博之43歳。異世界16か月目。二号店に何を足すか。リクの薬を2号店にもおいてやる。
十六か月目。
四人目の鑑定も終わり、博之は今度は二号店の統括を商会へ呼んでいた。
「今日は二号店の話な」
「はい」
「だいぶ安定してきたやろ?」
「そうですね。朝も客が来るようになりましたし、外の四卓も夕方は結構埋まります」
「ほな次、何足すか考えよ」
二号店では、サンドイッチ、ジュース、ホットケーキ、餃子、スパゲティ、ハンバーグ、
ビール、ワイン。
さらに朝は、肉と野菜を煮込んだ汁物とパンも出すようになった。
「一号店ではやってるけど、二号店ではまだやってへんもん、結構あるやん」
「ありますね」
「洗濯は……まだちょっと違うかなあ」
博之が腕を組む。
二号店は今のところ、生活サービスの拠点というより飲食を中心に伸びている。
「散髪とか服もあるけど、それは後でもええと思う」
「じゃあ食べ物ですか?」
「そうやな。三発ぐらいまでは追加してもええと思うねん」
候補はいくつかあった。
「ドーナツ」
「はい」
「生餃子」
「はい」
「鶏の唐揚げ。あと一口で食える豚カツみたいなんもありやな」
「全部やります?」
「やらん!」
博之が即答する。
「それやって毎回現場から怒られてんねん」
統括が笑った。
「自覚はあるんですね」
「最近できた」
一気に全部増やせば、仕込みも仕入れも人員配置もややこしくなる。
「まずドーナツと生餃子からでええんちゃう?」
「その二つならやりやすいですね」
「ドーナツは朝もいけるやろ」
甘い物が欲しい客。
サンドイッチほど腹は減っていない者。
子供への土産。
ジュースや乳飲料とも合う。
「朝の選択肢増やせるし、おやつにも売れる」
「生餃子は?」
「もう餃子作ってんねんから一番楽や」
包んだものを焼かずに持ち帰ってもらえばいい。
「夕方、飯作るの面倒やって人が買って帰るかもしれんやろ」
「確かに」
「まずその二つ。唐揚げとか一口豚カツは、その後な」
「珍しく慎重ですね」
「成長したと言って」
・・・・・・・・・・・・・
「あともう一個」
博之が帳面とは別の紙を出した。
「リクの薬、置いたってくれへん?」
「薬草のリク君ですか?」
「そう」
リクは薬草の買い取りと販売に加えて、小分けの薬や家庭向けの薬袋を試している。
最初の初心者パックは見事に失敗した。
だが、商品そのものが悪いのか、値段なのか、売り方なのかはまだ分からない。
「二号店のどっかに、小さい場所作ったって」
「一棚くらい?」
「棚でも、壁から布袋ぶら下げてもええよ」
傷薬。
腹の薬。
熱冷まし。
冒険者向けの少量パック。
「ただ置くだけちゃうで。売れたら店側も手数料取って」
「いいんですか?」
「そらそうやろ。店員が説明したり金預かったりするんやから」
「リク君にも販路が増えますし、悪くないですね」
「俺もそう思うねんな」
問題は、そもそも知られていないことだった。
「告知が足らんねん」
「確かに薬を売ってるとは、外から見たら分からないです」
「やろ?」
だから簡単な紙を作る。
『傷薬あります』
『熱冷まし・腹薬あります』
『薬草買い取りしています』
「こんなんでええから、二号店にも貼ったって」
「分かりました」
・・・・・・・・・・・・・・・
「リクー」
そのまま博之は階下に声を掛けた。
「何?」
リクが顔を出す。
「ちょっと来い」
「また先生の思いつき?」
「ええ話やぞ」
「怪しいな」
博之は堂々と言った。
「お前、月銀貨一枚くれ」
「……いきなり金?」
「二号店に薬置いたる」
「え?」
「宣伝もしたる。薬草買い取りの紙も置いたる。店員にも売ってもらえるようにする」
リクの顔が変わった。
「ほんま?」
「ほんま。月銀貨一枚。場所代と管理代な」
「ありがとうなんやけど……」
「なんや」
「めっちゃ恩着せがましいな」
「それぐらい偉そうにしてもええやろ!」
博之は胸を張る。
「俺、貸し主やぞ!」
「そこだけ急に現実的やな!」
統括まで吹き出した。
「でも、月一枚ならやってみたい」
「やろ?」
「二号店で売れるように、俺も商品考え直すわ」
博之が一瞬黙った。
「……お前、自分から考えるって言うようになったな」
「何やねん」
「成長や」
「子供扱いすんな」
「いや、最初考えんのほぼ俺やったやん」
「先生が勝手に口出してきたんやろ」
「それな」
博之も苦笑した。
「最近ちょっと反省してんねん。リクだけ面倒見すぎやなって」
「ええやん、別に」
「あかん。お前の事業やから」
博之は紙をリクに渡す。
「場所は作る。客も多少流す。宣伝もする」
「うん」
「でも何を置くか、いくらで売るか、どうしたら買ってもらえるかは、自分でも考えや」
「分かった」
「売れへんかったら?」
「また変える」
「よろしい」
横で聞いていた統括が笑った。
「なんだか先生と弟子みたいですね」
「先生ちゃうって」
「先生やろ」
「リクまで言うな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
こうして二号店では、まずドーナツと持ち帰り用の生餃子を試すことになった。
その片隅には、月銀貨一枚で借りたリクの小さな薬売り場もできる。
新しい店を建てるわけではない。
今ある客。
今ある場所。
今ある料理。
そこへ、少しだけ新しいものを足していく。
「全部一気にやらん」
博之は自分に言い聞かせるように呟いた。
「二つずつくらいや」
「一か月後にはまた増えてそうですけどね」
「統括、そういう不吉なこと言わんといて」
二号店は、本店のコピーではなく。
少しずつ、自分たちなりの形へ育ち始めていた。




