第187話 サプライズニンジャ
「ここはふるさと資料館。この鬼哭里の歴史や文化、自然の事がたくさん詰まった資料館よ。
まず基本的な歴史から――」
紅葉がカメラに向かって説明する。
なんというかノリノリだった。まるで鬼哭里観光大使、といった感じだ。
「ん? ねえねえ紅葉ちゃん、これって――」
「あ、見ないで映さないでそれ!」
千百合の声に紅葉は顔を赤くしてあわてふためいた。
そこには観光地によくある、地元キャラクターのパネル。ようこそ鬼哭里へ、と台詞が書かれてあった。
問題はそれが、どう見ても紅葉を――ここにいる火角紅葉をイラストにしたものであったことだ。
「……そのパネル。新しく誰かが紅葉を襲名するたびに、その当代の紅葉のイラストにされるのよ」
『それは恥ずかしいwwwwwww』
『思春期の女の子にはつらいわな』
『地元民に愛されてますねwwwww』
「あー、なるほどね。そういや遠野でも観光協会からボクや鈴ちゃんのパネルおかないかって話もあったし」
千百合が言う。観光プログラムとはそういうものなのかもしれない。
「さ、さて。ここも案内したし、次は……大望峠にいこっか」
紅葉が無理矢理話題を変えた。
なお、紅葉のイラストを使った顔出しパネルもあった。
観光地によくある地元キャラクターの絵の顔部分をくりぬいてそこから顔を出すアレだ。
そこに俺が顔を入れたとたん、紅葉に蹴飛ばされた。
◇
「ここが大望峠。私達の鬼鳴哭里と戸隠を隔てる峠で、標高1055メートルを誇る絶景よ」
眼下の絶景を見て紅葉が説明する。
なるほど絶景だ。
山地である長野ならではというかんじだな。
「さ、じゃあちょっと下に行ってみよっか」
一通り説明した所で紅葉が言う。
これから下に降りて峠を歩く。
そして道に迷って偶然にも岩屋に足を踏み込んでしまっても……まあ事故であり不可抗力と言う奴だ。
なんで待ってたら入れるのにこんなことをするのかって?
まああれだ。
ここまで歓迎ムードでさあさあ探索してくださいとお膳立てされてたら、ちょっとくらい犯行もとい反抗してみたいお年頃という奴なのだ。
……いや実際、こうもお膳立てされていると怪しい、というものもある。
だから洒落になる程度で突っついてみて状況を見極めてみよう――というのが理由のひとつ。
あとひとつは――
「何よ」
「いや、別に。楽しそうだなって」
「まあね」
紅葉だ。
前に彼女をなんか怒らせてしまったからな。彼女が悪戯したいというならそれに付き合ってご機嫌取りしておくのもいいだろう。
そして俺達は展望台から峠へと降りる。
峠の中を進んでいくと――。
「! 危ない!」
千百合が叫ぶ。
そして、俺たちの足元に、飛来した何かが刺さった。
これは――
「……手裏剣?」
十字型の黒い刃物。忍者でおなじみの十字手裏剣が地面に刺さっていた。
『え?』
『なになに?』
『ちょっと待って』
『ナンデ?』
コメントがざわつく。
俺は上を見た。
そこには――
「侵入者め! ここより先は!」
「我らの領域!」
「この戸隠忍者が――」
「進ません!」
忍者がいた。
黒装束に黒覆面。
あからさますぎるほどに、まごうことなく忍者だった。
そうだな、戸隠と言えば忍者だもんな。
某国民的漫画によって伊賀と甲賀が忍者の里として有名になったが、日本三大忍者として数えられる三番目が戸隠忍者だ。
「とうっ!」
忍者たちは掛け声をあげて飛び降りる。
「ただの観光客なら捨て置いたが――」
「鬼哭里の姫か」
「舞い戻ったとは聞いていたが――」
「性懲りもなくまた現れるとはな」
忍者たちは紅葉を見て言う。
「知り合いなのか?」
