第17話 うわさ
弁当を食べ終わり、予習のために教科書を広げていると、細川がまたなにか言い出した。
「噂なんだけどさー」
「どんな?」
橋本が反応するが、正直、嫌な予感しかない。細川が嫌な笑い方をしてやがる。
ココは話に加わらないのが良いだろう。無視だ、無視。
「俺、勉強するから」
「まぁ、そー言わずに聞けよ」
「知らん」
「昨日さー、とある駅でさー」
「知らんぞ」
「しかも改札前でさー」
「……」
聞かないふりして勉強を始める。
「ウチの生徒がさー」
「……」
「女子中学生とさー」
「それで、それで?」
橋本が興味を持ったみたいだ。これは明らかにヤバイ流れになっている。
「……」
「見せつけるようにさー」
「……」
「抱き合ってたらしいんだよねー」
「なんだそれ。羨ましい」
橋本から憎々しげな声が上がる。
「しかも、結構長い間抱き合ってたみたいでさー」
「……」
「どんなヤツか解らないのか?」
「実はー」
「……」
「写真があります!」
細川がスマホを掲げる。
「おおっ!」
「はぁ?」
思わず声を上げてしまう。
「お、反応した」
「いいねー。早く見せろよ」
これは、もうダメかもしれない。
「ジャジャン!」
「おー…………、よく解らないな」
お、もしかしていけるか?
「アップもあります!」
ダメだった。
「…………なんか、凄く見覚えがある気がするんだが」
ジト目で睨まれた。
「そだろー。誰だろうなー?」
細川はニヤニヤしてこちらを見ている。
「世の中には同じ顔をした人が三人いるって言うしな」
「世の中どころか‘うちの学校の生徒の中で’だけどな」
「早く吐いたほうが楽だぞ」
「…………」
「なんでこんなところで抱き合ってたんだ?」
「見せつけやがって」
「…………」
「写真撮ってても気づかないし。からかってやろうと思って少し待ってたんだけど、全然離れないから諦めて帰ったんだけど」
「イロイロあるんだよ」
「爆発しろ、コノヤロウ」
「でも、なんていうか、あんな事言ってたわりに、上手くやっているみたいじゃないか」
「早く爆発しろ、コノヤロウ」
――昼休みがこんなに長いなんて、始めて知った。
その日の帰り、今日も舞ちゃんは改札前で待っていた。流石に抱きついてはこなかったけれど。
「昼休みにからかわれた……」
「ゴメンね」
舞ちゃんが気落ちした声でそう言う。
「いや、からかわれるくらい大したこと無いから。そんなに気にするな」
舞ちゃんと並んで歩く。昨日と違って今日は元気そうだ。駅なら人も多いし、あまり寂しく無いんだろう。けれど、
「また、寂しくなってきたら、コンビニとか本屋で時間つぶしていてもいいんだぞ」
そのほうが気も紛れるだろう。
「あ、うん。ありがとう。でも大丈夫。って言うか、うーん……」
「どうした?」
「えーと、なんでもない。それに待ってる時間も楽しいし」
「そんなものか?」
「うん」
「まぁ、俺のことは気にしなくて、好きにしてていいから。昨日言ったみたいに先に帰っててもいいし」
「もー、『帰らない』って、昨日も言ったのにー」
舞ちゃんが頬を膨らまして可愛い顔をしている。
「そうだったな」
一緒に帰れるのは楽しいから、待っててくれるのは嬉しいんだけど。
「でも、ちょっと心配だから」
「貰ってくれると、きっと解決するよ?」
舞ちゃんまで、それ言い出すのか……。
「えーと、それは保留で」
「むぅ」
舞ちゃんがちょっとむくれている、その表情を見て俺は目を細めた。すると、柔らかな感触が手に伝わってきたので、俺はその小さな手を握り返してしっかり繋ぐ。
そして、今日も二人で並んで帰る――
地の文を増やしたいと思いつつも、カケラも増える気配がない今日この頃。




