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第32話 叛逆者


 △▽ △▽ △▽


「すこし落ち着いてください……あなた……」


「アルテイシアはただ……あの子が愛した地球(アーズ)を救おうとしたのです。」


△▽ △▽ △▽


 惑星フィデリス。


 広大な肥沃地帯を治める王族=

 リュクシエル王家の一人。


 フィデリスの民からの人望も厚く、その美貌は比肩する者がいないほど、この世界で最も美しいとされる『 果実の王妃 』


 『 イリーナ=フルークトゥス・リュクシエル 』が、夫である王=バルトルートに向かって穏やかに話す。



 ガタンッ!!


 ばりんっ!……


 王がほんの少し動いただけで、

絵が入っていた額が床に落ちて割れた。  


「………!!!」

「……落ち着いてくれ……だと?バカな。結果としてこの惑星が崩壊しては本末転倒ではないか!あんな小さい惑星一つにこだわるなど、そんなものに意味はない!!」


 王『 バルトルート=ウィルトス・リュクシエル 』が立つ玉座の背後には、リュクシエル王家が所持している、『 三つの秘宝 』の一つ


 『 龍爪の剣アングウィス・グラジオラス 』が、まるで王の言葉に同調するかのように、圧倒的で神々しい光を放っていた。


△▽ △▽ △▽


 惑星フィデリスの王族だけが唯一持つことを許される『 三つの秘宝 』。それは、


 一太刀で宇宙を割り、新たなる銀河を数多生む『 龍爪の剣アングウィス・グラジオラス



 その本を一度手にすれば、宇宙誕生以前と精神が接続される『 龍の叡智ミッレ・サピエンティア



 未だ謎の多い『 別次元の宇宙 』からもたらされたと云われている『 最初の龍(プリムス・ドラコニス)



 その中でも『 最初の龍 』は、王女=アルテイシアが地球へ渡った際に持ち出した『 龍の紋章が入ったペンダント 』だった。



 『 最初の龍 』に人為的に組み込まれた『 原初の記憶 』は、貴重な地球の記憶を記録した物で。それはただの王家の象徴などではなかった。



 『 原初の記憶 』。それは宇宙の遺伝子情報を全て記録し、惑星フィデリスの心臓部である『 禁域 』を制御するための重要な装置でもあった。



 アルテイシアはその力を利用して、『 地球の滅亡 』をなんとしても回避しようとしたのだ。



 そして、彼女が突然それを持ち去ったことにより、『 禁域 』に残された『 幻環システム 』はコントロールを失い、暴走を始めていた。


△▽ △▽ △▽


 王=バルトルートの威圧感にも臆することなく王妃=イリーナは静かに目を伏せて言った。


「……あの子は『 原初の記憶 』のなかできっと見たのでしょう。……あの『 青く美しい惑星の結末 』を。そして未来も過去もすべて膨大なビジョンとして。」


「観測者としての宿命が彼女に『 地球の夢 』を見せたのです。」


 バルトルートは百獣の王のように唸る。


「ぐぬぬぬ……観測者などと!!……忌々しい。我がリュクシエル王家の血に流れる『 呪い 』とも言えるあの力か。」


「呪いなどという忌まわしいものなどではありません!それは選ばれた者にしか与えられない『 真実を見通す純粋な力 』なのです。」


 王妃の瞳には、深い慈愛があった。


 それは王女であるアルテイシアの母として。

 そして、王妃としての『 彼女自身の強い意志 』の表れであった。


「アルテイシアは自分の身を犠牲にしてでも『 地球を救おうとした 』のです。宇宙も……この惑星さえも。そして……自分の娘を。」


 王妃の言葉に、バルトルート王の表情が凍りついた様に固まる。


「娘……だと…?!」


 バルトルート王は言い返せなかった。


 イリーナ王妃が言ったその言葉は、未来に現れる『 惑星を夢から呼び醒ます者 』の予感を王にもたらした。


「はい……あの子の娘は『 地球 』で生まれ、リュクシエルの血を継ぐ『 次世代の神子 』として、アルテイシアから未来を託された。あの子こそ真の───


 その瞬間

 幻環が爆ぜた──


△▽ △▽ △▽


 爆心地の真上には、『 深い闇色の球体 』が浮かぶ。そこに惑星フィデリスの民の大半が吸い寄せられ、

 

 やがて『 影 』が溢れ出し、光でも闇でもない無数の『 歪な人型 』が現れる。それは『 観測者の影から生まれる反転の存在 』だった。


△▽ △▽ △▽


 王城の参謀たちがその事態に怯む。


「「「………!!!」」」


「な……!」


「フィデリスで今、何が起きているんだ……?!まさか……幻環システムがついに崩壊したとでも言うのか!?」



「それは少し解釈が違いますね。」



「「「………!!?」」」


???

