第201話 真の空気投げ
枯葉童子の腕が鷲王を貫く。
鷲王は自分の身体から生えた腕を呆然と見ていた。
「い、いや――目に見える全てって……わ、私は違――」
鷲王の言葉は最後まで続かなかった。
彼の身体はそのままひび割れ、枯葉のように砕け散ってしまったからだ。
血の一滴も出ず、まさに枯れ果てて。
これが枯葉童子の力か……!
「グ……グォオオオオオオ!」
枯葉童子が吼える。
こいつ……想像以上に厄介だ!
『え!?』
『何々まじ死んだの!?』
『おいおいおいギャグ展開じゃなかったのか』
『このまま無し崩しに終わるかと思ってた』
『ガチ死にしたよ鷲王』
『つーかやばくねこいつ』
枯葉童子が一歩足を進めるごとに地面が砕け、ひび割れ枯れていく。
いや……その範囲が少しずつ大きくなっていっている。
「なんという妖気……! こやつ、放置しては不味い! 紅葉様は早くお逃げください! ここは私達が食い止めます!」
鬼武が言う。
それには俺も同意だ。こいつはここで潰しておかないと厄介すぎる。
ダンジョンの外で生きていられて、そして触れるもの全てを枯らして砕いていく魔物……ほおっておけばこの鬼哭里どころか長野……いや、この国そのものが塵と化す!
「ああ……ここで倒す!」
千百合たちがここにいないのが戦力不足の不安材料となるか、それともこんな危ない相手と戦わせる事がなくて幸運なのか……
「だが、近づくなよ。あいつは触れたらまずい!」
俺は近くにあった石を拾って全力で投げる。
空を切って飛ぶ投石は、しかし――
「っ!」
枯葉童子に直撃した瞬間、土くれとなって砕けて霧散した。ダメージは皆無だ。
くそ、手で触れたものだけとかいう都合のいい能力じゃないな。まさにその存在に触れたもの全てが枯れ果てるのか。
「ならば――!」
鬼武がその掌に電撃を起こす。
そうか、実体のない遠距離攻撃なら――!
「鬼哭雷霆靂!」
強力な電撃が枯葉童子を襲う。
「ガアアアッ――!」
衝撃と爆音。そして枯葉童子の身体がぶすぶすと煙を出す。
これは――効いている!
「効いてるぞ!」
「ええ! このまま畳みかけます!」
鬼武は二度目の雷撃を放つ。
しかし――
「なにっ!?」
再び枯葉童子を襲った電撃は、しかし枯葉童子に触れた瞬間――まるで出来の悪いCGか何かのように、電撃が枯れた。
白い稲光がその場で黒ずみ、ぼろぼろになって散っていったのだ。
「グルルルル……」
枯葉童子が笑う。
こいつ――一度喰らっただけで、電撃への耐性をつけた!?
「ゴアアアアッ!」
枯葉童子が走り、俺達へと迫る。
拳を振り上げてくる枯葉童子れ。俺たちはとっさにその場から跳躍し回避する。
次の瞬間、地面が大きく砕けた。
こいつ、腕力も並みじゃない!
「くっ、この鬼――一度喰らった攻撃は通用しない!
菊池殿、どうします!」
「ああ、つまり初見殺しで一撃で倒さないと駄目ってことか!」
「くっ、そう知っていればまだやりようがあったものを、もう電撃は通じない――」
鬼武が歯噛みする。電撃を使った最強必殺技でもうったのだろう、しかしそれはもう通用しないと見た方がいい。
そして俺は術は使えない。大天狗の爺さんから術法の素質ゼロと太鼓判押されたくらいだ。出来るのは肉弾戦のみだ。
あるいは、配信を見ているダンジョンの千百合や鈴珠、タガメたちが来るまで回避に専念して、みんなの最大必殺攻撃で倒す――
いや駄目だ。それだけ時間をかけていたら被害が大きくなる。
いや、待てよ――?
「そうだ、ひとつある。触れずに倒せる技が!」
「菊池殿、それは?」
「ああ、岩手の超有名座敷わらし、鶴麿様直伝の必殺技が」
先の府中米軍基地跡ダンジョンでも水虎蝉丸に使った技だ。
空気を投げる技、空気投げ。
あれを応用した必殺奥義が俺にはある!
「失敗したら、後は頼む!」
俺は枯葉童子に向かって走る。
「ガアアアア!」
枯葉童子の腕をかいくぐる。
服にかすり、服が塵になるが構わず俺は懐に入り込み――
その空間を掴み、そして持ち上げる!
「ガッ!?」
枯葉童子が驚愕の声を上げる。
そうだろう、奴からしたらいきなり空間がズレたようなものだ。
『えっ何』
『なんだこれ……』
『絵の一部が破られた、そんな感じになってる』
『キチク流空気投げって空間をぶん投げるバグ技だったよな』
『まさか……』
『枯葉童子のいる空間をえぐりとった!?』
そう。
空間を投げる空気投げ、その投げる部分を敵のいる場所そのものにしたわけだ。
普通の空気投げでは一撃で倒せる破壊力があるかどうかわからない。
だから、危険を承知で一か八か、相手のいる空間を直接投げるというわけだ。
これなら相手に触れずに相手を動かすことができる!
「はああああっ――!」
俺は両手で枯葉童子ごとその空間を掴み上げ、そして跳躍する。
「これが本邦初公開、空気投げからの必殺――」
枯葉童子のいる空間を掴んだまま宙に跳び、そして反転。
地面に向かって一気に落とす――!
「遠野奥義! 超次元流星落下落とし!!」
「グゲギャアァァ――――ッッ!!」
激しい衝撃と爆音が響く。
地面に叩きつけられた空間に亀裂が入り、そして――空間ごと、枯葉童子の身体が砕けた。
鶴麿様――見ていますか。
これが真の空気投げなんですよね。
違うよ?
大空に浮かんだ鶴麿様かそう言った気がしたが、きっと気のせいだろう。




