第199話 二度と裏切らない
「修……吾?」
紅葉が呆けたように俺の名をつぶやく。
俺は答えた。
「ああ、お待ちかねの菊池修吾、ただいま見参だ」
そして俺は抱きかかえた紅葉を地面に降ろす。
『キタ――――!!!!』
『えっ嘘!?』
『主人公登場!』
『待ってました』
『来ると信じてたぞキチク』
『いやちょっと待ってちょっと待ってなんでいるの』
『え? いやもうひとつの画面』
『???????』
コメントが混乱している。そしてそれは目の前にいる鷲王もそうだった。
鷲王が叫ぶ。
「ば――馬鹿な! なぜ貴様がいる、キチク!」
「何故って……ここにいるからだが? 見てわかるだろ」
「そうではない! そんなはずはないのだ、貴様は確かに! 岩屋ダンジョンに隔離した! 伊賀瀬が!」
「……ふむ、なるほど」
俺はさっき置いたカメラに向かって言う。
「では現場の千百合さーん。おねがいします」
そこには……。
『うわははははは! 絶好調ですぞー! 超絶遠野大回転ロォォォリングキチクビィィィィイム! ゲハハハハハハハハハハ!!!!!』
『ぎゃあああああああ!』
目からビームを出しながら回転して魔物たちを蹂躙する俺……いやあれを俺とは認めたくないが……俺の姿と、悲鳴を上げる伊賀瀬の姿があった。
もうおわかりだろう。
あれは雲外鏡である。雲外鏡の創り出した俺の鏡像だ。
「……みんなアレを俺だと違和感もってねぇのがつらい」
俺はちょっと泣きそうになった。
俺ってあんなんだと思われてんの?
さすがに遠野の人間でも目からビームは出さねえよ。
『わ、私はちゃんと見分けついてましたよっ!』
画面の向こうから水面ちゃんが言ってくる。まあそりゃそうだよ、あっちのメンバーには最初から話通してたから。
『なんだと……キチクが二人!?』
『どっちが本物なんだ!?』
『見分けがまったくつかない』
『どちらも本物に見えるんだけど』
『AIに見てもらったけどどっちも本物だってさ』
『いやダンジョンにいるほうが本物だろ』
「お前らそれネタで言ってるだけだよね!?」
俺は叫んだ。
「ど……どういうことだ! なぜふたりいる!」
「そ、そうよ……なんで」
鷲王と紅葉の疑問に俺は答えた。
「あれは雲外鏡の創り出した鏡像だよ。俺の偽物だ。
ダンジョンに入る前に入れ替わっておいたんだよ」
「入る……前に?
じゃあ……最初っからダンジョンにいかなかったってこと?」
紅葉の言葉に俺は頷く。
「馬鹿な!」
そして鷲王が叫んだ。
「貴様の事は知っている、配信を見て事前調査した!
貴様はダンジョン大好きな気持ち悪いダンジョンオタクの陰キゃだ!
そんな貴様が、前人未踏のダンジョンという垂涎ものの餌を目の前に、偽物に攻略を譲ってここにきていただと!?
ありえん!! ありえるはずがなかろうが!!」
合ってるけどむちゃくちゃな言われようだな。
「まあそりゃそうだな。確かにめっちゃ行きたかったよ。
でも……」
俺は紅葉を見る。
今朝の事だ。その時を思い出す。
「嫌な予感がしたからな。こいつ、めっちゃ死亡フラグ立てまくるし。
不安になったから、あいつに代わってもらったわけだ。
何もないならそれでよし、ってな」
「そんな……そんなこと……で?」
紅葉の言葉に俺は頷く。
「つか、前に怒られたからな。
そう、俺は一度、お前に向かって助けるって言って……そしてそれを雲外鏡の鏡像に、偽物に任せちまった。
悪かったと思ってるよ、そういうつもりはなかった、悪気はなかったけど……結果的に俺は一度お前を裏切った。
だから……今度は、ちゃんと俺が助けただろ。
俺は、二度と裏切らない。見直したか?」
俺は笑った。
そういうつもりはなかったのに簡単に考え、ダンジョン攻略を優先した結果、俺は紅葉をめちゃくちゃ怒らせた。そう、裏切ったんだ。
「二度も、同じ理由で女の子を泣かせるなんて遠野の、南部隼人の名折れだ。
そもそも俺のモットーは人助け第一。俺の尊敬する神崎刃ならそうする」
俺はダンジョンで彼に助けられて、そしてダンジョン配信に救われて、ダンジョン探索が大好きになったんだ。
その原動力は絶対に忘れない。
「あんた……バカじゃないの……」
「おう、よく言われる」
紅葉が笑った。
目に大粒の涙を浮かべ、ぽろぽろと落としながら。
『二度泣かせてるんですけど』
『おいキチク紅葉ちゃん泣いてんぞ』
『あーキチクが泣かしたー!』
『せんせーキチクくんが女の子泣かせてまーす!』
「うるせえ! これはどうみてもセーフだろうが!」
「いえアウトです。菊池殿には紅葉様を泣かせた責任を是非とっていただかねば」
烏たちをようやく全て倒した鬼武が俺の隣に来て言う。
「怖いこと言うなあ……」
「鬼を怒らせたり泣かせたりすると後が怖いのですよ。そもそもダンジョン攻略を偽物に任せて高みの見物とは、契約不履行にも程がありませんか」
「耳がいてー。その件については後でじっくりと謝罪させていたたきます」
「ええ、後で。そう、まずは……」
俺と鬼武は紅葉を背に、鷲王と枯葉童子に向き合う。
「あいつらを、倒してからだな」




