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第11話 プレゼント

 俺と舞ちゃんは新学期に向けての買い物のために駅前に来ていた。とは言っても、舞ちゃんは友達と待ち合わせているのでここから別行動である。


「それじゃ、買い物が終わったら連絡頂戴。一緒に帰ろう」


 むこうで、女の子二人が待っている、髪のが長いほうが早川さんなのでショートなのが高橋さんって子だろう。


「うん、悠くん。また後でね」


 そう言って舞ちゃんは手を振って友達の所へ向かう。





 同じく学校で使う物とは言っても、舞ちゃんたちはきっとお洒落で可愛い物を揃えるだろう。しかし俺はデザインなんか気にしないので、その辺の店で揃えた。当然俺の方が早く終わる。


「さて、あとは何処で時間を潰そうか」


 女の子三人だとお喋りも盛り上がることだろう。早川さんがなにか聞きたそうにしていたし、結構時間が掛かると思っていたほうがいい。


「そういえば、舞ちゃんに何か買ってあげようと思っていたんだっけ」


 終業式の日のことを思い出す。いつも頑張っている舞ちゃんになにかプレゼントをしてあげようと思ったんだ。そのうえ、毎日お昼ご飯を世話してもらってる分のお礼も増えたし、奮発しよう。

 このあたりは女の子が好きそうな店が多いから順に覗いていくか。



 女の子へのプレゼント……

 花? アクセサリー? 服? ぬいぐるみ? 化粧品……は分からないな。


「ん~」


 お店を軽く覗きながら一回りしていく。いろいろ有り過ぎて迷うどころじゃない。


 ちょっと澄華に聞いてみるか。


 悠斗[いま時間あるか?]


 返事がない。忙しいかな?それなら検索してみるか。


 《女の子 プレゼント》っと。


 ネックレス、バッグ……あ、大人向けだ。


 《女の子 プレゼント 中学生》


 んー、文房具は今買ってるから無いな。

 フェイスタオル、ハンカチはいいかも。

 化粧品はパス。

 お菓子は女の子同士で手作りするならともかく俺はないな。



 澄華[なに、どうしたの?]


 澄華から返信が返ってくる。


 悠斗[舞ちゃんに何かプレゼントしようと思うんだけど何がいいかな?]


 澄華[誕生日でもないのに? なんで?]


 悠斗[日頃のお礼とか]


 澄華[ああ]


 ……少し間があく。


 澄華[どこか景色のいい場所で婚約指輪渡したら絶対喜ぶよ]


 悠斗[それプロポーズじゃないか]


 喜びそうだけれども!


 澄華[いいじゃん]


 悠斗[そもそもまだ結婚できないだろ]


 澄華[婚約はできるから]


 そうかもしれないけどー。


 悠斗[兎に角それはなし 普通のプレゼントで]


 澄華[早く貰ってあげてよ]


 悠斗[舞ちゃん 別に行き遅れてないから]


 澄華[そう?]


 悠斗[澄華のほうが年上だろ]


 そもそも、まだ中学生だし。


 澄華[あたしは普通の恋愛するから。大丈夫]


 悠斗[俺たちが普通じゃ無いみたいに言うなよ]


 ……? 返信が止まる。


 悠斗[どうした]


 澄華[あなたが普通だと思うんだったら普通なんでしょう あなたの中ではね]


 悠斗[気になる言い回しヤメロ]


 澄華[まあいいわ。候補とかないの?]


 悠斗[ハンカチ 髪飾り アクセサリー]


 澄華[いいんじゃない]


 悠斗[簡単だな]


 澄華[何でも喜ぶわよあの子]


 そうだろう、きっと喜んでくれる。だからこそ悩む。


 澄華[あとは身近な小物とか、ぬいぐるみ]


 悠斗[範囲が広くなったんだけど]


 澄華[絞るなら、ハンカチかぬいぐるみかな?]


 悠斗[なるほど ありがとう]


 澄華[お義姉さんと呼んでくれていいわよ]


 悠斗[呼ばない]


 澄華[残念。じゃあね]


