博之43歳。異世界16か月目。四人目の鑑定。縫製スキルでへこんでいるも博之が励ます
異世界十六か月目。
商会の二階には、いつもより妙な緊張感が漂っていた。
「ほな、一人ずつ入ってもらおか」
店長たちが名前を挙げてきた鑑定候補は三人。
男の子が二人、女の子が一人。
普段の勤務日数、仕事ぶり、周囲との付き合い方などを見たうえで、店長たちが絞った三人だった。
今日は最終面談である。
博之の横にはエレナ、セラ、ユーリ、ソラ、リク、ミサキらもいる。
一人目の少年が、ガチガチになって部屋へ入ってきた。
「そんな怖がらんでええよ。別に裁判ちゃうから」
「……はい」
「まずな。君含めて三人、店長らから名前上がってんねん」
「はい」
「で、そのうち一人だけ、今回は鑑定受けてもらおうと思ってる」
少年の目が大きくなる。
「ただし、タダちゃうで」
鑑定費用は銀貨百枚。
それを借りて鑑定し、返済総額は銀貨百十枚。
「何が出るか分からん。すごい適性出るかもしれへんし、地味なんかもしれへん。
何も役立ちそうなん出ん可能性もある」
「それでも返すんですか?」
「そこは返してもらう」
博之は曖昧にしなかった。
「ただ最悪、今の仕事続けながらゆっくり返せると思う。せやからまず聞きたい。
借金してでも鑑定したい?」
「したいです」
「分かった。ほんで普段、何の仕事してんの?」
そこからは仕事の話だった。
皿洗い。
配膳。
朝の仕込み。
荷物運び。
客とのやり取り。
「俺、君らの仕事ぶり直接ほとんど見てへんからな。自分で教えて」
三人を別々に呼び、同じような話を聞いた。
別に一番働いた者を機械的に選ぶわけではない。
妙な嘘をつかないか。
借金の意味を理解しているか。
鑑定後も仕事を投げ出さないか。
それを見る程度だった。
・・・・・・・・・・・・・・
最後に博之たちが選んだのは、三人目の女の子だった。
「まあ、次は女の子でもええか」
「そんな理由で決めてないですよね?」
エレナが横から言う。
「うっすらはあった」
「博之さん」
「冗談や!」
勤務態度も良い。
周囲への気配りもある。
何より本人が鑑定を強く希望していた。
数日後。
ギルドで鑑定を受けた少女は、その結果を聞いて微妙な顔になった。
「……縫製?」
「縫製適性ですね」
「剣とか魔法じゃないの?」
「残念ながら」
帰ってきた少女は露骨に落ち込んでいた。
博之はそれを見るなり手招きした。
「ちょっと来い」
「……うん」
「まずお疲れさん」
サンドイッチとドリンクの無料券を五枚渡す。
「これ使い」
「こんなにもらっていいの?」
「鑑定祝い。毎日はやらんぞ」
それでも少女の顔は晴れない。
「縫製、嫌なん?」
「だって……ダンジョン行かれへんやん」
「ああ」
博之は笑った。
「そこだけ見たらな」
そして横にいたリクを指差す。
「こいつ見てみ」
「俺?」
「お前や」
リクは鑑定で採取と鑑定の適性が出た。
当初は冒険者向きではないと落ち込んでいた。
今では薬草を買い取り、薬屋へ卸し、自分の事業を持っている。
「半月で銀貨何枚も利益出すようになってるぞ」
「まあな」
「ちょっと偉そうなったな」
「先生が言わせたんやろ」
博之は少女を見る。
「縫製も一緒やと思うで」
「ほんま?」
「知らん」
「え?」
「俺、縫製スキルがどこまで使えるか知らんもん」
服を作るのか。
破れを直すのか。
裾を直すのか。
店の印やワッペンを縫い付けるのか。
帆船の帆の補修にまで効くのか。
網仕事にも何か関係するのか。
「分からんから試したらええねん」
「でも仕事あるかな」
「そこがお前の一番恵まれてるところや」
博之は自分を指差した。
「おっちゃんの隠れ家商会におるやろ」
「うん」
「人だけはいっぱいおる」
横丁の従業員の服。
前掛け。
破れた布。
リクが今考えている薬を入れる布袋。
ミサキの治療に使う布類。
「とりあえず修繕したいもん集めたるわ」
「ほんま?」
「ほんで服屋にも聞いてみる。仕立て習わせてもらえるところあるかもしれへん」
普通なら、縫製適性が分かっても、そこから客を探さなければならない。
一軒ずつ回って仕事を頼み込む必要がある。
「でもそこは最初、おっちゃんが人流したる」
「……ありがとう」
「感謝してな」
「急に恩着せがましいな」
リクが横で笑う。
「俺、前の三人にも甘すぎるって最近反省してんねん」
「今さら?」
「うるさいわ」
博之は少女へ戻る。
「ただ、全部俺がやるわけちゃうぞ」
空いている時間に自分で試す。
何が得意なのか探す。
服屋で学ぶ。
それでも合わなければ、横丁で今まで通り働けばいい。
「銀貨百十枚は長いで。でも縫製って、逆に言えば引退あんまりないやろ」
「引退?」
「冒険者みたいに怪我して終わりになりにくいやん。年取ってもできるかもしれん」
少女が少し顔を上げた。
「それに、ここまでちゃんと働いたから候補に選ばれたんや」
「うん」
「途中で全部投げるような子やとは思ってへん。そこは信用してる」
目に涙が溜まった。
「……頑張る」
「ぼちぼちでええよ」
「おっちゃん、ありがとう」
「そうそう。最悪な」
「何?」
「ええ男捕まえて玉の輿乗って、借金返してもらう手もある」
「じゃあ、おっちゃんと結婚したらええん?」
「なんでそうなんねん!」
部屋が一気に笑いに包まれた。
「おっちゃん、子供には興味ないから!」
するとミサキが横からぼそっと言った。
「おっちゃん、子供じゃなくても女の人おんねんで」
「ミサキ」
「ただ鈍感すぎて、自分がモテてるってあんまり気づいてへんだけ」
「そういうこと言うなよ!」
「ほんまやん」
「おっちゃんも傷つくぞ!」
少女も涙を拭きながら笑った。
四人目。
剣でも魔法でもなかった。
縫製。
それでも博之は思う。
何が当たりで、何が外れかなど、今決める必要はない。
「まあ、とりあえず針持ってみよか」
「うん!」
そこから何になるのか。
それを探すところから、四人目の仕事は始まった。




