第24話 夜に輝く宝石
「どうやらここは」
「すごく古い遺跡みたいだね……。」
「『 龍の谷 』っていうのよ。」
「えへへ。私、物知りでしょ?すごい?
びっくりした?」
と、
すぐマウントを取って誇らし気にする、
自分よりも若い彼女の意見に、
プルーデンスはもちろん賛同した。
「アルテイシア……」
「一体君は……どこまで先の未来の出来事を……
知っているんだい?」
「今はもう、わすれちゃった。だけど……
あなたとノエマが元気なのは確かだから。」
「あんまりそーやって心配ばっかしてると」
「あなたの可愛いくるくるヘアーも、
すーぐハゲちゃうんだから!」
「っ?!」
「はは。君はちっとも変わらないなあ。」
「そうよ。私はずっと変わらない。」
「それに……」
「あなたは笑った顔が」
「一番素敵なんだから!」
ちゅっ
ふいに
彼女が背伸びをして僕の頬にキスをした。
その時
まるで
宇宙に新しい星が生まれた瞬間のように。
僕の中でその星が強く
明るく輝いたように感じた。
「………永遠にその顔になるように」
「またあとで設定し直さなきゃね?」
「……っ?!」
「あははっ!! なんか、ぜんぶ夢みたい。」
「ヘンなの!」
ガラガラガラ……!!グシャアッ!!!
突然、遺跡の一部が崩れ出す。
「……!! あなた、まずいわ」
「……追手がすぐそこまで来てる。」
「ノエマをお願い!!」
「あと、《《これ》》を持っていって……」
「《《この先にある場所》》で
《《光の中に入って》》!!!」
???
「居たぞ!!!!!!」
「アルテイシア=ノエシス・リュクシエル
だな。」
「探したぞ」
「大人しく我々に捕らえられれば、
貴様はフィデリスで安らかに死ねるだろう」
ノエマを抱き抱えたプルーデンスが
振り返るとそこには──
『 宇宙秘密警察 』
の一味が、アルテイシアの前に立ちはだかって
いた。
???
「・・・・・」
???
「ヘッ!超楽勝だったじゃん。つまんね。」
???
「クソが!また賭けに負けた……!!」
「こんな小娘が『 龍の心臓 』と『 原初の記憶 』をパクったヤツだったなんてな……拍子抜けもいいところだぜ。」
彼らの目には光がなかった。
そして、
重たくドス黒いまがまがしい空気を放っていた。
まるで彼らは、
僕たちとは決定的に違う『 全く別の存在 』
であるかのように。
「アルテイシア!!!!」
「あなた!!!! 行って!!!!」
「お願いだから……」
ベルムサクルムの一人が低く呟く。
???
「・・・話は、済んだか?」
『またね。あなた。』
『私の大好きなノエマ。』
『三人で過ごせた日を、私はいつも忘れないから。二人とも、これからもいっっっぱい幸せになってね?』
『ずっとずっとずっと。笑っていて。
もっともっともっと。先になるけど。
きっときっときっと。変わらないよね。』
『それでもまた』
『この世界できっと』
『私を見つけてね。』
『あなた──
『ドジで、のんびりしてて
ちっとも先生らしくない。
私の可愛いプルーデンス』
『ノエマをお願いね。』
『こんなダメなお母さんだけど』
『ノエマ』
『お母さんね?』
『宇宙がひっくり返っちゃうぐらい』
『大大大だーーーい好きだよ。』
『お父さんポンコツなんだから』
『いう時は言わなきゃダメよ?』
『私…………
二人と出逢えて、本当に
良かったよ──
「二人とも愛してる。」
アルテイシアの頬をひとすじの星が流れた。
それは彼女にしか聞こえないほど小さな小さな、彼女自身の最後の望みだった。
???
「・・・・・」
???
「はいはいはいはい」
「終了〜BADENDでした〜」
「ヒャハハハッ!!クソみてーな結末だったなあ!おおい!シラけるぜ、マジで。」
???
「終わりだな。」
バッガアアアアン!!!!!!!!!!!!!
激しい爆砕音と、青白い閃光が爆発して遺跡の天井と壁が崩落した。
その時、彼の心は粉々に砕け散って
そしてその光景を目の当たりにした
プルーデンスを───
「あ……アルテイシア?……」
「君……言ったじゃないか」
「そうだよ……」
「やくっ約束……したんだ」
「絶対失敗なんて……しなっ……いし……」
「大丈夫……だから」
「私に全部……まかせとけって」
「……こんなの」
「いくらなんでも冗談が酷すぎるよ」
「もう笑えない……よ」
「……あんまりじゃないか」
「そうだ……いつもそうだ!!」
「君は……ワガママで意地っ張りで……」
「子どもみたいにすぐ
マウントを取りたがって!!」
「そのくせ
僕がなにかに夢中になれば拗ねたり……
して……」
「もうウンザリしていたんだ……」
「す………て………」
「すべてすべて全て全てすべて全て全てえぇえッ!!!!!」
「僕が壊せばいいんだ」
すると──
真っ黒な何かがすうっと体の中に入って来た
心が闇色に染まっていく
ゾッとするほど冷たいそれは
僕の体や頭の中をすぐに支配した
そして僕を
───壊した。
「があぅぁああ ああぁ あぁああ!!!!!」
プルーデンスの両目は血走り、口の端からは黒い血の泡がぶくぶくと流れ地面に落ち、それが丸い跡を残していた。
ガガガガク……ガクガクガタガタガタガタ……
そして彼は、
近くに落ちていた瓦礫の破片を手に取ると、
思い切り自分の喉を掻き切った
何度も何度も
何度も何度も何度も何度も
だけど彼は死ぬどころか
首には傷ひとつ残っていなかった
「はは……あはははは……!!!!」
「たはははは!!!!」
「はあはあはあ……」
「げふっ!!げええぇ……!!」
「うええぇぇおあえぇ……げえぇぇぇ……」
その時
左手に抱いていたノエマのかけた言葉が
プルーデンスの心を明るく照らした。
そしてその小さな希望の光が
常軌を逸した父の行動を──
「お父さん?」
「あっちで……」
「だれかがよんでる」
──止めた。
すると僕の体から『 黒い影のようなもの 』が、スッと消えてなくなったんだ。
「あえ?ノ……エマ……」
「ノエマ……?」
「ノエマッ!!!」
「お父さんっ……ご、ごめっ……」
「ごめんっ!!!」
「お父さん」
「だいじょうぶだよ。」
よしよしっ
ぽたっ
「ノエマがっ……いるよ?」
ぽたぽたっ
「だっからっ……なかないで」
「わらって?」
ぼたっ
プルーデンスは父であることも
何もかもを全て放り捨てた。
まだ幼いのに
気丈に振る舞い
そして強く地面に立ち
そう父に言ってみせた
娘の前で崩れ落ちて
プルーデンスは嗚咽をもらしながら、
子どもの頃に戻ったみたいに
その後ずっと声が枯れるまで
娘の前で泣き続けた。
ノエマも体が震え出すのが止められなくなって、
父と地面に座り込んでただ、
強く強く二人で抱き合った。
そして二人の涙は
遙か遠い銀河を渡って
知らない星の夜に浮かび上がり
宝石のようにキラキラと強く輝いて
やがてだれかの祈りを一つだけ叶えたように
───流れ落ちていった。
△▽ △▽ △▽




