博之43歳。異世界14か月目。人を増やして、とうとう役まで付いた
商会の前に鑑定や仕事を求める人が集まるようになってから、博之は早々に音を上げた。
「……無理やな」
「何がです?」
帳簿係が聞く。
「俺が全部受付すんの」
求人。
鑑定希望。
治療費を借りたい冒険者。
教会からの紹介。
さらにリクの薬草事業と、これから始まるミサキの治療関係まである。
「二人増やそ」
「帳簿係を?」
「そう。ただし帳簿だけちゃう」
新しく二人を雇い、
一人はリクの薬草事業。
もう一人はミサキの治療関係。
それぞれの帳簿補助をしつつ、空いた時間には採用や融資希望者の受付をやってもらう。
「名前、年齢、今何してるか、何ができるか、うちで働きたいんか、鑑定してほしいんか。
その辺だけ聞いといて」
「博之さんが面接するんじゃないんですか?」
「最初から百人と喋ってられるか!」
もちろん最終的に金を貸すなら博之も見る。
だが入口くらいは任せたい。
「あとリク」
「何?」
「帳簿見てもろてる分、お前の事業から経費もらうで」
「ええ!?」
「当たり前やろ!」
薬草の売上、買い取り、在庫、返済。
それを商会の人間が管理している。
「月銀貨一枚までは取らんけど、相応分な」
「先生サービスちゃうん?」
「永久無料とは言うてへん!」
ミサキも同じだった。
「お前も治療院動き出したら、帳簿補助代払ってな」
「私まだ稼いでへん!」
「稼ぎ始めてからでええ」
「おっちゃん、細かいなあ」
「こういう細かいんせんと、人増やしたら商会が全部負担することになるんや」
子供だから無料。
友達だから無料。
それを繰り返していけば、仕組みにならない。
「少額でも経費は経費。自分の商売の銭から払う。それも勉強や」
リクが小声で言う。
「先生っぽい」
「やろ?」
「ちょっとだけ」
「ちょっとかい!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そんなことをしていると、今度は顔役から呼び出しが来た。
「……また何か怒られるんかな」
「心当たりあるんですか?」
エレナに聞かれ、博之は考える。
「いっぱいある」
「でしょうね」
顔役のところへ行くと、予想とは違う話だった。
「旦那、この地区の商いの世話役、やってくれへんか」
「嫌です」
「まだ説明しとらんぞ」
「役職やろ?」
「まあな」
「会議ある?」
「ある」
「嫌です」
「早いわ!」
顔役が笑う。
「お前な、もう実質やっとるやろ」
「何を?」
横丁を作った。
近所の店を紹介している。
洗濯や散髪で受け切れない客を周辺へ流している。
隣の地区にも店を出した。
教会ともギルドとも付き合っている。
「商人同士が揉めた時、お前の名前出ること増えとんねん」
「知らんがな……」
「知らんで済まんくらいになっとる」
博之は露骨に嫌そうな顔をした。
「雑務嫌やで」
「誰も毎日働け言うてへん」
「書類も嫌」
「商会に帳簿係いっぱいおるやろ」
「俺の休み減るの嫌」
「わがままやな!」
結局、細かい実務は他の世話役や顔役側で処理する。
ただし博之にも地区の商人代表の一人として、定期的に顔を出してほしいという話だった。
「月に一回か二回くらいは来い」
「それくらいなら……」
「あと大きな揉め事の時な」
「俺、喧嘩弱いで」
「殴り合いせえ言うてへん!」
「ならええけど」
顔役は呆れながらも笑った。
「旦那みたいに、自分の店だけやなく周りにも客流そうとする商人は珍しいんや」
「自分で全部やったら面倒なだけです」
「理由はそれでもええ」
こうして博之は、本人があれだけ嫌がったにもかかわらず、地区の商いを調整する役の
一人に名前を連ねることになった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
商会へ戻ると、セラが聞いた。
「どうだった?」
「役職付けられた」
「おめでとう」
「めでたない!」
エレナは笑っている。
「博之さん、どんどん偉くなりますね」
「偉くなりたいわけちゃうねん」
「でも仕事は増えましたね」
「それが一番嫌や!」
そこで帳簿係がやってきた。
「博之さん」
「何?」
「そろそろ半月締めです」
「……もう?」
横丁。
二号店。
洗濯と散髪。
周辺店舗との提携。
リクの薬草事業。
ミサキは治療修行を始めた。
帳簿係も二人増えた。
「また数字増えてそうやなあ」
「店も人も増えてますからね」
「俺、飯屋始めただけやったんやけどな」
博之はため息をつきながら帳面の前へ座った。
「ほな、締めよか」
十四か月目の後半。
今度は、増えた人と仕組みが本当に銭を生んでいるのか。
その答えが、帳面に出る頃になっていた。