「つまり、『 前任の観測者 』アルテイシア=ノエシス・リュクシエル王女が、その『 一つの秘宝 』と、

この惑星を制御していた『 イニティウムコード 』を持ち去り地球へ渡ったことで」


「『 幻環 』が機能しなくなり、そして『 宇宙の均衡 』が瓦解し、

僕たち『 観測者の影 』、『 否定者(ネガティオ) 』が解放されてやっと自由になったんですよ。」


 リュクシエル城内。


 ステンドグラスの大窓の縁に座って、足をブラブラと揺らしながら、逆光の中でその影が重く呟く。



「貴様ァッ!!!そこで何をやっている!!一体どこから入ったんだ!!!」


 一人の騎士が腰の剣に手を当てて言い放つ。彼の周りにも数名の騎士たちがいて、『 影の男 』を警戒し同じ様にする。


「アハハハ!……まあ、皆さんそう、あんまり慌てないでくださいよ。」


「なっ何ィ……!!!」


「リュクシエル王家の『 秘宝 』はすでにこの惑星から完全に消えた。『 原初の記憶 』も今や外宇宙へと流出してしまった……」



「じゃあ!僕たちが追わなきゃですよね?お土産に『 秘宝 』と『 王女の首 』は必ず僕が、このフィデリスに持って帰って来てあげますよ。」


 その『 影をマントの様に纏った男 』の冷たい声を聞いた兵士達は震え上がり、絶望感に打ちのめされた。


 王バルトルートが何事かと駆けつけ『 龍爪の剣 』を抜き、剣気を募らせる。しかし──


 『 影の男 』をその眼で見た王は背筋を凍らせた。


「お……お前はたしか……アルテイシアと馴染みの……」


「ぐぬう……アルテイシアには貴様の髪の毛一本触れさせんぞ……!!!」


 遅れてバルトルート王の後ろに到着した王妃イリーナも、無意識のうちにドレスの袖口を強く握りしめていた。


「あの子はまだ何も知らないのです!未来の娘のことも……何もかも。」


 その『 影を纏った男 』は、窓枠からひょいっと城内の中空へと浮かび上がり、瞬く間に彼の背後には次々と『 黒い影達 』が並んだ。



「おい、アルトゥス。そろそろ行くぞ。観測者の血筋を追う。」


「奪われた宝物とお姫様の首を、ここに持って帰るため……」


 

「はあ……まあまあ、お二人とも。時間はまだありますから。そうそう!」


「これは王様、お妃様ご挨拶が遅れまして。

僕の名は──



   「アルトゥス=テネブレ・ノックス」


「ホント、お久しぶりですね。ちゃんと僕のこと覚えててくれてました?まあそんなことは、どうでもいいか。」


「それじゃあ、行って来ますね。」


 影をマントの様にひるがえした男──

『 アルトゥス 』は、かつてアルテイシアが慕っていた幼馴染の一人の青年だった。



「マドリッド、ガイウス。準備はいいね?」


「ああ。」 こくんっ。



「では父上。」


ズンッッッッ………!!!


 その瞬間。


 城内の空気が一段と重苦しくなった。


 その場に集まっていた騎士達全員が剣を落とし、胸を押さえながら苦鳴を上げ床に倒れた。王と王妃だけを除いて。


 そして、目の前に突然現れた『 黒い球体 』からそこに姿を現したのは───



 『 宇宙の闇 』を一身に纏ったかの様な、『 大柄で長い白髪を一本に結えた男 』だった。


「……バルトルートよ。息子が無礼千万な発言をしたな。どうか私の顔に免じて赦してやってくれるか。」


「私も昔は君に世話になった。だが」


「今日この刻を以て──」



   「我ら否定者が宇宙を蹂躙する」



 「アウァアアールスゥウウウッッ!!!!」


 守護者、友人、幼馴染、従者、悪友たち。


 昔から良く見知った顔触れが。かつて王国を共に支え、笑い合った者たちが。


 その全てが影を纏いノイズの仮面をかぶった『 新たなる否定者 』となった。



「アルトゥス。お前達は『 真の観測者 』の足跡を追え……そしてその娘……いいや……」



「その神子を捕らえよ」



「私は手始めに『 龍爪の剣 』を

回収するとしよう。」



「その他の者は『 宇宙秘密警察組織(ベルクサクルム) 』に潜り込め。そして、

王女は確実に捕らえるのだ。その後のことは……好きにするがいい。」



「いいな」


「「「「は!!!!」」」」


 否定者たちは光も音も残さずその場から消えた。



 否定者を束ねる一人の男=

『 帝王・アウァールス=アッフェクトゥス・ノックス 』その人を除いて。



 奴等が向かう先は一つ



 惑星フィデリスから46億光年先の

 『 青い惑星=地球 』

 だった───


△▽ △▽ △▽


 城内は闇色と静寂に堕ちた。



 ………ぽた



 ……ぽたぽたっ


 王バルトルートのその逞しい首すじからは血泡が床に流れ落ち、かつての『 旧友だった男 』の片手に首を掴まれ、屈強な巨体が宙に浮いていた。


 王妃イリーナはヒビ割れた床に倒れ伏し、祈るように自らの手をその胸にあて、そして願った。



 『 アルテイシア……あなたの娘がどうか、この惑星……いや……『 宇宙 』を救えるように。 』



 その祈りは、遠い銀河をいくつもいくつも飛び越えてやがて届く。


 光の速さでさえ追いつけないその祈りは、やがて流星群となり、まだ見ぬ『 孫娘ノエマ 』の遙か頭上、『 地球の夜空 』へと降り注いだ。



△▽ △▽ △▽

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