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10/12

想い

 今日の日付は12月4日。


 11月24日に天使大戦エンジェルズゲームが開始されてから、10日が経過した。


 戦闘は、ルナとミランが初日に争った1回のみ。


 だが確実に、明確に、状況は混沌に向かいつつあった。


 春園(はるぞの)市に集った13の天使と、選ばれた13の人間たち。


 血染めの玉座につくために、道化師たちは動き続ける。


 それぞれの想いを胸に秘めて。


  *


「はぁぁぁぁぁあ」


 春園市南の閑静な住宅街。


 そこに、女性の発声が響き渡る。


 と言ってもただ徐に叫ぶのでは無く。規則正しく、秩序立っており、聞く者が聞けばそれだけで只者ではないと理解(わか)るだろう。


 その声の主、ルナ・アルテミスは傑物だと。


「ルナ〜、お昼ご飯だよ〜! 一緒に食べよう」


 木刀を手に刀を振っていたルナに、人間としての案内人、渡会歩夢(わたらいあゆむ)が声をかける。


「あゆむ!!」


 その声を聞くやいなや、ルナは刀を下ろしてあゆむに駆け寄った。


「うん。お疲れ様」


 先程まで動き通していたルナを労るとともに、一つルナに心配事を投げかける。


「家、大丈夫かい?」


 ルナは今、普通の一軒家の一階で鍛錬を積んでいる。


 修練のために部屋の壁を全部抜いたから、動きやすくはなっているとはいえ、民家なので上手い具合にはいかない。


「大丈夫。……だよ。確かに大きな動きはできないけど、ある程度は融通も聞くし……」


 そう言ってブンブンと剣を振るルナ。


 鍛錬するのはルナだから、彼女が良いんだったら良いんだけど……


「ま、家を変えるってこともできるから、場所を移したいなら言ってね。ルナの意見を尊重したい」


「そ、その時は遠慮せずに言うから大丈夫。だよ」


 ぎこちないタメ口で言うルナに苦笑しながら、君が良いならと話題を変える。


「そうだ。ルナも本当に頑張ってるわけだし、今夜、息抜きがてら遠出するのはどうだい?」


「遠くに、ですか?」


「うん。もう10日もまともに外に出てないからね」


「私は良いけど……いや、やっぱり心配かも。あゆむになにかあったら……」


「気持ちは凄くありがたいけど、僕だって外に出たい。もちろん、ただ遊びに出かけるわけじゃない。ルナは春園市の地図を読み込んではいるけど、実際に目で見て確認した方がより良く理解できるんじゃないかい? なにより食料品も補充したいし」


 つらつらと理由を並べたてる歩夢。そう言ってはいるが、歩夢は天使の恐ろしさを、さきの戦いを持って身に染みて理解している。


 だがそれ以上に、ルナが気を張り詰めているのも知っていた。


 もちろん、天使の基準ではなく、あくまで人間の尺度で測った場合なのだが。


 歩夢の想う気持ちが伝わったのか、ルナは納得したように彼の言葉を肯定する。


「分かった。あゆむのことは私が護る。だからこの街のこと、色々教えてくれると嬉しいな」


 笑顔で言うルナに、歩夢は心の底から安堵し、更には心の内に、今まで思ったことのない感情が湧き上がる。


 しかし歩夢はその気持ちを押し込め、ルナと同じように笑顔を浮かべて言った。


「ま、色々言ったけど一旦休憩にしよう。今日はオムライスだ」


 聞くやいなや、ルナが目を輝かせて反応する。


「わ、私、あゆむのオムライス大好きです!!」


  *


 同日夜


「よし。準備……といっても特に持っていくものは必要ないね」


「うん! 私の魔法があれば荷物は宙に浮かべることができるから」


「……本当に便利だね」


 魔法の凄さに感嘆を漏らしながら玄関で、歩夢は今夜の予定をルナに告げる。


「今日はそうだなぁ、春園駅付近を散策してみよう。あそこはこの街の中心だし、入り組んでいて地図じゃ全体を把握しづらい。そしてらさらに……」


「さらに……?」


「商業施設がいっぱいある。ルナ、ストックは制服しかないんだろう? 新しく服でも拝借しよう。家でずっと制服なんてのも変だしね」


「うっ」

 

 ルナが声にならない声をあげた。


  *


 訪れたのは春園駅周辺の中型モール。


 施設としては特段大きな部類ではないが、多種多様な商店が立ち並ぶ市内有数のスポットだった。


「まさか、あんなにゴネるとは……」


 そのモールの中で、歩夢が若干引いている様子で隣のルナに語りかける。


「ご、ゴネてる訳じゃないです……ないよ。でも私なんかがあんな可愛いものに身を包まれるなんて……」


 時刻は少し前、玄関で商業施設に行くと歩夢がルナに告げたあと、とうのルナが外出を渋り出し、玄関のドアを掴んだまま離れなかったのだ。


 もちろん人間である歩夢が守りの姿勢に入った天使を引き剥がせる訳はなく、歩夢の辞書にあるあらゆる()()の言葉を使い、そこまで言うならと頬を赤らめたルナが付いてきた形になる。


 その一連の流れを経ても尚、ルナはお店目前で躊躇い始める。


「やっぱり私は……」


「はいはい。僕は知ってるよ。ルナが家に置いてあったファンション雑誌を目を輝かせながら見てるの」


「なっ、なんでそれを……!」


 歩夢から告げられた衝撃の事実に先程とは比べものにならないくらい顔を赤くした一人の天使は、続く案内人の言葉にいよいよ折れて店内へ入っていく。


 それはただただ純粋に、ただ真っ直ぐな……


「ルナは可愛いからどんな服でも似合うと思うよ! おしゃれしている姿も見てみたいなぁ」


「……っ」


 ここに、一人の天使が爆誕した。


  *


「ねぇ、ほんとに行くの?」


 自身に戦い方を教えている、ある種、師であるダンテ・アルギスにジト目で問いかける黄昏彼岸(たそがれひがん)


 その、こいつ何言ってんだ……みたいな目を向けられて尚、ダンテは当たり前だとばかりに答えを返す。


「当然だ。むしろ今まで遅すぎたぐらいだぞ。戦いで有利に立つには、絶対的な地理情報が必要だ。どう相手を誘導し、相手にとってどう不利な位置を押し付けられるかどうか。格上に勝つにはそれが最低条件だ」


「いや……それは何度も聞いているけど」


 その情報を聞いても、彼岸は乗り気ではない。


「今から? 街の中央に? もうくたくたなんだけど……」


 ダンテに心を許したのか、話し方が大分砕けるようになった彼岸だが、それでも尚渋る。


「今日は()()()14時間しかやってないだろ。しかも休憩をコンスタントにとってだ。というか、明日に回してもどうせ体力消費は変わんねぇよ。だったら、少しでも早く行って明日からの糧にした方が良い」


 真っ当なことを言うダンテに彼岸は一度ため息をつき、覚悟を決めたように彼の提案を了承した。


「はいはい、何者かに成るためだもの。やってやるわ。で、結局何処に行くの?」


 眼の色が変わった彼岸を見ると、笑みを浮かべたダンテが行く先を告げた。


「街の中央。春園駅周辺。そこにあるショッピングモールだ」


 そこに、最強(ルナ・アルテミス)がいるとも知らずに。




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