咆哮
「来る」
ダンテとルナは奇しくも同じ言葉を呟き、一斉に曲がり角を出て、剣を交わらせる。
仕掛けたのは、ほぼ同時。
互いに剣を叩きつけ、周囲に土埃が舞い散った。
突き、大振りで繊細に、時に豪快に相手の血肉を抉り取ろうとするルナ。
対し、それを即座に受け流し、隙を窺い、一撃一撃を音速の如き速さで繰り出すダンテ。
彼は剣を繰り出しながら、相手の天使に語りかける。
「よぉ、A級4位。ミランの奴と引き分けたらしいな」
嘲るように、挑発するように語るが、ダンテもルナも攻撃の手を緩める事はない。
「…………」
ルナはその挑発に乗ることはなく、無言を持って刃を振り続けていた。
「無視か? 気にしてんのかよ!」
ダンテはそう言うやいなや、剣の動きを瞬時に速めて、ルナの首筋を狙った。
「!?!?」
ルナはすかさず剣で受けるが、無理な体勢上後方に飛ばされる。
しかし、ルナに焦りは見られない。
そして、ルナは飛ばされながらも不敵な笑みをダンテに向け、ただただ事実を独りごちた。
「別に、負けたわけじゃないわ」
最上位天使なら自明の理。あくまで明確に、確実に呟くルナ。
一呼吸おく。ダンテはそれを知っている。
「だって、私はまだ天界を降臨させていないもの」
嘲りに満ちた声。一瞬訪れる静寂。
だが、その静寂が長く続く事はない。
「はっ、そりゃそうか。お前の本領はそれだもんなぁ!!」
そう叫び、ダンテは後方に飛ばされているルナに追撃を加えた。
*
彼岸はダンテと剣を交わらせている相手の少女を見る。
紫色の長髪……あれが噂のルナ・アルテミス……?
そう思いながらも、彼岸は自分が想像していた雰囲気とは根本的に違っていることに気づく。
なんか、雰囲気が……聞いてたのと違うって言うか……?
そう感じながら、彼女は言葉に詰まる。
ルナの纏う雰囲気を、どう形容すれば良いのかが分からなかったからだ。
異常なまでの圧と、異様なまでの存在感。
少し間を置いた後、彼女は目の前で師と刃を交わしている天使を、こう呼称した。
「怪物」
*
「クソっ」
____よりにもよって4位かよ。1番当たりたくない相手だったんだがな……
一進一退の攻防の最中、ダンテは分析する。目の前の天使の異常さを。
A級最強格の魔法の使い手であるミランに引き分ける圧倒的な魔力。トップクラスのスピードとスタミナに、さらにはA級1位に匹敵するパワー。だが極め付けは、S級含む全天使最強の……
全教科80点、なんて言う万能タイプじゃない。全教科100点を取ってくる天才。
紛れもなく奴は、この大戦最強の存在と言える。
どう動く……? どう切り抜ける……?
覚悟を決めた様子で、ダンテは次の動きを選択する。
奴に隙はない。
ならば、接近戦に持ち込み、力で押し込むまで……!
動きを見せたダンテを見て、ルナは呟く。
「ま、そうくるよね」
力押しで突っ込んでくる。多分それは、私の長所であるスピードとスタミナを潰すためのストラテジー。
接近戦。力で押してこられたら流石に分が悪い。
だったら、距離を取って……
「4000位階」
「なっ!?!?」
ダンテの思いもよらぬ詠唱に、驚嘆の声が出る。
「させねぇよ」
背後に現れたのは、ある一片の空気がそのまま抉り取られたような、次元の断層。
「空間断絶魔法!?」
A級13位は魔法は3500位階までしか使えなかったはず……なのにこれを使えるって事は……
「謀っていたか、それとも進化しているか……」
「ハハッ、お前が持ってる情報、どれだけ当てに出来るんだろうなぁ」
邪悪な笑みを浮かべて、ダンテは一気に距離を詰める。
後ろには魔法が据えられ、前にはA級13位。
4000位階には当たれない……!
「クッ」
置かれている状況を瞬時に悟り、迎え撃つ体勢を取る。
____この戦場に響き渡ったのは、喊声。ルナとダンテ、互いの咆哮が空間を支配する。
轟音。2人の叫びを聞き、戦いを見守っている歩夢と彼岸は、今まで見たことのない相棒天使たちの顔に寒気を覚える。
鬼気迫る。と言った殺伐の表情。先程までの2人を形作っていた可憐かつ余裕じみた顔の面影もなく、ただ命をかけて殺し合っている。
繰り広げられたのは、超至近距離での剣、魔法の応酬。
互いに致命傷となる一打以外は避けず、傷が身体中を侵している。
斬撃。剣撃、それに伴って起こる風圧が、少女の頬を掠めた。
少女、黄昏彼岸はこの戦いをただ眺めている。だが、それは傍観者からの立場ではない。
「考察。整理。反証。解析。頭の中に叩き込め。力をつけるために、いずれ天使と戦うために、この戦争に、勝つために……!」
少女の身体は、もはや人間のそれではない。
才能。少女の戦いの才能と、A級13位の教える才能。 両者の卓越した才が絡み合い、10日間で、少女は人間の限界を超えた。
ダンテ・アルギスが心の内で下した評価は、現時点でC級下位レベル。
人の身で、だが。彼女はこの戦いを、かろうじて目で追えている。
そんな彼女が無意識のうちに呟く。
目の前のA級天使たちの、戦いの趨勢を。
「押してる……!」




