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天使

 少女の眼は、エメラルド色に輝いていた。


 あまりにもまっすぐで、あまりにも透き通った眼。


 それは全てを見通してしまうのではと感じてしまうほどのものだった。


 第一印象は、()使()


 少女が俯きながら尋ねる。


 それに伴い、薄紫色の長い髪が揺れた。


「あ、あなたの名前は?」


 その可愛らしい声とは裏腹に、有無を言わさぬ迫力がある。


 まるで、答えなければならないと強制されているかのように。


「あ、えっと……歩夢、渡会歩夢(わたらいあゆむ)。君は?」


 歩夢の声を聞き、少女はちょっと顔を明るくして答える。


「あゆむ……とっても良い名前、ですね…… 私の名前はルナです。ルナ・アルテミス。ルナって呼んでください」


「ル……ナ……?」


 自信なさげに言うが、彼女の纏うオーラは、人間のそれではない。


 そして何より、明確に理解(わか)る人間離れしているところが……


「……紫の剣?」


 そう、彼女は剣を身につけていた。黒いマントを纏った華奢な身体、端正な顔立ちに似合わぬ長剣。


「? あ、これは…… 私の愛刀、悪魔に嘯く天使の囁き(パラドックス)、です。か、かっこいいよね。です……」


 そう言って彼女は鞘から剣を抜いてちょっと自身ありげな顔で掲げてみせた。


「いや、そう言うことじゃ……」


 何故剣を持っているのか、と聞きたかったが追及はしなかった。


 それより知るべき重要なことが多すぎるからだ。


「いやいい。まず……君は、君は一体なんなんだ……? そしてこの場所で何が起こった? それから、僕はこれからどうなる?」


 自分が気づかないうちにかなり焦っているのか、無意識に質問を叩き込んでしまう。


 だが、帰ってきた返事は、常識はずれのあまりにも頓狂なものだった。


「? どう……とは? か、()()()()()()()()()()()()? この春園市(まち)で始まる、天使大戦(エンジェルズゲーム)について」


「……は? 天使大戦(エンジェルズゲーム)? ……いやまずまて、神ってなんだ?」


 こっちが困惑していることに、ルナと名乗った少女も困惑しているようだ。


「? ど、どういうことですか? 神様に聞いてないんですか……天使13人をこの星に降臨させて、互いに人間と組ませて、争わせる大戦(ゲーム)。そ、そして最後に残った一組に、生命(いのち)に関わる願いを()()全ての願いを叶える権利が与えられると……」


 怒涛の情報が頭に流れ込むが、ある一言に思考がジャックされる。


「願いを、叶える……権利」


 もし、大戦(ゲーム)とやらに生き残ったら、願いが叶う……? 荒唐無稽だと思っていた、あの夢を……世界平和を……


「まさか、本当に聞かされてないんですか?」


 問われて、頷く。


 神とやらに会わなかったのはよく分からなかったが、この大戦とやらに、参加する理由は大いにある。


 嘘じゃないのは、彼女の存在を見れば分かる。彼女は、圧倒的上位存在だ。


 ならば未来(ゆくすえ)は一つ。


「……ルナ。ルナ・アルテミス。全部だ。全部教えてくれ」


「え……」


 歩夢の急な雰囲気の変化に、ルナは言葉を洩らす。

 

「その大戦に勝つには、僕は何をすれば良い? 神とはなんだ? 天使とは? 僕は、僕は勝たなければならない!! 絶対に願いを、絶対に……」


「お、落ち着いて。あゆむ……さん。分かった、分かったから……」


「あ。す、すまない。つい興奮して……」


 眼前に舞い込んだ奇跡を前に、つい気が動転してしまう。


 まぁでも無理もないだろう。こんな奇跡、二度とないのだから。


「えと、頼む」


 やってしまったと後悔しながら先を促した。


「……こほん。で、では最初から」


 ルナが咳払いをして語り始める。


「あゆむさんは、天使とは何か分かりますか?」


「別にあゆむでいいよ」


 馴れ馴れしいだろうか、とも思ったが黙って続きを話す。


「天使か……さまざまな宗教経典に出てくる、神の使い。ってイメージがあるかな……」


「わ、私たちはそんなに大仰なものじゃありませんが……そうですね、()()()みたいなものだと思ってください」


「宇宙人……? まぁ君が人間の宗教観に依存している存在でないことはなんとなく分かるが……」


「……それ、貶してませんか?」


 ルナが少し膨れっ面で抗議してきた。内気みたいだが、どうやら感情表現は豊からしい。


「すまない、そう言うわけじゃ……」


「ま、まぁいいです。次に、私たち天使にも国って概念があります。その中の一つ。私たちの国、エトワール」


最も光輝く星(エトワール)?」


「はい。そしてエトワール唯一の教育機関であるルセナ学院。そ、その在籍天使には階級で分けられています」


「天上位階論みたいな?」


 確か天使には9つの階級がある、みたいなものだった気がする。


「実際そんなに分けられていないですが……約15万の学生の内、上から7人のS級、13人のA級、上位50%のB級、下位50%のC級……」


 成程、天使世界もこのようにレベル分けされてるのか……


 ルナでこの圧ならば、A級とかS級とかはどんな化物(かいぶつ)なのか……考えたくもない。


 ここで、ふと当然の疑問を口にする。


「……君の階級は?」


 一拍おき、ルナが答えた。


()()()()


  *


「は?」


 A級4位。上位11番目じゃないか。


 僕と同じくらいの年齢の、この少女が? 


 天使界の、トップ?


「お、驚いてくれましたね。へへ、こう見えて私、け、結構強いんですよ」


 ルナが笑って僕を見てくる。


 いや、こちらとしては結構冷や汗ダラダラなのだが……


「ふ、不敬を働いて……」


 今から取り返せるかは分からないが、一縷の望みにかけて畏まっておくべきか……


「そ、そこまでしなくても大丈夫です!!」


 なんて優しいのか……天使、天使なのか?


 ここで、ある一点に気づく。


「待てよ、この大戦は13組で行われるんだろ。ルナがいるってことはつまり……」


「そうです。A級13人による戦いの可能性が高い……と思います」


 ルナが答えた。13人中4位だから、分は全く悪くない。


「……本当に、戦えるのか? というか、見た目だけなら君は普通の少女だ」


「し、心配しないでください!! 私、剣の腕も魔法の力にも自信がありますので!!」


 魔法……天使はそんなものまで使えるのか?


「……そうか。いや、これ以上なにも言うことはない。ルナが僕なんかより強いのは、()()で分かるから」


「理解してくれたなら、良かった。です……じゃあ、えと、行きましょうか」


 ルナがにっこりと笑みをつくり次の行動を促す。


「何処へ? 伝手があるのか?」


 ルナが当然かのように言った。


「? あゆむの家に決まってるじゃないですか……」

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