながらわたし、昨日はあまりにもお腹が空いていたもので……気付いた時には外に出かけておりました。」
「ちょっ待てーーーい!!!お二人さん!」
「「?!」」
「王子……じゃなくって、フィリム!まず、あんたのその『 変身 』はどうなってんのか説明して。」
「あと勝手にウチから出てったら危険すぎる
からやめて。」
「!! それはとんだご迷惑とご心配をおかけ
しましたミノリ様。では」
「わたしは……『 自分の惑星から離れてしまうと、常になにかしらの栄養を摂取していなければ、お腹が空いてしまって元の姿を維持できない 』のです。」
「昨夜もふらふらっと体が勝手に動いてしまい、ふとまた気が付いて、先ほどやっとここへと戻って来たのです。」
「お二人には余計なご心配をさせてしまい大変
申し訳ないことをしました。ごめんなさい。」
そう、恭しく片膝を着き、左胸に手を当てて謝る王子様みたいな見た目の異星人。
「王子……じゃなくてフィ、いやもうめんどいから『 王子 』でいいわ。」
「なんか……あんたも色々と大変なんだね……」
「でも二人とも『 未来から来た異星人 』だってことはみんなに秘密にしとかなきゃ、超まずいっしょ。そこんとこどーよ?ノエマは」
さくっ
もぐもぐ ごくっ……
「ふぇっ?」
「ごめん。わたし、ころっけに夢中で……」
ずこーーーーーーっ!!
「……ミノリ!?だってね?
ほんとにおいしくて……」
『それにね、ミノリ。
すっごく久しぶりだったんだ。
やさしくてあったかくて、それでなんか
お父さんが作ってくれた料理を
思い出せたから。』
「フィリムもあんなによろこんでた……
でしょ?」
「はいノエマ様。それは本当に。」
はあぁ……
「……あたしはあんたらの今後が
思いやられるよ………」
「まずは、ノエマと王子に『 危機管理能力 』
ってもんを叩き込まなきゃなんないからね。」
「あ!それとノエマ。まあ……あんたには王子がいるかもだけど。今日からあんたはもう--
『 ひとりじゃない 』んだからね。」
「わたしをどーーんっ!と頼りな!」
「ミノリ………」
彼女のその優しくて温かい言葉に、ノエマは忘れてしまった『 大事ななにか 』を、思い出せそうな気がした。
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