博之43歳。異世界14か月目後半。商人会議と、次の治療候補
十四か月目前半の帳簿締めを終えた数日後。
博之はセラ、ユーリ、ソラの三人を商会の部屋に呼んだ。
「ちょっと頼みあんねん」
「また面倒なことか?」
セラが最初から警戒する。
「まあ、ちょっとな」
「やっぱり」
「いやでも、お前らにも関係ある話や」
博之が机の上に置いたのは、最近急激に増えている治療融資希望者の書類だった。
「今、怪我した冒険者からめっちゃ申し込み来てんねん」
腕を痛めた者。
脚を悪くした者。
魔力の巡りを損ねた者。
治療すれば復帰できる可能性がある者も少なくない。
「せやけど俺、冒険者のことよう分からん」
「まあな」
「だから三人で見てほしい」
博之はセラを見る。
「今のパーティーに、どんな人間が欲しい?」
「うちに?」
「そう。前衛でも後衛でもええし、斥候とか荷物持ちとかでもええ」
そして申し込みの中から、
「こいつなら治したら使えそうとか、こいつなら逃げへんとか、その辺見積もって」
「結構責任重いな」
「ごめん」
博之は素直に頭を下げた。
「でもセラもユーリも、こっちで治療代の流れ作ったやろ。ソラも今、返済しながら冒険者やってる」
「うん」
「せやから、次の人間を選ぶところまで少し手伝ってほしいねん」
治療費はいくら必要なのか。
治療後、どれくらいで復帰できるのか。
借りた金を返せそうなのか。
ギルドでの依頼達成率や揉め事の有無。
「あと、パーティー組んで一緒に返せそうかも見て」
セラが書類を数枚めくった。
「分かった。私とユーリで過去の評判も聞いてみる」
「俺も見る」
ソラも頷いた。
「ありがとう」
「次の鑑定は?」
「一回休み」
博之は即答した。
「ミサキまで三人続けてやったからな。ソラもまだ残債あるし、金貨一枚は軽い金ちゃう」
「確かに」
「次の半月締め見てから考える」
・・・・・・・・・・・・・・
その日の午後。
今度は地区の商人たちの会合だった。
「……帰ってええ?」
「まだ始まってへんぞ」
「会議嫌いやねん」
顔役に睨まれ、博之は渋々座る。
議題は、店同士の揉め事や在庫、値付け、露店の場所など。
話を聞いているうちに、博之がぽつりと言った。
「うちでは、あんまり値段だけで勝負せんようにしてますけどね」
「どういう意味や?」
「安売りしすぎたら揉めるから」
二号店で実際に失敗した。
「その代わり、近所の店のチラシ置いたり、うちの従業員を割引してもらったりしてます」
「それで得するんか?」
「その場の利益だけなら減る時もありますよ」
博之は頷く。
「でも売れへん在庫抱えて腐らすくらいなら、従業員向けにちょっと安く売って
回転させた方がええでしょ」
「ああ……」
「売れ筋分かったら、次そこ多めに仕入れたらええし」
さらに、店同士で無料券を交換する。
こちらから客を送る。
向こうからも客が来る。
「目先で銅貨何枚取るかより、店同士で客回した方が長い目では楽ちゃいます?」
何人かの商人が頷いた。
「なるほどな」
「さすがやな。今あれだけ回してるだけあるわ」
「いやいや。たまたま今うまくいってるだけです」
博之は苦笑する。
「あと炊き出しでも何でも、たまに周りに還元してたら、大揉めは減るんちゃいます?」
「実際、博之さんの横丁できてから治安も少し良うなったぞ」
「ほんまですか?」
「仕事なかった連中も何人か拾ってるやろ」
「ああ……」
「暇で暴れてた連中が働くようになっただけでも違う」
「そこまで考えて雇ってへんかったけどなあ」
すると、一人の商人が笑った。
「ただ怖いんは、博之さんが商圏広げすぎることや」
「え?」
「そのうちこの町全部、隠れ家に取られるんちゃうかって」
「取らへん取らへん!」
博之は慌てて手を振った。
「二号店は出しましたけど、全部自分でやったら俺が死にますって」
「でも横丁の店だけやなく、周辺の店まで紹介してるやろ?」
「それは喧嘩したくないからです」
「共存か?」
「まあ、そんな感じです」
商人たちが感心したように見る。
「なんか君主みたいやな」
「やめてください」
「政治家みたいでもある」
「もっと嫌です」
博之は真顔になった。
「ただのスケベなおっさんですよ、俺」
一瞬静かになり。
誰かが吹き出した。
「そんなこと自分で言うか?」
「言いますよ。なんなら綺麗なお姉さんと酒飲めるなら普通に嬉しいですし」
「話分かるやん!」
場が一気に緩んだ。
「でも博之さん、奥さんおるんやろ?」
「奥さんはいませんよ」
「ほな女は?」
「……恋人っぽい人とか、仲良くしてくれてる人はいます」
「そらそうやろ!」
「これだけ店持って金回してたら、女も寄ってくるわ」
「いや、それがですね」
博之は頭をかく。
「一人はボロ小屋みたいな頃からの付き合いやから、金目当てという感じでもないんですよ」
「もう一人は?」
「冒険者ですね」
「なんや、ちゃんとおるやん」
「この前なんか、隣の商業地区の夜の店を社会勉強で見に行ったんですよ」
「一人で?」
「いや、女性二人連れて」
「は?」
「監視役です」
商人たちが固まる。
「女二人連れて女のいる店行ったんか?」
「そうです」
「何しに行ったんや!」
「社会勉強ですって!」
博之が必死に説明する。
「高級店も見たけど、帰りに『もう次はないですよね』ってめっちゃ睨まれました」
数秒後。
部屋中が爆笑に包まれた。
「旦那、それもう十分や!」
「店行く必要ないやろ!」
「俺もそう思いましたわ!」
博之まで笑う。
商人の会議。
最初はただ面倒なだけだと思っていた。
けれど、商売の話をして、くだらない話をして、笑ってみれば。
「……まあ、たまに来るくらいなら悪ないか」
「聞こえたぞ」
「月一回くらいな!」
こうして博之は、嫌々ながらも少しずつ、商人たちの輪の中にも入り始めていた。




