第12話 おはよう
スマホの前で待っていると着信音が鳴る。舞ちゃんからだ。
「おはよう、悠くん」
「舞ちゃん、おはよう」
最近、毎朝モーニングコールを掛けてきてくれている。
「今日もちゃんと起きてるねー。でも、寝ぼけた声が聞けないのは少し残念かなー」
最初は電話が鳴るまで寝ていたけれど、情けない所を見せたくない一心で、その前に起きられるようになった。
「それで、またそっち行っていい?」
これも毎朝恒例になっている。
「ああ、いつでもいいぞ」
今日も同じ返事をする。
「それじゃあ後で行くね。バイバイ、悠くん」
「おう、じゃあな」
通話が切れる。――――あとちょっと寝よう。
朝食をとっているとチャイムが鳴った。
「あら、いらっしゃい」
母さんの声が聞こえてくる。
「おはようございます」
舞ちゃんだった。いつもより来るのがだいぶ早いな。
「おはよう、悠くん」
姿を見せた舞ちゃんに目が釘付けになる。
白いのシャツと薄いピンクのスカート、そして昨日の帽子。
「可愛い……」
つい声が漏れた。
「よかったー、嬉しい」
――やばい聞かれた。恥ずかしい。
目の前で、舞ちゃんが嬉しそうに微笑んでいる。その光景を見ながら、母さんがコップを持って現れた。
「はい、お茶。舞華ちゃんも座ってゆっくりしなさい」
「ありがとうございます」
「そんなお洒落して、今日はデートだったの?」
「いえ、違うんです。折角買ってくれたので。……その、見せたくて着てきただけです」
そんなこと言われて嬉しくないわけがない。
「へー。よかったわねー。そんな事言われて、どう? 気持ちは」
母さんが俺のほうに目を向ける。
「もちろん嬉しいよ。よく似合ってる、と思うし」
「えへへー。褒められた」
「よかったわねー、舞華ちゃん」
「はい」
「折角だし、どこか連れて行ってあげたら?」
予定にはなかったけど、それもいいかもしれない。
「そうだな、折角お洒落して貰ってるし」
「いいの?」
「いいよ、どっか行こう」
「はい!」
何処行こうかな? と、思ってると。
「あ、悠くん。コップが違う!」
バレた。
「もー、なんで使ってないの?」
「ゴメン」
――だって恥ずかしいんだもん。
結局、午前中は勉強して、昼から出かけることになった。
「またになるけど、記念公園でいい? 桜が咲き始めてるだろうから、見に行こうよ。満開にはまだ早いけど、そこそこ咲いてるはずだし」
「いいねー、お花見。楽しそう」
最悪、隣のショッピングモールにでも行けば楽しめるだろう。
「それじゃあ、行こう」
「うん、行こう。はいっ」
俺は、舞ちゃんが差し出してきた手を握って歩き出した。
到着してみると桜は充分咲いており、他にも花見をしている人たちが結構いる。
「桜、綺麗だねー」
持ってきたシートを広げながら答える。
「そうだな。この時期でよかったかもな、満開だと人が多すぎて場所が無かったかもしれない」
「そうかー、それだと大変だったかもねー」
屋台で買ってきた食べ物を食べ終えて、二人並んでゆっくりしていると。
「そろそろ眠くなってきた?」
そう言いながら、ぽんぽんと膝を叩いてにっこり笑っている。
――見覚えのある光景だ。
「えーと、ここで?」
確かに少し眠いけれど、それ以上に恥ずかしい。
「昨日、してないし。それにきっと気持ちいいよ」
確かに色んな意味で気持ちいいだろうけど。
「せめて、家に帰ってからにしようよ」
「ココでもいいじゃない」
「ほら、周りに人も多いし」
「しょうがないな~」
わざとらしく頬を膨らませているものの、ホントに怒っている感じではない。
「約束だからね?」
「うん、約束」
「それじゃあ、楽しみにしとくね」
そうして、お流れになったはずなのに。
今現在膝枕の真っ最中である。
舞ちゃんが、俺のふとももで。
最初は肩に寄りかかっていただけのハズなのに、気づけばこうなっていた。
――とは言うものの、本当に寝ているんだろうか?
最初は寝ていたのは間違いない。しかし、さっきパーカーを掛けてあげたあたりから不自然なほど動かないんだけど。
寝たふり? おこしてみる?
――通り過ぎる人がみんな見てくる。超恥ずかしい。……でも本当に寝てたらかわいそうだしなー。
取り敢えず、おそるおそる頭を撫でてみる。この前は喜んでいたから、怒られたりはしないはず。……問題は無さそうだ。
桜に囲まれながら、舞ちゃんの頭を撫で続ける。――――至福の時間かもしれない。
頭を撫でていると木の陰が伸びてきて、少し肌寒くなってきた。
――風邪でも引いたらいけないな、おこそうか。
「おきて、舞ちゃん」
肩を揺すると舞ちゃんが身体を起こす。
「えへへー、おはよー」
「おはよう。よく寝れた?」
「うん。幸せだったよー」
「そう。それはよかった」
「あ、これありがとー」
そう言ってパーカーを手渡してくる。
「寒くなかった?」
「大丈夫」
水筒からお茶を入れて舞ちゃんに渡す。
「はい」
「ありがとう」
自分もお茶を入れて飲む。
「もう春休みも終わりだねー」
「そうだな」
明後日は高校の入学式で、その翌日は中学校の始業式だ
「学校が始まっても、悠くんの家に行ってもいい?」
「いいよ、でも帰りは遅くなるかも。まぁ、終わったら連絡するよ」
「わたしも連絡するね。……それで、あと、朝も途中まで一緒に登校したいんだけど、いいかな?」
「時間が少し早くなるけど、いいの?」
「一緒に行けるなら、それくらいへーきへーき」
「それじゃ、そうするか」
「約束だからねー」
そうして春休み最後のデートが終わる――




