博之43歳。異世界15か月目後半。最初の三人と次の一人
十五か月目の後半。
博之は商会の帳簿を眺めながら、ふと思った。
「……最近、俺リクの面倒ばっか見てへん?」
薬草の仕入れ。
冒険者向け初心者パック。
丸薬。
小分け。
売り方。
気がつけば、何かと思いつくたびにリクへ口を出している。
「俺、あいつの共同経営者ちゃうぞ」
そんなことを呟いていると、商会の二階が騒がしくなった。
「おっちゃん、帰ったで」
「お、ソラ」
低層ダンジョンからパーティーが戻ってきたらしい。
ソラの後ろにはユーリとゼルダもいる。
「どうやった?」
「まあまあ」
「怪我は?」
「ない」
「ほな百点」
ソラは笑いながら袋を出した。
「あと、これ。今度の返済」
「ん?」
「銀貨八枚」
「おお」
「ユーリさんも八枚」
「はい」
ユーリも銀貨を置く。
「ええやん。ちゃんと稼げるようになってきたな」
ゼルダも頷いた。
「動きはだいぶ良くなってる。特にソラは、最初より周りを見るようになった」
「ほんま?」
「まだ突っ込みたがるけどな」
「ゼルダさん!」
「そこ直したらもっと良くなる」
博之は笑った。
「先生がおると違うな」
「俺も身体はまだ戻り切ってないけどな」
ゼルダ自身は、昔ほど身体が動かない。
それでも経験と技術がある。
低層なら、若い者を見ながら潜る余裕も出てきた。
「それで十分やと思うで」
博之は言った。
「身体能力でゴリ押しせんでも、どこ見たらええとか、逃げ時とか、そういうん教えてくれる方が
子供らには価値あるし」
「まあ、それはあるな」
・・・・・・・・・・・・・・・・
「そういやリクの初心者パック見た?」
博之が聞くと、ソラが露骨に微妙な顔をした。
「あれなあ」
「なんや」
「ぶっちゃけ、低層ってそんな怪我せえへんで」
「……おいリク!」
ちょうど階下にいたリクが顔を出した。
「何?」
「聞いたか!」
「聞こえてる!」
ゼルダも苦笑する。
「薬自体はあった方がいい。ただ初心者があの量を持つかと言われると微妙だな」
「ほら!」
「先生も同じこと言うてたやん!」
「せやから半分にせえ言うたやろ」
箱ではなく布袋。
薬も半分。
価格も下げる。
「初心者相手だけやなくて、普通の家に『安心袋』で売ってもええんちゃう?」
熱冷まし。
腹薬。
傷薬。
「鞄にちょっと入ってたら便利やろ」
「でも告知も足らんと思う」
「それもあるな」
ゼルダが口を挟む。
「要らない物ではない。ただ、『今これを買わないと困る』って物でもない」
「なるほど」
「だから高いと後回しになる」
「リク、勉強になったな」
「先生、楽しそうやな」
「失敗するんお前やからな」
「ひどい!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうこうしていると、今度はミサキがやってきた。
「おっちゃん」
「今日は何?」
差し出されたのは銀貨五枚。
「返済」
「五枚?」
「うん」
「ちょっと待て」
博之は銀貨より先にミサキを見る。
「自分の分、ちゃんと残してる?」
「残してるよ」
「ほんま?」
「治療って結構稼げるねん」
「なんか急に所帯じみた話するようになったなあ」
「仕事やもん」
治癒魔法は需要が高い。
ただし、無限に使えるわけではない。
「やりすぎると、やっぱりしんどい」
「やろ?」
「魔力減ってくると頭ぼーっとする」
「それ怖いやつやん」
「だから最近は無理せんようにしてる」
「そうして」
博之は少し考える。
「何したら回復早いん?」
「寝るのと、ちゃんと食べるのがいいって」
「ほな横丁で飯食え」
「食べてる」
「あと布団」
「布団?」
「ええ布団とかベッド買ったら?」
睡眠の質が上がれば、回復にも良いかもしれない。
「そこケチらんでええと思うで。身体が商売道具なんやから」
「なるほどなあ」
「銀貨五枚全部返すより、自分に使う金も残しや」
「はいはい」
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三人が揃ったところで、博之は少し声を落とした。
「これ、まだここだけの話な」
「何?」
「今月末か来月頭に、また一人鑑定しようと思ってる」
「え?」
ソラたち三人が顔を見合わせる。
「また増えるん?」
「多分な」
「俺らの時、めっちゃ待ったやん!」
「いやいや、お前らとは条件違うから!」
博之はすぐ反論した。
「お前ら三人、ほぼ問答無用で俺が受けさせたやろ」
「まあ……」
「今はちゃうぞ」
まず横丁に採用される。
そこから真面目に働く。
勤務日数。
仕事ぶり。
周囲の評価。
店長から名前を上げてもらう。
そのうえで本人が銀貨百十枚の借金を背負って鑑定するか決める。
「めっちゃ狭き門やからな」
リクが笑う。
「やっぱ俺らラッキーやったな」
「そうやぞ!」
「でも鑑定まで待たされたで」
「それはそれや!」
博之も笑った。
「早く拾われた代わりに、仕組み何もなかったから待った。今の子らは仕組みあるけど、
そこに入るまで大変。どっちもどっちや」
「なるほどな」
「ほんで次の子な」
博之は三人を見る。
「冒険者になるかもしれんし、リクみたいに商売側に行くかもしれん。ミサキみたいに
別の仕事になるかもしれん」
「うん」
「だから鑑定した先輩として、ちょっと面倒見たって」
ソラが胸を張る。
「任せて」
「ほんまか?」
「俺、先輩やで」
「まだ一年も経ってへんやろ」
「それでも先輩」
ミサキも笑う。
「でも毎月一人増えたら、結構な人数になるね」
「そうやねん」
博之は頭を掻いた。
「だから俺も、ちょっとめんどくさいこと始めたなと思ってる」
最初の三人だけなら、自分で見られた。
だが四人、五人、十人となれば無理だ。
「これからは、お前らも見る側な」
三人は顔を見合わせた。
拾われた側だった子供たちが、少しずつ次の誰かを迎える側になろうとしていた。




