博之43歳。異世界14か月目。中間の中締めと増えすぎた問題。
十四か月目の中旬。
おっちゃんの隠れ家商会では、また半月分の帳簿締めが行われていた。
「ほな一号店から聞こか」
博之が椅子に座ると、帳簿係が数字を読み上げる。
「売上自体は前回より増えています。ただ、利益は銀貨三十三枚ほどです」
「まあそんなもんか」
洗濯、散髪、甘味、飲食。
客数そのものは安定して増えている。
だが帳簿係を二人増やし、近隣の店には無料券を配り、教会との付き合いも続けている。
「売上伸びたからいうて、全部俺の懐に入るわけちゃうしな」
「むしろ最近、博之さんは出す方も増えてますからね」
「そこはええねん。周りとうまくやる方が長く続くやろ」
続いて二号店。
「こちらは銀貨十三枚ほど利益が出ています」
「十三? 結構伸びたやん」
「スパゲティと餃子を始めたのが大きいですね」
元々のサンドイッチと飲み物、ホットケーキは順調。
そこへ餃子とスパゲティを加えたところ、昼と夕方の客が増えた。
「煮物は?」
「……あまり」
「やっぱあかんか」
博之は頭をかいた。
「一号店では出るんやけどな」
「地区が違えば好みも違うんでしょうね」
「ほな煮物はいったん退場や」
「すぐやめるんですね」
「売れへんもん意地で置いてもしゃあない」
代わりにまだ試していないものはある。
「ドーナツ、まだやってへんな」
「はい」
「揚げ物も、サンドイッチには入れてるけど単品はまだ弱いか」
「唐揚げやカツですね」
「あとはハンバーグもあるな」
博之は少し考えてから首を振った。
「まあ追い追いや。全部一気にやったら現場死ぬ」
それ以上に大切なのは、二号店の人間だった。
「ちゃんと向こうの地区の人も雇ってな」
「統括から何人か候補が上がっています」
「それでええ。こっちの人間だけ送り込んだら、いつまでたってもよそ者やから」
そしてもう一つ。
「教会への寄進、忘れんように」
「はい」
「商売だけしに来ました、儲かったら帰ります、では嫌われるからな」
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「リクの方は?」
別帳簿を開く。
「薬草事業は順調です」
「ほな、あんまり俺から言うことないな」
「珍しい」
近くにいたリクが笑う。
「ただし調査は続けろよ」
「分かってるって」
「買い取り値、卸値、季節、採れる場所。他の薬屋が何欲しがってるかもな」
「はいはい、先生」
「あと人付き合い」
「何?」
「教えてもろた時とか、助けてもろた時な」
必ず金を払えという話ではない。
「菓子一個でもええし、飲み物でもええ。なんかちょっと渡すだけで全然違うぞ」
「そんなもん?」
「そんなもんや。人間、得した損しただけで付き合ってるわけちゃうから」
「おっちゃん、そういうの気にするんやな」
「気にするで。俺、意外と繊細やから」
「それは知らん」
「そこ否定すんな!」
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だが、数字以上に問題になっていたのが商会の受付だった。
「で……こっちは?」
博之が机の端に積まれた紙を見る。
「鑑定融資希望です」
「こんなに?」
「それと冒険者の治療融資希望」
さらに、その横にも束がある。
「これは?」
「求人です」
「……俺、全部見んの?」
「無理でしょうね」
「即答やな」
ソラ、リク、ミサキ。
セラ、ユーリ。
実際に鑑定や治療へ金を回した例が増えたことで、噂が広がりすぎていた。
「ほな最初から面談せんでええわ」
博之は紙を一枚取る。
「受付で書いてもらお」
名前。
年齢。
住んでいる場所。
現在の仕事。
何を希望しているのか。
鑑定なら、今までどこで働いていたか。
治療なら、冒険者としての等級や怪我の内容。
「紹介者がおるなら、それも書いて」
「それだけでもかなり減らせそうですね」
「まず紙で前捌きや」
求人も同じだった。
「黄色い布巻いて体験で入る分には、まだ敷居低くてええねん」
食うに困っている者に飯を出し、少し働いてもらう。
それ自体に意味がある。
「でも本採用は別」
「今は応募も多いですからね」
「そう。誰でも雇える時期ちゃう」
教会から紹介された孤児。
顔役から頼まれた人。
現場で評判のいい者。
何日か体験して、ちゃんと働けるかを見る。
「その辺の交通整理も頼むわ」
帳簿係二人が顔を見合わせる。
「また仕事増えましたね」
「……ごめんな」
「いいですよ」
「ほんま?」
「博之さんの人徳ですから」
「それ言うな」
「なんでです?」
「重いねん、その言葉」
博之は椅子にもたれた。
「人徳や言われて期待積み上げられたら、そのうち俺潰れるで」
一瞬静かになって。
エレナが吹き出した。
続いて帳簿係も笑う。
「笑い事ちゃうぞ!」
「でも、博之さんらしいです」
「どこがやねん」
十四か月目前半。
一号店は銀貨三十三枚。
二号店は銀貨十三枚。
商売は安定してきた。
その代わり、店の外から持ち込まれる相談だけが、帳簿以上の速さで増え始めていた。
「……次は店より受付増やす方が先かもしれんな」
博之は積み上がった紙を見て、深いため息をついた。




