↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
97/172

博之43歳。異世界16か月目。二号店に何を足すか。リクの薬を2号店にもおいてやる。

 十六か月目。

 四人目の鑑定も終わり、博之は今度は二号店の統括を商会へ呼んでいた。

「今日は二号店の話な」

「はい」

「だいぶ安定してきたやろ?」

「そうですね。朝も客が来るようになりましたし、外の四卓も夕方は結構埋まります」

「ほな次、何足すか考えよ」

 二号店では、サンドイッチ、ジュース、ホットケーキ、餃子、スパゲティ、ハンバーグ、

 ビール、ワイン。

 さらに朝は、肉と野菜を煮込んだ汁物とパンも出すようになった。

「一号店ではやってるけど、二号店ではまだやってへんもん、結構あるやん」

「ありますね」

「洗濯は……まだちょっと違うかなあ」

 博之が腕を組む。

 二号店は今のところ、生活サービスの拠点というより飲食を中心に伸びている。

「散髪とか服もあるけど、それは後でもええと思う」

「じゃあ食べ物ですか?」

「そうやな。三発ぐらいまでは追加してもええと思うねん」

 候補はいくつかあった。

「ドーナツ」

「はい」

「生餃子」

「はい」

「鶏の唐揚げ。あと一口で食える豚カツみたいなんもありやな」

「全部やります?」

「やらん!」

 博之が即答する。

「それやって毎回現場から怒られてんねん」

 統括が笑った。

「自覚はあるんですね」

「最近できた」

 一気に全部増やせば、仕込みも仕入れも人員配置もややこしくなる。

「まずドーナツと生餃子からでええんちゃう?」

「その二つならやりやすいですね」

「ドーナツは朝もいけるやろ」

 甘い物が欲しい客。

 サンドイッチほど腹は減っていない者。

 子供への土産。

 ジュースや乳飲料とも合う。

「朝の選択肢増やせるし、おやつにも売れる」

「生餃子は?」

「もう餃子作ってんねんから一番楽や」

 包んだものを焼かずに持ち帰ってもらえばいい。

「夕方、飯作るの面倒やって人が買って帰るかもしれんやろ」

「確かに」

「まずその二つ。唐揚げとか一口豚カツは、その後な」

「珍しく慎重ですね」

「成長したと言って」

・・・・・・・・・・・・・

「あともう一個」

 博之が帳面とは別の紙を出した。

「リクの薬、置いたってくれへん?」

「薬草のリク君ですか?」

「そう」

 リクは薬草の買い取りと販売に加えて、小分けの薬や家庭向けの薬袋を試している。

 最初の初心者パックは見事に失敗した。

 だが、商品そのものが悪いのか、値段なのか、売り方なのかはまだ分からない。

「二号店のどっかに、小さい場所作ったって」

「一棚くらい?」

「棚でも、壁から布袋ぶら下げてもええよ」

 傷薬。

 腹の薬。

 熱冷まし。

 冒険者向けの少量パック。

「ただ置くだけちゃうで。売れたら店側も手数料取って」

「いいんですか?」

「そらそうやろ。店員が説明したり金預かったりするんやから」

「リク君にも販路が増えますし、悪くないですね」

「俺もそう思うねんな」

 問題は、そもそも知られていないことだった。

「告知が足らんねん」

「確かに薬を売ってるとは、外から見たら分からないです」

「やろ?」

 だから簡単な紙を作る。

『傷薬あります』

『熱冷まし・腹薬あります』

『薬草買い取りしています』

「こんなんでええから、二号店にも貼ったって」

「分かりました」

・・・・・・・・・・・・・・・

「リクー」

 そのまま博之は階下に声を掛けた。

「何?」

 リクが顔を出す。

「ちょっと来い」

「また先生の思いつき?」

「ええ話やぞ」

「怪しいな」

 博之は堂々と言った。

「お前、月銀貨一枚くれ」

「……いきなり金?」

「二号店に薬置いたる」

「え?」

「宣伝もしたる。薬草買い取りの紙も置いたる。店員にも売ってもらえるようにする」

 リクの顔が変わった。

「ほんま?」

「ほんま。月銀貨一枚。場所代と管理代な」

「ありがとうなんやけど……」

「なんや」

「めっちゃ恩着せがましいな」

「それぐらい偉そうにしてもええやろ!」

 博之は胸を張る。

「俺、貸し主やぞ!」

「そこだけ急に現実的やな!」

 統括まで吹き出した。

「でも、月一枚ならやってみたい」

「やろ?」

「二号店で売れるように、俺も商品考え直すわ」

 博之が一瞬黙った。

「……お前、自分から考えるって言うようになったな」

「何やねん」

「成長や」

「子供扱いすんな」

「いや、最初考えんのほぼ俺やったやん」

「先生が勝手に口出してきたんやろ」

「それな」

 博之も苦笑した。

「最近ちょっと反省してんねん。リクだけ面倒見すぎやなって」

「ええやん、別に」

「あかん。お前の事業やから」

 博之は紙をリクに渡す。

「場所は作る。客も多少流す。宣伝もする」

「うん」

「でも何を置くか、いくらで売るか、どうしたら買ってもらえるかは、自分でも考えや」

「分かった」

「売れへんかったら?」

「また変える」

「よろしい」

 横で聞いていた統括が笑った。

「なんだか先生と弟子みたいですね」

「先生ちゃうって」

「先生やろ」

「リクまで言うな」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 こうして二号店では、まずドーナツと持ち帰り用の生餃子を試すことになった。

 その片隅には、月銀貨一枚で借りたリクの小さな薬売り場もできる。

 新しい店を建てるわけではない。

 今ある客。

 今ある場所。

 今ある料理。

 そこへ、少しだけ新しいものを足していく。

「全部一気にやらん」

 博之は自分に言い聞かせるように呟いた。

「二つずつくらいや」

「一か月後にはまた増えてそうですけどね」

「統括、そういう不吉なこと言わんといて」

 二号店は、本店のコピーではなく。

 少しずつ、自分たちなりの形へ育ち始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。