「知り合いっていうか……こいつらよ。私を誘拐して水虎の会社に売り払ったのは!」
紅葉が忍者たちを指さして言った。
「その通り」
「峠に――我らの聖地に鬼の子孫が侵入してきたのだ」
「殺さなかっただけ感謝して欲しいものよ」
「忌まわしき鬼女の系譜、紅葉の名を継ぐもの」
「だがまさか生きて戻って来るとはな」
忍者たちが笑う。
なるほど、こいつらが紅葉を水虎グループに売り渡したということか。
つまり、敵……ということか。
さて、となるとどうするか……。
「のこのこと現れるとは、また捕まって売られたいと見た」
「まあ、もとより我らは忍。存在を知られてはならぬ影の存在」
「貴様らも不運よな。そこの鬼と一緒にさえいなければ」
「ここで口封じされる事も無かっただろうに」
忍者たちは次々にクナイや忍者刀を構える。
その殺意に俺たちは一歩、後ずさった。
「口封じ……だと」
「然り」
俺の言葉に忍者は答える。
「我ら忍者、影に生き影に死すもの」
「歴史の影に存在する、誰にも存在を知られぬ影」
「故に、見られたからには――」
いや、出てきたのお前たちからじゃねえか。
それはともかく。
「えーと、なんかごめん」
俺は彼らに謝罪した。
「謝罪など不要」
「もとより貴様らの運命は決まった」
「鬼女は捕らえて売り払う、そして残りの者は――」
「いやそうじゃなくてさ」
俺は言う。
千百合を指さして。
「ごめん、今生配信中でして」
そう。
影に生き影に死す、歴史の影に存在する誰にも存在を知られぬ影で存在を知られてはならぬ影の存在さんたちを登場シーンからずっと撮ってて生配信していたのだ。
まあ俺は悪くない。
旅行雑談生配信中にいきなり乱入してきたのは彼らである。
「……」
沈黙が周囲を支配した。
カア、とカラスが鳴いた。
『wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
『ちょっ待って笑い死ぬwwwwwwwwww』
『間抜けすぎるだろニンジャさんたち』
『俺達は何を見せられているんだwwww』
『存在を知られてはならぬ影の存在』
『影に生き影に死すものwwwww』
『今同接何人?ww 三千人くらいに見られてるぞwwww』
『いや忍者登場からSNSに転載されてバズって同接増えてるwwww』
『リアルニンジャと聞いてきました』
コメントもにぎわっている。
忍者たちにはこのコメントが視えないのがせめてもの救いか。
「き、貴様あ!」
「なんたる卑怯な!」
「空気を読むという事を知らんのか、鬼め!」
「いやそんなこと言われても……」
いきなり現れたのそっちだし。
千百合や水面ちゃんも苦笑している。
うん、確かにお膳立て通りの予定調和展開はどうにも気に食わないって俺は言ったけど、なんなんだろうなこの展開。
まさに――
「サプライズニンジャ、か」
「シュウゴー。それニンジャがサプライズで出るって展開だけど、今回のはニンジャにサプライズかましてるじゃん」
千百合が突っ込んできた。
「つまりダブルにミーニングってやつか」
「ええいわけのわからんことをゴチャゴチャと!」
忍者がキレた。
「もういい、ここで貴様らの口を封じ!」
「その配信を止めて!」
「見た人間全員を突き止めて口止めすれば――」
「全てよし!」
無茶苦茶な事を言い出した。
書き込みした人間を開示要求することは可能だろうけど、見ただけの人間ほ全て突き止めるとかどんなスーパーハッカーでも不可能だろうに。
「死ねえい!」
そして忍者が飛びかかってきた。
「遠野パンチ!」
迎撃した。
数十秒後、彼らは峠の地面に突き刺さっていた。
さて、どうしたものか、この忍者たち。




