博之43歳。異世界15か月目。店長たちとの選抜会議
十五か月目の半ば。
博之は横丁の各店長や、商会側で人の出入りを見ている者たちを一度集めた。
「ちょっと今日は人の話な」
商会の会議室に十人ほどが集まり、帳簿係も端の方に座る。
「みんな見てたら分かると思うけど、今うち、子供らの鑑定に金貸したり、怪我した
冒険者に治療融資したりしてるやろ」
「はい」
「ゼルダさんのもそうですね」
「そう。あれ金貨三枚やからな。思い出すたび怖いけど」
何人かが笑った。
「ほんで次からの子供の鑑定なんやけど」
博之は机の上の紙を軽く叩いた。
「基本的には、うちの横丁で働いてる子から候補を出したいと思ってんねん」
店長の一人が頷く。
「勤務実績を見るということですか?」
「そうそう」
ただ、単純に長く働いているだけではない。
「動きがええとか、ちゃんと周り見てるとか、言われたこと守るとか。あと勤務日数多い子な。
その辺込みで何人か上げてほしい」
「何人くらいです?」
「最初は三人とか五人とかでええよ」
そこから博之たちが確認する。
ただし、候補になったからといって必ず鑑定するわけでもない。
「まず本人が受けたいか聞かなあかんしな」
「受けたくない子なんているんですか?」
「おるかもしれへんやん」
博之は肩をすくめた。
「鑑定代、銀貨百枚やぞ。返済は銀貨百十枚。借金やからな」
「それでも受けたい子の方が多いと思いますけど」
「俺もそう思うけど」
だからこそ説明は必要だった。
良い適性が必ず出るわけではない。
冒険者向きとも限らない。
そもそも目立った適性が出ない可能性だってある。
「最初の三人見てても色々あったからさ」
ソラは槍。
ミサキは治癒。
リクは採取と鑑定。
「リクなんか最初へこんでたからな。冒険者向きちゃうって」
「ああ、ありましたね」
「でも今、薬草の商売やって利益出してるやろ?」
「出してますね」
「せやから鑑定結果だけ見て、当たり外れって決めるもんでもないねん」
博之は続ける。
「ただ、そこに乗せるまでを俺一人でやるんはもう無理」
一人一人の皿洗いを見る。
掃除の仕方を見る。
遅刻を見る。
店での人当たりを見る。
「最初の三人はな、俺が面倒見良すぎて全部やってもうた」
「自分で言うんですね」
「実際そうやろ」
皆が笑う。
「でも今それやったら俺死ぬで」
横丁本店。
二号店。
融資。
教会。
商会。
さらに月に一、二回は町の商人や顔役の集まりにも出なければならない。
「町の会議出て、帰ってきてから子供の皿洗い一人一人確認するとか無理やって」
「確かに」
「せやから店長らで見立てて」
気になる子がいれば名前を上げる。
何が良いかも書く。
勤務半年。
遅刻なし。
接客が良い。
数字を覚えるのが早い。
「それを俺が最後見て、鑑定融資するか決裁する」
「分かりました」
「店長候補も同じな」
「店長ですか?」
「子供だけちゃうで」
仕事のできる若い者や、大人でも人をまとめられそうなら見ておいてほしい。
「二号店もあるし、その先どうなるか分からんからな。俺が全部の店見るんはもう無理や」
現場から次の店長を育てる。
博之にとって、鑑定よりむしろこちらの方が重要になる可能性すらあった。
・・・・・・・・・・・・・・
「あと一個」
博之は少し声を落とす。
「これ、あんま外で言わんといてな」
「何をです?」
「横丁で真面目に働いてたら、鑑定候補になれるって話」
「ああ」
「これ広まったらまた求人殺到するやろ」
店長たちが一斉に笑った。
「確かに」
「今でも受付いっぱいですよ」
「せやろ!」
博之は机を叩く。
「神父さんにも喋ってもうたけどな。あっちは推薦枠としてしゃあない」
「最近の子供たち、確かにやる気違いますよ」
「そうなん?」
「横丁は飯がうまいって評判なんですよ」
「そこなんや」
「給料もちゃんと出るし、余ったら飯も食べられる。働きたいって子はかなり多いです」
「評判良すぎるのも怖いけどなあ」
博之は苦笑する。
人気が出れば人が集まる。
人が集まれば揉め事も増える。
勘違いする者も出る。
「ほどほどがええねんけどな」
「今さら無理でしょう」
「なんでやねん」
また笑いが起きる。
博之は最後に指を立てた。
「あと、火の元だけはほんま気ぃつけてな」
「急ですね」
「いやマジで」
炭火。
油。
酒。
木造の店。
人も多い。
「ここ丸焦げになったら俺、全部終わるから」
一瞬静かになったあと、全員が吹き出した。
「笑い事ちゃうぞ!」
「博之さんが一番心配性ですね」
「金貸して、人雇って、店建ててんねん。そら心配性にもなるわ!」
そんな調子で会議は終わった。
今まで博之が一人で見ていた人間を、これからは店長たちが見る。
その中から働ける者が残り。
さらにその中から、鑑定を受ける者や、次の店を任される者が出てくる。
横丁はいつの間にか、飯を食べる場所だけではなく。
誰かが次の場所へ進むための、最初の入口になり始めていた。




