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博之43歳。異世界14か月目後半。商会への申し込みの内容分け。紙の色と二号店の酒

 十四か月目の後半。

 おっちゃんの隠れ家商会の事務所には、また紙の束が増えていた。

「……これ、もう何が何やら分からんな」

 博之が机の上を見てため息をつく。

 求人。

 鑑定融資。

 負傷した冒険者の治療融資。

 教会からの紹介。

 顔役からの推薦。

 それ以外の相談。

「一枚ずつ開いて確認すんの、地味にしんどいねん」

「では、種類ごとに分けます?」

「それやな」

 博之は帳簿係たちと相談し、紙そのものを変えることにした。

「黄色は働きたい人。求人とか体験勤務な」

「はい」

「青は鑑定融資」

「赤は冒険者の治療融資ですか?」

「そう。緑は教会とか顔役からの推薦」

「白は?」

「その他。何か分からん相談は全部白」

 机の上に五種類の紙を並べてみる。

「これやったら遠目でも分かるやろ」

「ただ、色付きの紙を毎回用意できるとは限りませんよ」

「ああ、そっか」

 この世界で色紙を大量に安く揃えられるとは限らない。

「ほな印でもええわ」

「印?」

「丸、三角、四角、星とか」

 彫刻の立派な印章など必要ない。

 簡単な木型でも作って、受付で印を付ければいい。

「黄色の代わりに丸、青なら三角、みたいに決めといたらええ」

「文字が読めない人にも分かりやすいですね」

「お、それもあるな」

「そこまで考えてなかったんですか?」

「結果よければええねん!」

 まずは試す。

 やりにくければ、また変える。

「赤が増えすぎたらセラさんらに先に見てもらうとか、青が増えたら勤務歴あるやつ

 優先するとかな。運用は後で考えよ」

「ずいぶん適当ですね」

「最初から完璧な制度作ろうとしたら、何も始まらへん」

 こうして受付には、色と印で仕分けされた箱まで置かれるようになった。

「……ほんま役所みたいになってきたな」

「博之さんの商会ですよ」

「俺、飯屋始めただけやったんやけど」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 一方、一号店の横丁については、博之自身が少し考え方を変えていた。

「こっちは、もう無理に広げんでええかな」

 飯。

 酒。

 甘味。

 洗濯。

 散髪。

 薬。

 服。

 周辺店舗との紹介。

 かなり揃った。

「店増やすより、揉め事ないか見といて」

 客同士の喧嘩。

 露店同士の場所争い。

 周辺店舗との価格競争。

 夜の騒音。

「今あるもんをちゃんと回す方が大事や」

 横丁は拡張する場所から、安定させる場所へ変わりつつあった。

・・・・・・・・・・・・・・・

 その代わり、まだ伸ばせそうなのが二号店だった。

「向こうはもうちょいやってみよ」

 既存のサンドイッチ。

 冷たい飲み物。

 ホットケーキ。

 餃子。

 スパゲティ。

 どれもそれなりに売れている。

「ハンバーグ、まだやろ?」

「まだです」

「ほな試そ」

 安い肉の端と野菜を混ぜ、卵や粉でまとめ、大きく焼く。

 さらに博之が目を付けたのが酒だった。

「そういや向こう、ビール出してへんやん」

「ワインもですね」

「冷たい酒あったら餃子とかハンバーグに合うやろ」

 そこで冷却箱を二つ用意した。

 一つは果物と牛乳、ジュース用。

 もう一つはビールとワイン専用。

「分けるんですか?」

「酒入れすぎて果物入らん、とかなったら嫌やん」

 それぞれの店で全部を作る必要もない。

 餃子が余れば隣へ。

 ハンバーグを食べながらスパゲティも欲しい客がいれば、それぞれの店から持ってくる。

 サンドイッチに揚げ物。

 餃子に冷たいビール。

 スパゲティにワイン。

「近いんやから融通し合えばええねん」

 徐々に夕方以降の客が増え始めた。

「ビール二つ!」

「こっちは餃子とワイン!」

「ハンバーグ追加!」

 報告を聞いた博之が笑う。

「ええやん。飲み物入るとやっぱ単価上がるな」

「また商売の顔してますよ」

「そら商売してんねんから」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ただ、新しい料理の候補はまだあった。

 博之は以前この地区で食べた、米に似た穀物を思い出す。

「これも何かできそうなんよなあ」

「新しい料理ですか?」

「できそうやけど……今はやめとこ」

 周囲が意外そうに見る。

「珍しいですね」

「俺も学習すんねん」

 餃子を始めた。

 スパゲティも増やした。

 ハンバーグも試す。

 酒も始めた。

「これ以上一気に増やしたら、現場が何作ってるか分からんようになる」

 米らしきものは、もう少し落ち着いてから。

「追い追いや」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そうして半月。

 一号店は大きく広げず、揉め事を減らすことに力を使う。

 二号店では、酒と料理の組み合わせを増やしながら、現地の人間に少しずつ仕事を任せる。

 商会では、色と印の付いた申込用紙が積み上がっていった。

 ある日の夕方。

 博之が受付を見る。

「今日どんな感じ?」

「黄色……求人が十二件。青の鑑定融資が六件。赤の治療融資が四件です」

「多いなあ」

「緑の推薦が三件」

「白は?」

「七件」

「白、何の相談やねん」

「読んでください」

「そこは俺なん!?」

 帳簿係が笑う。

 店を増やすより、人と相談の方が増えてきた。

 それでも博之は、積み上がった紙を眺めながら少し笑った。

「まあ……色分けしただけでも、前よりマシか」

 飯屋から始まった小さな店は、十四か月目の終わりへ向けて、少しずつ「人が集まる場所」

 そのものへ変わり始めていた。

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