第185話 出迎え
「……ということなのです」
鬼武が経緯を説明した。
うん、途中まではシリアス風味だったけど途中から随分と雑になったな!?
妖怪や怪異を知る旧家の重苦しい会議風景に「配信のアーカイブを見た」とかいう単語出るとか思わなかったぞ雰囲気がアレじゃねえか。
見ろよ千百合が笑いを必死にこらえて震えてるじゃねぇか。
「姫様を……紅葉様を助けて保護していただいた上、快く差し出していただいた恩人にこのような事をお願いするのは非情に心苦しいのですが……」
「うん、まあわかったよ。あんたらも色々と大変なんだな」
禁足地に探索者達をほいほい入れたくない、というのは俺もわかる。
マヨイガにこそ大量に探索者を招いているが、遠野にだって禁足地、よそ者お断りの場所はそりゃああるし、俺もそういう所に他所の人間を入れたくはない。
排外主義……というのとは少し違う。
伝統なのだ。
伝統は、確かに時代に合わせて変えねばいけない部分だってある。だけどそれでも守って行かねばならないのだ。
「で、俺は特例……という形なわけだ」
「我らと同じく化外、妖怪、まつろわぬものに近く、それを知る存在。そしてマヨイガに認められしあるじにして、紅葉様を助けた恩人。
そう鑑みれば、特例として客人として迎え入れるには十分である、という判断です」
「なるほどね」
俺は得心する。どこまで深く精査したのかそれとも適当なこじつけなのか、まあそこはどうでもいい。
ひとつだけ言えることは……。
「誰も入ったことのない前人未踏のダンジョンの初探索か……」
これは燃える。
ダンジョン探索者冥利に尽きるというものだ。
「それって配信は出来るの?」
「それは……後で古老殿たちに聞いてみませんと」
「そっか、頼むよ。どうせなら配信もしてみたいし。あーでも一族の禁足地ってのだと難しいのかな」
神社の外は写真撮ったり配信してもいいけど、境内の中は駄目……という神社は結構ある。それと同じだと難しいだろう。
まあ無理だったらその時は後で思い出して語る配信をすればいいだけだ。
「話をまとめると、最善は俺達がその紅葉の岩屋ダンジョンを攻略して、第一攻略者の特権を使うと」
未攻略ダンジョンを最初に攻略した探索者はそのダンジョンの権利の半分が与えられる。もう半分はその土地……ダンジョンの入り口のある土地の権利者だ。そして当人たちで話し合い最終的にダンジョンをどうするか決定するのが通例である。
国に譲渡売却したり、企業に売却したり、自分たちで管理したりと様々だ。
ちなみにマヨイガダンジョンはそもそも色んな場所を渡り歩く、現世に決まった入り口の無いダンジョンなので例外的に俺が全権利を持っている。
「そして関係者以外立ち入り禁止のダンジョンにして,あとは……鬼武たちや俺が適時入ってモンスター退治することで安定させる……って感じか」
「はい。そして次善……いや最悪の場合は」
「コアぶっ壊して完全攻略、あとは野となれ山となれ、か」
ダンジョンコアを破壊した場合、ダンジョンはそのままの形を保ったまま廃墟のようになるか、それとも倒壊するかはその時しだいである。
なお俺が遭遇したダンジョンはどれもこれも見事に倒壊してばかりだった。
「わかったよ。その依頼、この菊池修吾が引き受けた」
「……ありがとうございます!」
鬼武と村人たちがいっせいに頭を下げる。
……ううむ、どうもこういう歓迎されるってのは慣れてないな。
「それでは、菊池様たちに……今夜の宿を用意させていただきました。お代は火角様から頂いておりますので」
村人たちの中から、一人の中年が前に出る。
「初めまして、私は吉野。大万寿堂旅館の者でございます」
そう会釈する中年男性。人のよさそうな顔をしている。
「当旅館は温泉が自慢でしてね。宴会の用意もしておりますよ」
「なんというか……致せり尽くせりですね」
「里を救ってくれる方なのです、これくらい当然」
吉野さんはそう言って笑う。
厚意はありがたく受け取っておこう。
「ところで……」
吉野さんは俺達を見て言った。
俺と、千百合、鈴珠、水面ちゃんを彼の視線が移動する。
そして彼はにっこりと笑った。
実に好々爺然とした柔和な笑顔で。
「部屋はひとつ、布団もひとつ枕は四つでよろしいのですな?」
「部屋は二つにしてください、布団も全員分別々で」
俺は即答した。
俺達はそんなんじゃねぇんですよこのエロジジイ。




