十六か月目、縫製の適性と小さな仕事。教会や町の顔役に紹介する。
四人目として鑑定を受け、縫製の適性が出た少女。
鑑定直後は、やはり少し落ち込んでいた。
ソラの槍のように冒険者になれるわけでもない。
ミサキの治癒魔法のように、分かりやすく人を助けられるわけでもない。
その様子が少し気になっていた博之は、数日後、少女が働いているところを覗きに行った。
「どう? やってる?」
「おっちゃん」
見ると、横丁の従業員から預かったらしい服を何枚か横に置き、ほつれたところを縫い直していた。
博之はしばらく黙って見ていたが。
「……速ない?」
「そう?」
「俺、縫い物なんかほとんどできへんから分からんけど、めっちゃ手際ええように見えるで」
針を通す。
糸を引く。
布を返す。
次の場所へ移る。
動きに迷いがない。
「これ、一着どれくらいでもらってんの?」
値段を聞いた博之は、少し眉を寄せた。
「安く請け負いすぎてへん?」
「大丈夫やで」
「ほんま? 仕事いっぱいしてるのに銭にならんかったら意味ないぞ」
博之が最初に心配したのは、腕ではなく値段だった。
「周りの仕立て屋とか、直しの値段調べた?」
「調べた調べた」
「ほんまに?」
「ほんまやって。一応、それくらいに合わせてる」
「ほなええけど」
少女は少し考えてから言った。
「ただ、私がどれくらい速いんかは分からん」
「というと?」
「他の人が同じの縫ったらどれくらい時間かかるか知らんし。それに……あんまり疲れへんねん」
「疲れへん?」
「うん。ずっと縫ってても、思ったより手もしんどならへん」
「それ、縫製の適性なんかな」
「分からん」
「俺にも分からん」
二人揃って首を傾げた。
縫製の適性とは何なのか。
針仕事が速くなるのか。
失敗しにくくなるのか。
疲労が減るのか。
覚える速度が上がるのか。
「まあ、その辺も自分で把握していったらええんちゃう?」
「うん」
「どっか働き口あるか、俺も聞いてみよか?」
「今のところは大丈夫」
「そう?」
「横丁の人が結構持ってきてくれるから」
「そうなんや」
博之は少し嬉しくなる。
「でも顔出しくらいはしとこ」
「顔出し?」
「教会とか、町の顔役とか。『こういう子おるで』って知ってもらっとくのは損ちゃうから」
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その日の午後。
博之は少女を連れて教会へ向かった。
「神父さん」
「また寄付ですか?」
「今日は違う!」
「珍しいですね」
「俺、金持ってくる人みたいになってへん?」
博之は少女を前へ出した。
「この前言うてた四人目。鑑定したら縫製やってん」
「おお」
神父は少女を見て笑った。
「それは良いですね」
「そうなん?」
「教会でも寝具や衣服のほつれはよく出ますよ」
「ああ、確かに」
「修繕をお願いできるなら助かります」
「有料やで」
「そこは当然です」
博之はすぐ釘を刺す。
「タダで仕事させたら、この子、銀貨百十枚返されへんから」
「分かっています」
少女も小さく笑った。
「仕事あったら声掛けたって。できるかどうか本人に見てもらったらええから」
「では次に修繕が出たらお願いしますね」
「はい!」
少女の返事が少し明るくなる。
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さらに町の顔役にも紹介した。
「縫製か」
「そう。俺もどこまで使える適性なんかよう分からんねん」
「なら、まず細かい仕事だろうな」
仕立て屋の手伝い。
服の補修。
裾直し。
古着の修繕。
「大きな仕事を一本取るというより、小さい仕事はいくらでもある」
「やっぱそう?」
「それにまだ子供で、熟練度も高くないんだろう?」
「鑑定したばっかりやからな」
「なら色々やらせてみればいい」
博之が少女を見る。
「ほら、俺と同じこと言うてる」
「おっちゃんが珍しく正しかったんやな」
「珍しくは余計や」
顔役も笑った。
「仕立て屋にも話しておこう。仕事を横取りするんじゃなくて、細かい修繕や忙しい時の
手伝いなら歓迎する店もあるだろう」
「それ助かるわ」
「本当に面倒見がいいな」
「面倒見よすぎんねん」
「自分で言うか?」
「最近反省してるから」
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帰り道。
博之は少女に聞いた。
「今のところ、縫製だけで食っていけそう?」
「まだ分からん」
「それでええよ」
足りなければ横丁で働けばいい。
今まで通り皿を運び、掃除をし、その空いた時間に修繕をする。
「別に明日から職人一本で食えって話ちゃうから」
「うん」
「疲れにくいっていうんも、ほんまに適性の効果か分からんしな」
「他のスキル持ってる人に聞いてみようかな」
「それええやん」
ソラ。
リク。
ミサキ。
それぞれ鑑定後、自分の適性がどんなものか少しずつ知っていった。
「スキル持ち同士で話す機会作ってもええな」
「おっちゃん、また仕事増やしてる」
「……ほんまや」
博之は頭を抱えた。
「もうやめよ。今日はここまで」
そして懐から以前渡した無料券の話をする。
「そういやチケットまだあるやろ?」
「ある」
「ほな今日は仕事ちょっと早めに切り上げて、一緒に働いてた子らの顔でも見てき」
「いいの?」
「ええよ。ジュース飲んで、サンドイッチでも食べて、のんびりしたらええ」
「……ありがとう、おっちゃん」
「働くんも大事やけどな。ずっと働いてたら嫌になるで」
少女は笑った。
鑑定結果は、派手なものではなかった。
けれど、針を持てば手が動く。
仕事を頼んでくれる人もいる。
紹介してくれる大人もいる。
そして駄目なら、戻って働ける場所もある。
少女は無料券を握りしめながら、横丁の方へ走っていった。
博之はその背中を見送り、小さく呟いた。
「……銀貨百十枚、案外返せるかもしれんな」
縫製という地味な適性にも、少しずつ道ができ始めていた。




