戦う理由
暗く、広く、黒い空間で自らを神と騙る男の話を聞く。
___超大型の天界、元々あった何かを補強する形で天界が降臨されている……
別に、さらさら戦う気などない。
ことこの場においては、奴の方が強かった。それだけの理由だ。
「せいぜい励め、最強」
「神に言われてもね。全てが皮肉に聞こえるよ」
転移が始まる。超高難度の上級魔法。
別に、さらさら戦う気などない。
俺はこれから行われるであろう戦いには呼ばれておらず、ただ偶然居合わせた傍観者に過ぎない。それだけの理由だ。
ことこのゲームにおいて、俺はただリベルを助けたかっただけなのだから。
転移をしたら、すぐに案内人とされている人間を殺して、自分も死ぬつもりだった。
この場に立つのは、俺じゃない。
空気があきらかに変わった気配を感じ、目を開ける。
何度も言うが、俺は転移したらすぐに、目の前の人間を殺すつもりだった。
「キング・ブラッド。悪いが……は?」
だが、そんなことができるほど、俺は俺自身の感情を律することが出来なかったらしい。
何故ならただ、目の前に立っているのが4歳の少年だったのだから。
*
目の前の少年は、ただ泣いていた。
母や父を失った悲しみで泣いているのか、これから始まるであろう戦いを予感して泣いているのかは分からないが、ただひたすらに涙していた。
降臨した場所は民家のリビングだろう。この少年の物と思われるヒーローものの玩具やゲーム、両親のものと思われるコーヒーカップが、まだ温かいまま残っていた。
手には戦隊ヒーローのソフトビニールを握りしめている。
自らをキング・ブラッドと称した天使が、困惑を隠しきれずに少年に問いかける。
「君の、名前は?」
問われてこちらの存在に気づいたようで、少年は顔を上げ、涙を堰き止める為に目を擦りながら答えた。
「の……み」
「え……っと、もう一度言ってくれるかい?」
「戸塚望」
望と名乗った少年は、涙を目に浮かべながら言う。
「お兄さんは、誰?」
「望か……良い名前だ。ありがとう。俺の名前はキング。キング・ブラッド」
彼の名前を聞くと同時に、彼に一つの義務が生じる。
為すべき事は定められた。俺は、この子を生かさなければならない
覚悟を決めたキングは、目の前の幼い子供に向けて宣言する。
「俺は君を守護る盾だ。そして君は願いを一つ、叶える事になるだろう」
あまりにも高らかに、あまりにも堂々と言葉を発するその姿に、望は幼齢ながら彼を信頼する。
望はもう理解している。母が、父がもう自分の元には帰らぬことを。
自分がもう、独りなことを。
「君の望みを、言ってくれ」
望は手に持っていたヒーローのソフトビニールを強く握り、天使に願う。
もう、誰もいなくなるのはイヤだという子供の願い。あまりにも素直で、あまりにも実直な……
「僕は、ヒーローになりたい」
*
このようにして、キング・ブラッドと戸塚望の物語は始まった。
王とヒーロー見習いの、未来を夢見る物語。
2人の男は駆け続ける。
たとえその未来が、血と絶望で塗りたくられていたとしても。




