↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
75/169

博之43歳。異世界13か月末日。十三か月目、締めの帳面合わせ。本店と二号店で利益計銀貨41枚。リクもなんやかんや頑張っている。

 異世界に来て十三か月目。

 四十三歳になった博之は、おっちゃんの隠れ家商会の事務所で、半月分の帳面を前に腕を組んでいた。

「ほな、締めやな。今回はどう?」

 帳簿係の一人が何枚かの紙をまとめる。

「博之さん側で、最終的に銀貨四十一枚ほどの利益です」

「四十一か。思ったより残ったな」

「ただし、色々使ってますけどね」

「……何その言い方」

 まず一号店。

 横丁を中心とした本体の利益は、銀貨三十四枚ほど。

 本来なら四十枚近く残っていてもおかしくなかった。

「大きな傘が一本壊れています」

「あれは事故や」

「二時間飲み放題もやっています」

「あれは福利厚生」

「さらに夜の店で銀貨三枚」

「それは社会勉強や!」

 博之が即答すると、横に座っていたエレナがじっと見る。

「……博之さん?」

「何その目」

「社会勉強だったんですよね?」

「せやで。エレナさんも一緒におったやん!」

「では、もう次はありませんよね?」

「ないない」

 博之は両手を振った。

「高級な方は俺にはよう分からんかったし。大衆の店はおもろかったけどな」

「では次に飲みたくなったら?」

「こっちでみんなと飲む」

「それがいいです」

「俺もその方が楽しかったしな」

 エレナの機嫌が少し戻った。

「……なんで俺、自分の金使って飲みに行った報告で怒られてんねやろ」

「何か?」

「何もありません」

 帳簿係たちが笑いを堪えていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ほんで二号店は?」

「銀貨八枚前後ですね」

「おお。最初にしてはええやん」

 隣の地区に出した小さな店。

 サンドイッチ、冷たい飲み物、そしてホットケーキ。

 ただ、最初の数日は少し問題があった。

「安くしすぎましたね」

「怒られたなあ」

 周辺の軽食屋から、

『その値段で売られたら困る』

 と苦情が入ったのだ。

「安い方が客喜ぶと思ってんけどな」

「周囲には周囲の商売がありますから」

「勉強したわ」

 だから途中から、周辺の価格を見ながら値段を少し上げた。

 その代わり、増えた余裕を全部博之が取るのではなく、無料券を近隣の店へ配り、

 地元の教会へ寄進し、新しく人も雇った。

「安売りで全部取るんやなくて、適当な値段取って、その分周りに撒いた方が揉めへんな」

「二号店の統括からも、近所との関係は良くなっていると報告があります」

「ほな、もう細かいことあの人に任せる」

「またですか?」

「地区一個離れただけでめちゃくちゃ面倒くさいねん!」

 仕入れ。

 在庫。

 近所付き合い。

 従業員。

 客からの要望。

「給料上げたんやから、細かいことは統括が見て。俺には大きいことだけ持ってきて」

「博之さん、どんどん仕事を人に渡していきますね」

「俺が全部やったら倒れるわ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「次、リク」

「はい!」

 薬草買い取り所を任されているリクが、妙に緊張しながら座る。

「今回は売上そのものは伸びています」

 ただし。

 リクは値上がりしていた薬草を多めに買い取った直後、相場が下がるという失敗をしていた。

「その損が、だいたい銀貨一枚」

「……はい」

「でも全部差し引いて、銀貨七枚は利益が残っています」

「七枚!?」

 リクが顔を上げた。

「ほんま?」

「ほんまや」

 博之が帳面を指差す。

「今月の返済、前半三枚返したやろ?」

「うん」

「今回は四枚返したら、一か月で銀貨七枚返したことになる」

「残り三枚は?」

「事業に置いとけ」

「また残すん?」

「残せ言うてるやろ」

 博之は笑う。

「今回みたいに相場外した時、その銭が助けてくれるねん」

「……危なかったな」

「せやろ?」

 もし手元の資金を全部買い取りへ使っていたら、値下がり一回で次の仕入れすら難しくなっていた。

「現金は余裕持って残しとけ。商売は儲かってても、銭なくなったら止まるから」

「はい、先生」

「なんや、その言い方」

「先生やん」

「絶対ちょっと馬鹿にしてるやろ」

「ちょっとだけ」

「おい!」

 皆が笑った。

 だが博之は、改めてリクの帳面を見る。

「でもな、リク」

「何?」

「一か月で銀貨七枚、借金返す方に回せたんやぞ」

「うん」

「お前、まだ十歳そこそこやろ?」

「そうやけど」

「十分すごいぞ」

 リクが少し黙った。

「ほんま?」

「ほんまや。しかも自分の給料は別にもろて、事業にも銭残してる」

 採取と鑑定。

 最初は外れだと思って泣きそうな顔をしていた。

 それが今では、人から薬草を買い、鑑定し、まとめて売り、自分の給料を取り、借金まで返している。

「ちゃんと返してくれたら、おっちゃんも次のやつに銭回せるからな」

「分かった」

 リクが大きく頷く。

「もっと頑張る」

「頑張りすぎんなよ」

「どっちやねん」

「潰れん程度に頑張れ」

「難しいわ!」

 また笑いが起きた。

 横丁、銀貨三十四枚。

 二号店、銀貨八枚ほど。

 細かな調整まで含め、博之側には約銀貨四十一枚の利益。

 リクの小さな商売も、失敗を一つ経験しながら、それでも黒字を残した。

「まあ」

 博之は帳面を閉じる。

「失敗しても続けられてるなら、今んところ上出来やな」

 十三か月目。

 店も、人も、借金も増えた。

 面倒事も確実に増えている。

 それでも、銭と仕事は少しずつ回り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。