 なんでそんなに結婚させたがるんだ? でも澄華のおかげで候補が決まった。早速買いに行こう。





 プレゼントを買い終えてたので歩いていると、さっき見た雑貨屋の前を通りかかる。そこでふと思いつく。

 ――舞ちゃん、毎日ウチに来ているけれど、コップは来客用使っているんだよな。

 マグカップでも家に買っておいてあげる方がいいかな、なんか可愛いの探して。


「あ、悠くん」


 舞ちゃんの声が聞こえる。


「あれ、舞ちゃん」


「笠原先輩こんにちは」


「はじめまして、笠原先輩」


 早川さんともう一人、高橋さんだな。


「こんにちは、早川さん。それと高橋さんでいいかな? はじめまして」


「はい、高橋です。お噂はかねがね」


 噂の中身が怖い。


「聞きましたよー、ラブラブみたいですねー」


 舞ちゃんの方に目をやると、すでに真っ赤になっている。


「ソ、ソウカナー。ソン・ナ・コト、ナ・イヨー、フツウダヨ、フツウ」


 どうしよう……逃げたい。





 ……問い詰めが終わらない。やっぱり逃げたい。


「先輩も買い物は終わってるんですか? なんなら帰り道でもっと詳しく聞きたいんですけど」


 早川さんの目が光っている、逃してくれる気はないらしい。


「まだ、もう一つ探したい物があるかなー」


「本当ですか?」


 疑われたらしい。


「本当だよ」


 今日でなくてもいい物ではあるけれど。


「それじゃあ、しょうがないですねー。諦めましょうか」


 高橋さんが女神に見える。


「そろそろ帰らないと行けないからね、残念」


 そうそう、諦めて、早川さん。


「舞華はどうする?」


 高橋さんが振り向いて尋ねて、俯いていた舞ちゃんが顔を上げる。まだ顔は赤いままだ。


「あ、悠くんと一緒に帰るから」


「……ふーん、そうなんだ」


 その返事に興味を持った早川さんがコチラを見やる。


「ほら、近所だから、送っていくから」


 とにかく話を打ち切らねければいけない。


「わかりました。バイバイ舞華ちゃん。先輩、今度聞きますからね」


 え、嫌だ。


「それでは失礼しますね。舞華、また学校で会いましょう。先輩もいずれまた」


 高橋さんも別に天使ではないようだった。

 とりあえず一息ついたので良しとしよう。



「それで、何か本当に買うんですか?」


 舞ちゃんにも誤魔化すための嘘だと思われていたみたいだ。


「舞ちゃんがウチで使う用のコップでも探そうと思って。可愛いのがいいよな、どんなのがいい?」


 ちょうどいいので本人に聞いてしまおう。


「えーと」


 舞ちゃんが少し考えている。


「いくつか店を回ってみよう。それで気に入ったのにしよう」


 舞ちゃんが遠慮がちに声を掛けてくる。


「あの……悠くん」


「どうした?」


 舞ちゃんが小さく囁くように声を出した。


「悠くんとペアセットなのが欲しい」


「ペアルックとか夫婦茶碗とかみたいな感じ?」


「……そう」


 ……そうか、そう来たか。絶対からかわれるヤツだよな、それ。

 “おそろいの食器”を使う二人を想像してみる。……流石にちょっと恥ずかしいかもしれない。

 ここは威厳有る態度で断ろう。そう俺は断れる男、なはず。


「えーと、舞ちゃん」


「ダメかな?」


 舞ちゃんが少し悲しそうな表情になる。

 いや、それでもココは引いてはいけない。いくら上目遣いが可愛いと言っても甘やかすのは教育上よくないからな、うん。ちゃんと断らないとダメだ。

 舞ちゃんの顔を見据えて言う。




「よし、それで探してみようか」



 俺がダメ男だった……。





 結局、並べると向かい合う雄猫と雌猫が描かれているコップを購入することになった。



 舞ちゃんが嬉しそうにしているからいいんだ…………。







 追求されたり、問い詰められたり、コップを探したりした為すっかり遅くなり、帰宅する頃には日が暮れていた。


「ただいま」


「ただいまー」


 荷物の入った袋ををリビングに並べる。


「遅くなちゃたねー」


「そうだな。あーなんか疲れた。なんか飲むか?」


 ホント、疲れた。


「こんな時間だと、今日の膝枕タイムは明日にお預けだねー」


 ――あ、持ち越し制なんですね。


 聞かなかったことにして、とりあえずお茶を入れる。


「ありがとー」


「そうそう、舞ちゃんにプレゼントがあるんだ」


「え? 私に? さっきのコップ以外に?」


「あれはプレゼントに入ってないよ」


「でもなんで? プレゼント貰うようなことないよ」


「えとねー」


 ペンギンのぬいぐるみの包を取り出して渡す。


「学校で勉強頑張っているから、ご褒美にこれ」


「わぁ、ありがとう! ……でも、あの時、頭を撫でて貰ってるのに、本当にいいの?」


 舞ちゃんは一瞬喜んだ後、少し戸惑っている。


「いいの、いいの。頭を撫でるなんてご褒美に入らないから、気にしないで」


「え? それじゃあ、もう頑張っても頭を撫でてもらえないの?」


 予想に反して、あんまり嬉しそうじゃない。もしかして、ペンギンはもう嫌いになったのかな? それとも、ぬいぐるみは卒業してたのかな?


「頭を撫でるくらい、いつでもするけど、……それより、動物の選択間違えた? それとも、ぬいぐるみは卒業した?」


「いつでも頭を撫でてくれるって本当?」


「ん? ああ、それは本当だけど、それより、ぬい」


「本当? 嬉しい!よかったー!」


 なんか急に喜びだした。


「ペンギンさんも大好きだよ、覚えててくれたんだ! 嬉しいなー」


 さっきまでの雰囲気は何処行ったんだろう? ちょっと困惑してしまう。


「ありがとー、悠くん。大事にするよー。毎日抱いて寝るよー」


「お、おう。大事にしてくれ」


 ちょっと圧倒されてしまう。


「ふふふー」


 嬉しそうに笑っている。さっきまでのは何だったんだろう?


「そうだ、もう一つ」


「まだ何かあるのっ?」


「毎日ご飯作ってくれてるから、そのお礼。これから暑くなるからね」


 お店で見かけた瞬間、似合いそうだなと思っちゃったから。


 つばが広くて丸い白色の帽子を手渡すと、舞ちゃんが目を丸くして驚いている。


「白なら他の服に合わせやすいと思ったんだけど、駄目だったら無理して被らなくてもいいから」


「全然大丈夫だよ! 駄目でも帽子に合わせるから!」


 舞ちゃんが勢い込んで答えてくれる。


「本当、無理しないでね」


「ねー、ねー、悠くん。どう? 似合う? 似合うかな?」


 帽子を被って聞いてきた。


「うん似合うよ、可愛いよ。でも俺のセンスは当てにしちゃ駄目だから、他の人にも聞いてね?」


「悠くんからのプレゼントがたくさんー。今日はいい日だなー、へへへー」


 舞ちゃんがクルクル回っている、ペンギンを抱え上げながら嬉しそうに。


 あ、聞いてないやこれ。





 その日、舞ちゃんは母さんが帰ってくるまで浮かれていた――





ずっと偏ってると、それが普通に思えてくる件

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