幕間 プロローグ❷因果律
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その瞬間、彼女の意識はいくつもの『 時間 』を超えた。光の粒が頭の中で跳ねて、彼女はたくさんのビジョンを見た───
青い惑星
「地球………。」
「あ、これ昨日、本で読んでたやつじゃん………」
荒れ狂う海。生命の誕生。微生物の鼓動。恐竜の喧嘩。焚き火を囲む人々のにぎやかな笑い声。
みんなでめっちゃでかい毛むくじゃらの動物を追いかけまわしたり、木の実を集めた。
円状に大きな鉱物をならべてお祭り騒ぎ。
「フゥ!たーのしそー!」
地面に突き刺さる、謎の黒い長方形の物体。
銀色のお皿みたいな大きな乗り物が、光の速さで宇宙を飛んで行く。
窓から誰かが手を振ってるのが見える!
海底火山の噴火。地響きに怯える動物たち。
夜に紛れて、遠くの誰かに言伝を伝えるみたいに聞こえた遠吠え。
月が消えた夜。海の満ち引き。神秘。
失われた超古代文明。海に沈んだ永遠の楽園。
核戦争の炎に飲まれて崩れ去る、大きな建物。
たくさん。
砂に埋もれた都市。讃美歌。「きれい。」
あなたといた場所。生活の残り火。
深い闇の中に、泡のように溶けていく人々の悲痛な叫び声。涙のあたたかさ。
「あなたがくれた、ぬくもりが愛おしい。」
生命の螺旋。生物兵器。それでも、
私は生きていたい。
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「これが……新しい地球なの?」
『 四角錐のアレは、あなたの故郷の言葉でなんていうの? 』
「そう。『 ピラミッド! 』
なんだかヘンなひびき。」
私は砂漠の上でだって、どんな場所からでも芽吹く。強く。根を張る。いつまでも。どこでだって。生きるのを辞めない。
ドクドクと身体じゅうを巡るこの血は、大地の毛細血管を通って、その先で開花する。だから決して、諦めない。
みたこともない色の、名前も知らない可憐な花々が一面に咲く。
季節と言う奇跡をくり返しやがて、その花は散っていく。未来に種を蒔いて。だけどこの想いは誰にも、消せない。
めまぐるしく変化しては幻のように消えていく光景が、彼女のまぶたのうらにくっついて離れない───
「……すごい……これが、イニティウムコード。
地球が見続けた……夢……なの?……。」
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彼女の胸は熱を帯びる。
生まれ育った故郷リュクシエルでの平穏な日々。家族や友人と交わした他愛のない会話の数々。
いくつものあやまちや後悔。子どものころに見た宇宙を冒険する夢。
「……ん?」
「良い香り〜……焼きたてのパン……と」
「あっ! 野菜のスープかな?」
見知らぬ男性のやさしい微笑み。
目をくしゃっとして笑う、彼の素顔がなんだか可愛らしい。
温かな家の中では、幼い少女がにっこり笑っている。
その娘のほっぺには、パンくずがくっついてる。
その愛しい女の子の名前を、私はまだ知らない。
『あれ?でも……なんで……?』
『こんなになつかしくって……うれしいんだろ。』
その幼い少女がわたしに振り返る。
翡翠色のまん丸の瞳。小さな唇。
そして驚いたように、私を見上げる。
『……あなたは……だれ……ですか?』
光の中で反響するその娘の声は、まだ生まれてもいないはずの、『 最愛の愛娘 』の声だった。
「……そっか。あなただったのね。」
「あなたが次の……観測者に……なるのね。」
「この光の中でいつかきっと、それを──
堪え切れずあふれ出した涙は、無重力の中で屑星のように浮かんでやがて散っていった。
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......
...
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計器が乱れ、アルテイシアを乗せた小さな船体が揺れる。光転航路の外縁に、巨大な黒い艦影がぬうっと現れた。
「アルテイシア・リュクシエル最終通達だ。お前のその行為は星系法によって固く禁じられている。ただちに停止しろ。さもなくば撃つ。」
「……ごめんなさい、でも………
私は、止まれない。」
彼女は小型宇宙船のレバーを
めいっぱい強く握りしめた
瞬間───
ゲート壁面が激しく明滅し、光と音が混ざり合って小さな船は光速をも超える。
船体は大きく揺れ、ビームが交差し、時間や空間そのものが激しく軋んだ。
アルテイシアの小型宇宙船は被弾し計器は壊れ、アラートがずっと鳴り響いてる。
しかし
彼女は微笑んだ。
「見ていて。これは『 観測 』の始まり。
あなたが地球の夢を見るその時
すべての記憶は、きっと還るから──
彼女の声が最後のパスコードを唱える。
「プリムスドラコニス!!!」
「地球ヘ」
「転送開始ッッ!!!」
黒い閃光が割れるように走る。
銀河が、星々が、宇宙が。
一つの線になって、
アルテイシアの船は一瞬で光に包まれた。
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光転航路が完全に閉じた後
残光のなかでまだ見ぬ幼い愛娘の笑い声が
アルテイシアには確かに聞こえた。
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