博之43歳異世界14か月目。最後の一人、ミサキの鑑定。治癒の適性があり盛り上がる。
三人の子供たちのうち、最後に残ったのがミサキだった。
「ミサキ」
「何?」
「そろそろ心の準備、ええか?」
博之がそう言うと、ミサキはすぐに意味を理解した。
「……鑑定?」
「せや」
少し嬉しそうな顔をしたあと、ミサキは心配そうに博之を見る。
「おっちゃん、ほんまにええの?」
「何が?」
「だって金貨一枚やろ?」
「まあな。でも今、俺の手元に銀貨百三十五枚ある」
「そんなに!?」
「ギルドに預けてるんも銀貨三十五枚あるしな」
払おうと思えば、博之自身の金だけでも払える。
「でもソラもリクも、自分の名義で借りて返してるやろ」
「うん」
「お前だけ俺が全部払ったら、逆にずるいやろ?」
「それは……そうかも」
「せやからミサキ名義で借りる。俺が保証人」
返済総額は金貨一枚と銀貨十枚。
「ただし逃げんなよ」
「逃げへんわ!」
「百十枚やぞ」
「急に怖い数字言わんといて!」
博之は笑った。
「何が出るかは知らん。でも出た札で勝負したらええ」
「リクみたいに?」
「そう。何も出えへんかったとしても、うちで働いて返したらええし」
「おっちゃん心配性やなあ」
「借金の保証人やからな」
「でも……ありがと」
ミサキが少し笑う。
「その気持ちだけでも嬉しいで」
「ほな行こか」
・・・・・・・・・・・・
鑑定の日。
今回はかなりの人数が集まった。
ソラ。
リク。
ユーリ。
セラ。
そしてエレナまで来ている。
「なんでこんな大人数なん?」
ミサキが恥ずかしそうに言う。
「最後の一人だからな」
ソラが笑う。
「俺ん時も緊張したで」
「リクなんか結果出て泣きそうになってたしな」
「泣いてへんって!」
「またその話するん?」
皆が笑う中、ミサキが鑑定室へ入っていった。
しばらくして。
術師が結果を持って出てくる。
「適性があります」
「おお」
博之が身を乗り出した。
「治癒魔法です」
一瞬、静かになった。
「……治癒?」
ミサキが聞き返す。
「はい。傷などを癒やす魔法ですね」
「ええやん!」
最初に喜んだのはソラだった。
「うち、回復役おらんやん!」
ユーリも頷く。
「低層なら私たちと一緒に入って練習できますね」
「もちろん、すぐには駄目です」
セラが釘を刺す。
「まず治癒魔法そのものを覚えないと。ダンジョンで失敗したら洒落にならないからな」
「それはそうやな」
博之も頷いた。
「治療院とかで教えてもらえるん?」
「ありますよ」
「教会でも基礎を教えられるところがあります」
「ほな、まず修行やな」
そこで博之が考え始める。
「でもこれ、別に冒険者だけちゃうよな」
「どういうこと?」
「治療院で働けるやろ?」
「ああ」
「修行して、いずれ自分で治療院やるんもありちゃう?」
「私が?」
「せや」
横丁には飯屋もある。
薬屋とのつながりもある。
洗濯や散髪まで始まった。
「でも治療院はないもんな」
「近所にはありますけどね」
エレナが言う。
「せやから、わざわざ喧嘩せん程度に小さいの一個とか」
さらに博之はリクを見る。
「お前の薬草も置けるやん」
「俺の?」
「治療院で必要な薬売って、売れたら手数料もらえばええ」
リクが呆れた。
「おっちゃん、もう商売の話になってるやん」
「癖や」
ミサキも笑う。
「でも、それちょっと面白そう」
「やろ?」
治療院で修行。
教会でも経験を積む。
体力に自信がないミサキなら、毎日のようにダンジョンへ潜る必要もない。
「たまに低層だけソラたちについていく」
「うん」
「そこで自分を守る動きも覚える。リクの薬も持っていったらええ」
「俺、売るで」
「友達価格ないん?」
「商売やから」
「お前、俺に似てきたな」
「嫌や!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰り道。
ミサキは少し前を歩きながら言った。
「私、ここから離れたくはないねん」
「別に離れろとは言うてへんで」
「ここの飯好きやし。みんなおるし。おっちゃんに拾ってもらったし」
「ほな、修行して戻ってきたらええやん」
「戻ってきて治療院?」
「それも一つ」
ソラは冒険者。
リクは薬草商売。
ミサキは治癒。
「三人とも別々やけど、近いところで仕事できそうやな」
「うん」
「それに返済もあるしな」
「そこ忘れてへん?」
「忘れるわけないやろ」
博之は三人を見た。
「お前らが返した金で、次の子の鑑定できるからな」
「またやるん?」
「できる範囲でな」
ただし。
博之は少し考えてから続けた。
「でもこれから俺が一人ずつ子供全部覚えて、全部面倒見るんは無理や」
「え?」
「もう流れ作ったやろ」
ソラが冒険者側。
リクが商売側。
ミサキが治療側。
「次に来る子らは、お前らも見たって」
「俺らが?」
「そう。俺一人で全部やったら死ぬ」
セラが笑う。
「ようやく分かったか」
「最近めちゃくちゃ分かってきた」
ミサキは少し寂しそうな顔をした。
「なんか……独り立ちって感じするな」
「いやいやいや、待て待て」
博之が即座に止める。
「何?」
「お前、今から金貨一枚と銀貨十枚返さなあかんねんぞ」
「急に現実的!」
「寂しいとか言うてる場合ちゃう!」
「さっきまでええ話やったやん!」
「まず体壊さんように修行して、ちゃんと稼げるようになれ!」
皆が笑った。
ミサキも笑いながら頷く。
「分かった。ちゃんと返す」
「よし」
三人の子供たちは、それぞれ違う札を引いた。
けれど、三人とも同じ場所から歩き始めた。
そして博之は少しずつ、自分が手を引く側ではなく、最初に道だけ作って、その先を
彼ら自身に任せる側になり始めていた。




