第196話 岩屋ダンジョン
「ぬははははは! 絶好調ですぞー!」
ダンジョンに叫び声が響く。
紅葉の岩屋ダンジョンは、典型的な洞窟タイプだ。
そして現れるモンスターは死霊系、アンデッド系だ。
なるほど、紅葉の怨念を封じ込めて祀った洞窟がダンジョン化したものだ、そういったモンスターが出るのは道理というものだろう。
「グォアアアアア!」
骸骨たちが襲い掛かって来る。
それに対して……。
「キチクパンチ! キチクファイヤー! キチクビィイイイム!」
その無茶な攻撃によって骸骨は粉砕されていく。
「すごいスキルだ……」
「いや、スキルじゃないと思います」
伊賀瀬のつぶやきに水面ちゃんが答えた。その通りだ。あれはスキルではない。
そもそも菊池修吾にダンジョンスキルは無いのだ。
「……ともかく。元の洞窟よりかなり広く、そして枝分かれしている。これがダンジョン化というやつか……」
伊賀瀬が周囲を見回して感慨深そうに言った。
『お客さんダンジョンは初めてかい』
『出来立て多選ジョンは俺たちからも珍しいよな』
『さてどうなるかワクワクだ』
『しかしキチクのテンション高いな』
『未踏ダンジョンだからテンションあがってんだろ』
『わかる』
『俺も新しいダンジョン入りたい』
視聴者コメントたちも盛り上がっている。
さて、どうなることやら。
「おい修坊たち、来やがったぜ!」
水面ちゃんが召喚した河童のタガメが叫ぶ。
通路の向こうからやってきたのは、怨霊たちだ。
「グォアアアアアアア」
怨霊が四体。
それを――
「やって、タガメさん!」
水面ちゃんが指示し、タガメが口から水流を吐き出す。
妖気をまとった水流が怨霊を吹き飛ばした。
「よし!」
……タガメ、強くなってるな。
水面ちゃんとコンビを組んでから他のダンジョンにも潜って鍛えているとは聞いていた。
いいことだ。
「……呪力が強くなってきている」
伊賀瀬が言う。
「わかるの?」
「ああ」
千百合の言葉に伊賀瀬は頷いた。
「我々は紅葉様とその眷属たちの子孫だ。その呪力にはなじみがある、引き合う。
こっちだ」
伊賀瀬の示す方向に進む。
『まっすぐ目的地に行けるってのはなんかあれだな』
『迷いながら進むのがダンジョンの醍醐味なのに』
『攻略本片手って感じか』
『まあ仕方ないな』
視聴者たちが文句をつけていた。
まあ確かにそれはわかる。
「でも目的地に早くつかないといけないしねー」
千百合が言った。
まあ確かにその通りでもある。
分かれ道を楽しむのはまた今度、って奴だ。
「また魔物が!」
「今度はゾンビです!」
和風の落ち武者が腐ったような姿のゾンビたちがやってきた。
「こういう相手なら……!」
鈴珠が幻炎を放つ。
炎がゾンビたちを包んだ。
「グエエエエエ!」
ゾンビたちが悲鳴を上げ、そして崩れていった。
うん、鈴珠も強くなっていってるな。
『なんか楽勝だな』
『まあみんな強いからな』
『物足りない……もっとピンチが危険じゃないと』
『おいおいキチクのチャンネルは初めてかい』
『この無敵っぷりがいいんだよ』
『まあ別の意味でピンチになるのもよくあるけどな』
『ピンチというかまあトラブルはつきもの』
そして洞窟を、モンスターを倒しながら進んでいく。
そしてたどり着いたのが……。
「ここが」
「ああ……紅葉の岩屋の祭壇だ」
洞窟の奥、広まった空間。
そして石の柱、舞台。
その奥には、巨大な水晶玉があった。
あれは、ダンジョンコアか。
「……ボスがそろそろ出て来るのかな」
千百合がつぶやく。
そう、ダンジョンコアには、それを守るボスモンスターが存在する。それがセオリーだ。
だが……。
「……気配がないね」
ボスモンスターが現れる雰囲気は、無い。
静かなものだった。
ボス不在のダンジョンなのだろうか?
その時、伊賀瀬が言った。
「ここのボスは、初代の鬼女紅葉様の怨念から生まれる魔物です」
「……知ってるの?」
千百合の問いに、伊賀瀬は静かに答える。
「ええ。そしてここには現れません。
何故なら……回収済みだからです」
伊賀瀬は言った。
回収済み……?
「それって……」
「とある目的のために。そう、我らの目的、そして私の目的。
間違いを――過ちを正すために」
「い、伊賀瀬さん……あなた、何を」
水面ちゃんの問いに、伊賀瀬はその野太い牙を剥いて笑った。
「知れた事。この里を――正す」




