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博之43歳。異世界14か月目。ミサキと商会へ戻ると。商会の前にできた人だかり。うちも鑑定してくださいwww

 顔役との話を終えた帰り道。

「まあ、ミサキはぼちぼちやったらええ」

「うん」

「治療院でも教会でも、分からんことあったら聞け。俺に聞きに来てもええけど、

 治癒魔法は俺ほんまに何も知らんからな」

「そこは役に立たへんな」

「飯なら任せろ」

「はいはい」

 そんな話をしながら商会へ戻ってくると、博之は足を止めた。

「……何あれ?」

 商会の前に人が集まっている。

 親子連れ。

 見覚えのある近所の住民。

 教会で見たことのある孤児まで混じっていた。

「なんかあったん?」

 帳簿係に聞くと、困った顔をする。

「博之さんを待ってるそうです」

「俺?」

 すると一人の母親が近づいてきた。

「旦那、うちの子も鑑定してもらえへんやろか」

「……はい?」

「三人も子供の鑑定を面倒見たって聞いて」

「俺も!」

「私もお願いしたいんです!」

 一気に声が飛んでくる。

「いやいやいや、待って待って!」

 博之が両手を上げた。

「何の話になってんねん!」

「旦那のところなら、金のない子でも鑑定してもらえるって」

「誰がそんな話広めたんや!」

 博之は頭を抱えた。

「うち、慈善事業ちゃうぞ!」

 人だかりが少し静かになる。

「あの三人にも、ちゃんと借金背負わせてんねん」

 ソラ。

 リク。

 ミサキ。

「一人、返済総額銀貨百十枚やぞ?」

「そんなに……」

「そうや」

 ソラは槍術適性が出て、冒険者になった。

 経験者のセラとユーリについて低層から始め、今は少しずつ返済している。

「ソラは分かりやすかった。冒険者になれば、それまでより稼げるからな」

 だがリクは違った。

「採取と鑑定やぞ。本人、最初めちゃくちゃ落ち込んどったからな」

「言わんでええやん!」

 近くにいたリクが叫び、少し笑いが起きる。

「でも俺が薬草の買い取りから販売まで道筋作って、本人も頑張ったからようやく黒字になってん」

 そしてミサキ。

「今日ようやく治癒魔法が出たから、治療院と教会と顔役に頭下げて、これから修行するところや」

 まだ三人とも途中なのだ。

「たまたま三人とも使えそうな適性出たけど、何も出えへん可能性もあるんやぞ」

 その場合でも借金は残る。

「働く場所もない、返すあてもない、俺との信用もない。そんなんで俺が保証人になれるわけないやろ」

 一人の男が尋ねた。

「じゃあ、あの三人だけ特別なんですか?」

「特別っちゃ特別やな」

 博之はあっさり認めた。

「あいつら、俺がボロ小屋で飯売ってた頃から知ってるから」

 働くか。

 逃げないか。

 約束を守るか。

 金を持った時にどうするか。

「そこまで見て、乗りかかった船やからやってるだけ」

「でも旦那、これからも誰か助けようとはしてるんでしょう?」

「それは……まあ」

 博之は頭をかいた。

「三人が返してくれたら、その金で次の一人を鑑定することは考えてる」

 金貨三枚分の貸付が循環すれば、次へ回せる。

「でも順番は俺が決める」

「どういう子を?」

「まず、うちで働いてる子やな」

 ちゃんと出勤する。

 嘘をつかない。

 逃げない。

 仕事を覚えようとする。

「その中で、こいつなら貸しても返そうとするやろなって子」

 教会から紹介された孤児を試しに働かせることもある。

 顔役から頼まれることもある。

「今は求人もめっちゃ来るから、昔みたいに来た人全員雇うなんて無理やで」

「厳選するんですか?」

「する」

「旦那のところでも?」

「当たり前やん」

 今では横丁も商会も、働きたい人間が集まる場所になっている。

「一日、二日働いてもろて様子見るとか、教会に聞くとか、そういうことして決めてる」

 冒険者の治療も同じだ。

「セラさんとユーリさんに金貸したけど、誰彼なしに治してるわけちゃう」

 セラは完済。

 ユーリは今も返済中。

「ギルドの仕事の遂行率、揉め事の記録、返済できそうか。ちゃんと見る」

 治せばまた稼げるのか。

 逃げないか。

 周囲と組める人間か。

「ごっついおっさんが『治してくれ、金はあとで返す』言うても、知らん人やったら怖いやろ」

 人だかりから笑いが漏れた。

「そんなん全員信用してたら、俺が先に潰れるわ」

 しばらく沈黙が続いた。

 すると、子供を連れてきた女性が小さく言った。

「……それでも、旦那のところにおる方が可能性あるんです」

「え?」

「他はもっと世知辛いんですよ」

 鑑定に金貨一枚。

 そんな金を貧しい家が用意できるはずもない。

 まして孤児なら、最初から選択肢にすら入らない。

「働けば、いつか見てもらえるかもしれへん。それだけでも全然違うんです」

「……期待値上げすぎんといてな」

 博之は困ったように笑った。

「順番待ち何年になるか知らんで」

「それでもいいです」

「いや、俺がよくないねん。プレッシャーすごいやん」

 また少し笑いが起きる。

 博之は商会の建物を振り返った。

「とりあえずな。働きたい人は受付で名前書いて」

 ただし採用される保証はない。

 鑑定してもらえる保証もない。

 治療費を貸してもらえる保証もない。

「うちは何でも叶う場所ちゃう」

 そこだけは、はっきり言った。

「ただ、できる範囲ではやる」

 すると誰かが、

「それで十分ですよ、旦那」

 と言った。

「……そう言われると断りにくいやろ」

 博之はため息をつく。

 横でミサキが笑った。

「おっちゃん、また仕事増えたな」

「ほんまやで」

「人気者やん」

「全然うれしないわ!」

 そう言いながらも。

 博之は受付の前に並び始めた人たちを、結局追い返すことはしなかった。

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