第191話 治癒の幻術
「勝負ありっ! 勝ったのは我らがキチクだああああっ! いえーーーい!」
千百合が歓声を上げる。
「ふう、なんとか勝ったか……」
試合は俺の勝利だった。しかしこの結果は、相手が降参したからだ。
鬼武はおそらく本気を出していない。
あのまま戦っていたらどうなったことやら……うん、やはり強い妖怪はまだまだいるな。いや鬼武は厳密には妖怪じゃないんだけど。
『キチクが勝ったか』
『俺は信じてたぞ』
『でもキチク腕折られたとか』
『キチクがやられてんの初めて見た』
『いやまあ今までもピンチはそれなりにあったけどな』
『でもタイマンでこれは珍しい』
『鬼武つえぇな』
「大丈夫!?」
紅葉が大慌てで俺に駆け寄ってきた。
いやお前は身内の鬼武を心配してやれよ。あいつも俺ほどじゃないけど腕ぇ怪我してんだぞ。
なお彼には妹の熊武がかけよっていた。彼女は涙目である。あとで謝っておこう。
「ああっもう腕ぇ折れてるじゃない! 鷲!」
紅葉は四天王の一人、鳥の覆面をつけた男を呼んだ。
「早く治癒しなさいよ!」
「はっ、直ちに」
鷲王が歩み出る。
そこに――
「ま、待ってください!」
割り込むように声を上げたのは、わが愛しの愛娘、鈴珠だった。
「えっと、私が……父上様を治しますっ」
「治すって……あなた、治癒の術使えるの?」
「は、はい!」
紅葉のいぶかしげな問いに、鈴珠は精一杯に答える。
「幻覚ですけど!」
『いや幻覚なんかい!』
『そりゃ狐といえば幻覚だけどさ』
『確かに鈴珠ちゃんの幻術はすごいけど……』
『そうよ!!!!11111鈴珠ちゃんはすごいのよ!!!!!!!!!!!111111』
『どうなんだろ』
『おい今なんかヤバいのいたぞ』
ふむ。
みんな鈴珠の治癒に懐疑的なようだ。
「どうするのシュウゴ」
千百合が聞いてくる。
まあそんなのは決まっている。
「頼むよ鈴珠。お前の術を見せてやれ」
「……は、はい!」
鈴珠の表情がぱぁっと明るくなる。
紅葉が大丈夫なの、っていう表情をしているが問題ない。
もし失敗してもそれは鈴珠にとって経験になるし、後で改めてそこの鷲王さんに頼めばいいだろう。
「じ、じゃあ……」
そして鈴珠は目を閉じて集中する。
金色の、陽炎のようなゆらめきが俺の折れた腕を包み――
「……」
折れた腕の上から、折れていない健康な腕のビジョンが重なるように浮かび――
そして、俺の腕は元通りになっていた。
「……で、できましたっ。父上様、どう……ですか?」
俺は腕を見る。
見た目はそのままだ。
触ってみる。
痛みはない。
手を握り、開いてみる。問題なく動く。
……完璧だ。
「うん、完璧に完治してる」
その俺の言葉に、鈴珠はぱあっと笑顔を見せた。
ああ、娘のこの笑顔は癒されるなぁ。
画面の前のみなさん見てますか、これがうちの自慢の娘です。
「うん、すごいよ鈴ちゃん、さっすがボクの娘!」
千百合が鈴珠を抱きかかえてよしよしと撫でる。
うーん親バカだ。
「え、いやいやいやちょっと待ってよ!」
それを見て紅葉が慌てて俺の腕を掴む。
「そんな、幻術はどこまで行っても幻術、確かに認識に作用して痛みを消して普段通りって思わせる事は出来るけど、それって一時的なもので……え?」
俺の腕を握り、つつき、動かす。
大丈夫、完璧に治ってるから。
「確かに幻覚だけど、催眠状態で焼けてない火箸を熱いといって押し付けたら本当に火傷するっていうだろ、それと同じだよ。
真に迫る幻覚は現実を書き換える。
鈴珠なら現実に治癒させるくらいできるさ」
『いやちょっと待て』
『お前こないだの殺生石ダンジョンでなんて言った?』
『どこまで行っても幻覚だって言ってた』
『ホラァアアアア鈴珠ちゃん最強! 鈴珠ちゃん素敵!! 無敵ィィィィ!!!!!!』
『幻覚なら黙って消えろとか言ってた』
『ダブルスタンダード……』
『なんだこいつ』
『今またなんかノイズが』
『それで完治するキチクがおかしい』
「いやまあ確かにあいつらの幻術も凄かったけどな。鈴珠はそれを軽く超えてるってだけだ」
『親バカ……』
『駄目だこいつ』
『愛の力で完治したって事で』
『父の愛はすごいねー』
父の愛というかむしろ娘の愛だろう。
うん、愛の力は偉大なのだ。
「やっぱり修吾っておかしい……」
紅葉がそうつぶやいた。
失敬な。
そもそも腕が折れたくらい、マタギのおじさんや近所のどっちゃんたちなら何もしなくても一時間でくっついてたぞ。
なお、鬼武の腕は鷲王が治癒した。
どうやら鬼道術という呪術によるものらしい。やはりあいう術って便利だよなあ。
俺は三太郎天狗のジジイから、お前に術の才能ゼロだって言われたので使えないけど。
そして日が暮れる。
「――さて、いろいろあったけど」
紅葉が咳払いをして言う。
「そろそろ宴会の時間よ、修吾たちの歓迎会。
覚悟しなさいよね!」
そして、宴会が始まる。




