博之43歳。異世界15か月目。二号店の朝飯とリクの失敗作
十五か月目の半ばを少し過ぎた頃。
博之は、今度は地区の商人たちが集まる会合に顔を出していた。
「すいません、ちょっと相談なんですけど」
「今度は何です?」
「二号店の前な。道沿いに机と椅子置いて飯食えるようにしたいねんけど、ええん?」
完全な露店ではない。
店の前に数組だけ机と椅子を置き、朝や夕方に客が食事を取れるようにしたい。
「通行を邪魔しない範囲なら可能ですよ」
「ほんま?」
「ただ、道路使用分として多少は払ってもらいます」
「そこは払う払う。勝手にやって揉める方が嫌やから」
場所を確認し、机の数や通路の幅を決める。
「ほな最初は四卓ぐらいにしよか」
「それくらいなら問題ないでしょう」
「ありがたいわ」
博之は最近、何かするたびに許可だの金だのが必要になることに慣れてきていた。
「昔は鍋一個置いて飯売ってただけやったんやけどなあ」
「今さら何を言ってるんです?」
「ほんまそれな」
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二号店については、もう一つ試したいことがあった。
「前、煮物あかんかったやろ?」
「はい」
「でも料理があかんかったというより、出す時間と形が悪かったんちゃうかな」
博之が考えているのは、肉じゃがのような煮物ではない。
もっと汁の多い、シチューに近いものだった。
肉と野菜を香辛料で炒める。
そこへ水や乳を加え、柔らかくなるまで煮込む。
少し濃いめの味にして、パンと一緒に出す。
「朝やったらどう?」
「朝ですか?」
「寒い日とか絶対うまいやろ」
パンを浸して食べる。
サンドイッチを持って仕事へ行く者には、別料金で持ち運び用の容器にスープを入れてもいい。
「一号店で似たようなんやってたやろ?」
「ええ」
「ここでもちょっと試して」
もちろん、いきなり大量には作らない。
「十人分とか二十人分でええよ。余ったら困るから」
「分かりました」
「朝飯ってまだまだ手薄やと思うねん」
昼と夜だけでなく、出勤前の人間を拾えるなら二号店にはまだ伸びしろがある。
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商会へ戻ると、今度はリクが待っていた。
「先生」
「嫌な予感する呼び方やな」
「初心者パック、全然売れへん」
「ほら来た」
「ほら来たって何やねん」
先日作った、冒険者向けの薬の詰め合わせだった。
回復用。
毒消し。
傷薬。
腹の薬。
必要そうなものを一通り入れた。
だが、思ったほど手に取られない。
「ゼルダさんとかには聞いたんやろ?」
「聞いた」
「現役の冒険者にも?」
「何人か」
「ほな……量多すぎるんちゃう?」
「量?」
「初心者って金ないやろ?」
「あ」
色々入って便利になった分、値段も上がった。
「全部欲しい人にはええけど、初心者がいきなり全部買えるかって話や」
「なるほど」
「半分にしたら?」
薬の数を半分。
値段も半分程度。
「あるいは箱そのものいらんかもしれん」
「箱作ったのに」
「失敗やな」
「先生が箱言うたやん!」
「俺も失敗するわ!」
博之は笑った。
「布袋でええんちゃう? 腰にぶら下げられるようにするとか」
さらに用途を冒険者だけに絞らなくてもいい。
「普通の家でも熱出るやろ」
「出るな」
「解熱用の薬を二つ三つ入れた家庭用の袋とかどう?」
傷薬。
腹薬。
熱冷まし。
ちょっとした体調不良に使うものを、少量ずつまとめる。
「家に一個置いといたら安心、って売り方もあるやん」
「冒険者だけじゃなくて?」
「そう」
薬の種類によっては、冒険者より一般家庭の方が客が多いかもしれない。
「あと傷の塗り薬な」
「うん」
「でっかい瓶じゃなくて、小さい容器に数回分だけ入れるとか」
「持ち運びやすくする?」
「そう。売り方変えたらいけそうな気すんねん」
博之はそこで止めた。
「ただな」
「何?」
「俺が全部言うたら意味ないから」
「えー」
「お前の商売や」
原価が高いのか。
量が多いのか。
客が違うのか。
宣伝が足りないのか。
そもそも商品自体いらないのか。
「その辺、自分で聞いて考えてみ」
リクはしばらく黙ってから頷いた。
「分かった。俺もちょっと成長してみるわ」
「そうして」
「とりあえず失敗作はソラとミサキに売る」
「売るんかい」
「安くする」
「まあ、使える薬ならええけど」
博之は少し考えた。
「ミサキんとこに置かせてもらうのもありちゃう?」
「治療院?」
「うん」
冒険者だけが来るとは限らない。
日常の擦り傷。
軽い熱。
腹痛。
そういう人間も来る。
「小さい傷薬とか、家庭用の薬袋とか置かせてもらってさ」
「売れたら?」
「ミサキに手数料払う」
「ああ」
「ただ置いてもらうだけでも場所使うんやから」
「先生、そういうとこ細かいな」
「金の話は細かくせなあかんねん」
リクが笑った。
「やっぱ先生優しいわ」
「あかんって」
「何が?」
「俺、優しすぎたって反省してんねん」
「また言ってる」
「お前も自分で考えろ!」
「はいはい」
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二号店では朝のスープを試す。
リクは売れない薬の詰め合わせを作り直す。
何かを出せば、全部当たるわけではない。
それでも博之は、それでいいと思っていた。
「最初から全部当たったら、逆に怖いわ」
失敗して。
少し小さくして。
客に聞いて。
また売る。
十五か月目。
横丁も、そこで育った子供たちも、そうやって少しずつ商売を覚えていた。




