博之43歳。異世界15か月目。教会の三人。神父さんに寄付がてら世間話しにいく。
数日後。
博之は銀貨三枚を袋に入れ、久しぶりに教会へ顔を出した。
「こんにちはー」
「ああ、博之さん。今日はどうされました?」
「寄付です」
そう言って銀貨三枚を差し出すと、神父が苦笑した。
「またですか?」
「またです。あと、今日は世間話しに来ました」
「これだけいただいて、世間話もしませんとは言えませんね」
「そういうことです」
教会の中へ入ると、何人かの子供たちが博之を見つけた。
「おっちゃん、おはようございます!」
「おっちゃん!」
「おう、おはよう。なんや今日はえらい愛想ええな」
妙に何人も声を掛けてくる。
「どういう風の吹き回し?」
博之が首を傾げると、神父が少し気まずそうに笑った。
「実はですね。読み書きと計算の成績が上から三人の子には、おっちゃんの横丁で
働かせてもらえるかもしれない、と話しまして」
「なんで勝手にそんな約束してんねん!」
「えっ」
近くにいた子供たちが一斉に不安そうな顔になる。
「おっちゃん、雇ってくれへんの?」
「雇うよ!」
「どっちなんです?」
「そこは雇うねん!」
博之が頭を掻いた。
「まあええわ。上から三人、誰?」
呼ばれてきたのは、十歳前後の男の子二人と女の子一人だった。
三人とも緊張している。
「そんな固くならんでええよ」
博之は懐から三枚の券を出した。
「これ、サンドイッチとジュースの無料券」
「もらっていいの?」
「ええよ。一人一枚な」
神父に渡す。
「働くって決める前に、一回横丁へ遊びに来させたって。飯食って、
『ここで働くんやな』って見てもらったらええ」
「ありがとうございます」
「ただし」
博之は三人を見る。
「全部の料理をタダで食わせるわけちゃうぞ」
子供たちが笑う。
「それとな。最初から楽な仕事できると思わんといて」
「はい」
「皿洗いとか掃除とか、荷物運んだりとかや。しんどい日もある」
「うん」
「でも、働いたら働いた分だけ飯は食える。そこだけは約束するわ」
「おっちゃん、ありがとう!」
「ぼちぼちやりや」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
三人が離れていったあと、神父がしみじみ言った。
「それにしても、仕組みとして回り始めていますね」
「まあなあ」
博之は椅子に座った。
「ただ神父さん、ここの推薦枠は別枠やからな」
「別枠?」
「最近、求人めっちゃ来んねん」
黄色の申込書だけでもかなりの数になる。
「まず横丁で働くこと自体が、一苦労になってきてる」
「そんなに人気なんですか?」
「飯出るし、給料もちゃんと出すし、殴られへんからな」
「最後の基準が悲しいですね」
「この辺やと大事やで」
博之は指を一本立てた。
「俺、今まで子供三人に鑑定受けさせたやろ?」
「ソラ、リク、ミサキですね」
「そう。で、この前は重傷の上級冒険者の治療に金貨三枚、銀貨三百枚の融資を組んだ」
「三百……」
「俺も契約してから怖なったわ」
ただ、ソラもユーリもリクもエレナも、少しずつ返済している。
ゼルダも治療とリハビリが終われば返済に加わる。
「それが戻ってきたら、また銀貨百枚くらい作れるやろ」
「次の鑑定ですか」
「そう」
神父が教会の子供たちを見る。
「では、うちの上位三人は相当優遇されているんですね」
「それ子供らに言うたらあかんで!」
「なぜです?」
「めちゃくちゃ勉強されても困るから」
「勉強するのはいいことでしょう」
「そうやけど、全員鑑定できるわけちゃうねん!」
神父が笑う。
「まあ次からの基準は、まずうちで働いてること」
その中で勤務態度がいい。
遅刻や無断欠勤が少ない。
周囲とうまくやれる。
人の物を盗まない。
読み書きや計算も勉強する。
「俺一人で全部見られへんから、大人らが見て『この子ええんちゃう』ってなった子を上からやる」
「かなり選抜になりましたね」
「せやねん」
鑑定して冒険者向きなら冒険者へ。
リクのような採取や鑑定なら、その能力を使える仕事を考える。
「何もええ適性出んかったら?」
「それはそれや」
博之はあっさり言った。
「スキルなくても店で真面目に働いてくれたらええやん」
「なるほど」
「鑑定は人生逆転券ちゃうからな」
ミサキのように治療を覚え、将来は治療所で働く者もいるだろう。
冒険者が増えてきたら、子供たちだけで組ませることも考えている。
「その時はゼルダさんとかセラさん、ユーリさんみたいな経験者を先生役にする」
「……それ、かなり大きな集団になりますよ」
「そう?」
「この地区の若い冒険者に、『おっちゃんのところで育った子』が増えるんでしょう?」
「やめて。怖いから」
「一大勢力ですよ」
「俺そんなもん作るつもりないって」
博之が顔をしかめる。
「ただ貧困街の子が、十歳そこそこで一生決まるみたいなんが嫌なだけや」
「それを希望の光と言うんですよ」
「あんまり持ち上げんといて」
「でも、横丁が安定して、二号店まで伸びている。この流れが続けば、かなり変わります」
「ぼちぼちや」
「その『ぼちぼち』の速度が、日に日に上がっています」
「それ俺も怖いねん」
商売に絶対はない。
どこかで売上が落ちるかもしれない。
融資が焦げ付くかもしれない。
二号店が失敗する可能性だってある。
「できる範囲だけやるわ」
「博之さんに何かあった時が心配ですね」
「まあ、その時は周りがちょっと気ぃ使ってくれたらええかな」
神父が微笑む。
「ご自分のお子さんができるかもしれませんしね」
「子供?」
「はい」
「それは……まあ、よう分からん」
「そうなんですか?」
博之は少し黙ってから、ぼそっと言った。
「一緒に住んでる女の人からな」
「はい」
「そろそろ責任取ってください、みたいなこと言われまして」
神父が吹き出した。
「何笑ってんねん!」
「いや、博之さん。そちらの方が先に大問題じゃないですか」
「俺もそう思ってんねん!」
教会の中に笑い声が響く。
銀貨三枚を寄付し、子供三人の働き口を決め、将来の鑑定の話をして。
最後は自分の女関係を神父に笑われる。
十五か月目。
博之が思い描いていた「異世界の飯屋生活」は、どう考えても最初とは別物になっていた。




