博之43歳。異世界15か月目。増える金とリクの次の商品
異世界十五か月目も、ちょうど半分まで来た。
博之は商会の帳簿を前に、半月分の数字を確認していた。
「ほな、締めよか」
本店である横丁一号店の利益と、二号店の利益を合わせると銀貨五十三枚。
そこから先日、教会へ寄付した銀貨三枚を引く。
「ということで、俺のところは実質銀貨五十枚増えました、と」
「半月で五十枚ですか」
「昔から考えたらよう分からん数字やな」
もちろん、ここから設備を買ったり、誰かに融資したりすれば簡単に減る。
実際、少し前にはゼルダの治療融資のために銀貨五十枚をギルドへ追加で預けたばかりだ。
「まあでも、ちゃんと商売で増えてるならええわ」
一方、リクの薬草事業。
「こっちは?」
「利益、銀貨十一枚」
「おお。ええやん」
そのうち銀貨四枚を借金返済。
残り七枚は事業資金として残す。
「リクもだいぶ金持つようになってきたな」
「先生が全部返すなってうるさいから」
「そら言うわ。仕入れできんようになったら終わりやん」
売上も上がり、手元資金も増えてきた。
薬草を集める子供や老人。
それを買い取るリク。
薬屋。
商会。
少しずつ流れができ始めている。
・・・・・・・・・・・・・・・
「ただな、リク」
「何?」
「薬草そのまま売るだけやと、そのうち限界来ると思うねん」
「また何か思いついた?」
「思いついたというほどでもないけど」
博之は机の上にあった小さな箱を手に取った。
「薬屋と組んで、冒険者向けの商品作ったら?」
「冒険者向け?」
「例えば薬草を加工して、丸薬にする」
一回分を一口で飲める大きさにする。
粉だと風で飛ぶ。
液体だと瓶が割れる。
丸薬なら小さく、持ち運びやすい。
「俺、薬の専門家ちゃうから加工は薬屋に頼むんやで」
「うん」
「例えばや。回復用の丸薬を六個入れた小箱作る」
博之は箱を腰のあたりへ持っていく。
「それを紐でぶら下げられるようにしたら、ダンジョンで持ち歩けるやん」
「なるほど」
「原価、例えば銅貨四十枚」
「うん」
「六十枚で売る」
「二十枚儲かる」
「そういうこと」
百人に売れば、それだけでかなりの商売になる。
「しかも毎日使うもんちゃうやろ?」
「怪我しなかったら使わない」
「それでええねん」
博之は笑う。
「薬なんてある程度保存きくやろ。『使うため』というより『持ってると安心』で売るんよ」
毒消しも同じ。
五個入りの小袋。
傷薬なら、小さな容器に一回か二回分ずつ入れる。
「水筒みたいなでかい入れ物いらんやん。小さい蓋付きの容器にして、腰袋に入れられるように
したらええ」
「低層用のセットとか?」
「それそれ」
低層向けなら、
回復用。
毒消し。
傷薬。
腹の薬。
必要最低限だけ入れる。
「初心者冒険者セット、みたいにしたら?」
「売れるかな」
「少なくともソラには売れる」
「一人だけやん」
「セラさんとかゼルダさんにも聞いてみ。何持って行きたいか」
現役冒険者に聞けば、本当に必要な物が分かる。
「中層向けなら種類増やして高くするとかな」
「それ、俺の商売?」
「お前の商売や」
「先生がほとんど考えてるやん」
「最初だけや!」
博之は笑いながら手を振った。
「ここから先は自分で考えて。俺の事業ちゃうから」
「分かった、先生」
「先生優しいな」
「自分で言うん?」
「いや、俺最近反省してんねん」
「何を?」
「優しすぎた」
リクが露骨に嫌そうな顔をした。
「何その顔」
「先生が?」
「そうやぞ」
「俺らにはめっちゃ甘かったけどな」
「せやからや!」
・・・・・・・・・・・・・・・・
博之は最近、教会から三人の子供を試しに雇った話をした。
「知ってる?」
「ちょっと聞いた。三人来て、一人辞めさせたんやろ?」
「辞めさせた言うと感じ悪いな」
ただ、仕事をよくサボった。
頭はいい。
教会での成績も一番だった。
しかし今の横丁には、他にも働きたい人間が山ほどいる。
「お前らの時と全然違うで」
「そんな人気なん?」
「めちゃめちゃ来る」
子供だけではない。
若い娘。
料理経験のある大人。
接客が得意な者。
とにかく仕事を求める者が並んでいる。
「今なんか、まず横丁で採用されるところから競争やぞ」
リクが少し黙った。
「……俺ら、めっちゃラッキーやったな」
「そうやぞ!」
博之は勢いよく指をさす。
「ボロ小屋住んでたお前ら拾って、飯食わせて、字教えて、鑑定までしたんやぞ」
「はいはい」
「もっと感謝せえ」
「してるって」
リクは笑う。
「でも俺、あの時先生に会ってなかったら、今薬草売ってないもんな」
「まあな」
「銀貨十一枚利益出すなんて絶対無理やった」
「……そう言われると、ちょっと嬉しいな」
「先生、ちょろいな」
「うるさいわ」
二人で笑った。
半月で、博之には銀貨五十枚。
リクの事業には銀貨十一枚の利益。
借金も少しずつ減り、事業資金は少しずつ増えている。
そして今度は、ただ薬草を集めて売るだけではなく、冒険者が持ち歩く商品へ。
「まあ、焦らんと一個試してみ」
「低層用?」
「うん。十箱でも二十箱でもええやん」
「売れなかったら?」
「そん時はソラにいっぱい買わせよ」
「ひどっ」
商売というものは、試して、失敗して、また変える。
博之自身がずっとそうしてきた。
十五か月目。
最初に拾った子供たちも、少しずつ、自分で商売を考える側へと変わり始めていた。




