第188話 市民の義務
「どうしたもんかな……」
しかし困った。
とりあえず忍者たちはぶっ倒してふん縛ったけど、どうしようかねこれ。
『こいつらモンスターじゃなくて人間なんだよな』
『そもそもここダンジョンじゃないしな』
『ダンジョンの外で刀振り回して観光客に襲い掛かるとか普通に犯罪』
『犯罪の証拠は配信されてたしなwww』
『キチクは正当防衛』
『パンチやプロレス技だけで倒したしな』
『パイルドライバーで一人ずつ忍者を地面に杭打ちするとは……』
視聴者たちも話し合っている。
うん、ダンジョンと違ってここでは銃刀法とかも普通に適用されるからな。田舎と言えど法治国家だ。
彼らはどう見ても犯罪の現行犯だ。
誘拐と人身売買だって自分の口から言ってたし、殺人未遂でもある。
「これは……善良な一般市民としては、警察に通報かな」
俺が常識的で妥当な判断をした、その時だった。
「待てい!」
既視感のある声が響いた。見たらまた忍者が木の枝に立っていた。
木の枝に立つの好きだな忍者って。
「とうっ!」
新しい忍者は掛け声をあげて飛び、降り立った。
「た……隊長!」
それを見て捕まった忍者が言う。
なるほど、こいつが上司か。
「じゃあ殴るか」
「ちょっと待て、いや待ってください! こちらは敵対する気はない!」
上司忍者が慌てて言い出した。
「部下たちが先走り済まない事をした。これは戸隠として正式に謝罪しようと思う。すまなかった」
「そんな隊長!」
「隊長が頭を下げることなど……」
「こやつらは我ら戸隠忍者の存在を知ったのですぞ!」
忍者たちの言葉に上司は言う。
「そもそも戸隠でも忍者の里とか一般公開しているだろうが」
……まあそれはそうだ。
今や忍者の情報なんてそこらへんに溢れて陳腐になっている。
誰も存在を知らない、なんてわけがないのである。
上司忍者はあらためてこちらに向き直る。
「……謝罪は改めて。なので彼らを返してはくれないだろうか」
「そう言われても……」
俺は頭をかきながら言う。
「俺、鬼哭里のものじゃない単なる客人の観光客だし、そしてこれ生配信中だし。
ポン刀振り回して襲ってきた連中を正当防衛して捕まえたシーンを全国生配信しちゃった以上……
逃がしたら俺が犯罪者になっちまうし」
犯人蔵匿・隠匿罪が適応される可能性が高い。
ましてやこの状況で解放したら犯人との交渉の末ということになる。
俺は一発アウトだろう。
「……そうか」
上司忍者は声を落とした。
そして――意を決したように言った。
「ならば力づくで取り戻させてもらう! 恨みはないが死ねい!」
「遠野ノーザンライトボム!」
捕獲忍者が一匹増えた。
どうしよう。
◇
「えー、結局。
鬼哭里にある駐在所に引き渡すことになりました。
駐在さんの困った顔はなんというか忘れられませんね」
俺はカメラに向かってそう話す。
ごくごく一般的な対処をしたので問題ないはずである。
駐在さんは本当に苦虫を?み潰したような絶妙な顔をしていた。
『警察に捕まる忍者wwwwwwww』
『配信見てたら戸隠の忍者の上層部頭抱えてそうwwwww』
『キチクに手を出すから悪いwwww』
『同情するわ……』
ちなみに鬼武もやってきて渋い顔をした。
彼は村の治安を守る役目らしいからな、大変だ。まあ忍者たちは彼らに任せた。
「それで姫様。なぜあんな所にいたのですか」
「え……それはえーと、道に迷って……」
「ほほう。何度もあそこに行ってて「もはや峠は私の庭よ!」みたいなことを言ってましたよね」
「それは……言葉のあやというか……ちょっとキチクも何か言ってよ!」
「何か」
「また裏切られたー!」
紅葉は泣いた。
だが俺は裏切ってはいない。何か言えと言われたから何かと言っただけだ。
「まあこの件はあとでゆっくりじっくりお説教するとして……。
しかしこの男は……」
鬼武はタブレットで動画をみる。
俺が忍者の隊長に遠野ノーザンライトボムを決めたシーンの切り抜き動画だ。
すでに切り抜きがネットに上がり、リアル忍者VSキチク!というタイトルで拡散されていた。
「かなりの手練れのはずなのですが……一撃とは」
「ああ、きっと対プロレス技の訓練してなかったんだろうな」
プロレスはショービジネスで実戦向きではないので敵ではない、と思っている格闘家や武術家は多いと聞く。
きっと戸隠忍者もそのタイプなんだろう。おかげで初手で翻弄して勝てたというわけだ。
「いや……それにしては……しかし……」
鬼武は画面を見てぶつぶつと言っている。
そんなに俺のプロレス技は見事だったのだろうか。プロレス道場に入門したことない、見よう見まねの技なんだけどな。
「――菊池殿」
鬼武が顔を上げて言った。
「夕食までまだ時間がございます。
どうでしょう。もしよければ――
これからひとつ、手合わせいただけませんでしょうか」
それは、試合の申し込みだった。




