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博之43歳。異世界13か月目。横丁に足りないもの。聞いて回ると洗濯と散髪や。店立ち上げと周辺を巻き込む仕組み作り

 隣の地区へ夜の店を見に行った翌日。

 博之は商会の机に座り、昨日のことを思い返していた。

「大衆向けの店は分かるんよなあ」

 エレナが振り向く。

「昨日のお店ですか?」

「うん。一人で来てもママさんが話してくれて、常連同士でも喋れる。酒飲みながら

 居場所買うみたいなんは、なんとなく分かった」

「高級な方は?」

「……俺にはまだピンとこんかった」

 綺麗な女性が横に座り、酒を注いで話をしてくれる。

 需要があるのは分かる。

 しかし、博之自身が店を作りたいかと言われると違った。

「高い金払ってあれをやるんは、俺にはまだ分からんな」

「私とセラさんがいたからでは?」

「それ言われたら否定できへんけど」

 博之は笑う。

「まあ、飲み屋は一旦保留や」

 思いついたからといって全部始める必要はない。

 それより今の横丁を見ればいい。

「飯はだいたい揃ったよな」

 煮込み。

 餃子。

 魚。

 肉。

 麺。

 揚げ物。

 サンドイッチ。

 ジュース。

 甘い物。

「ほな、この辺に住んでる人が次に困ってるもんって何や?」

 数日間、博之は横丁の客や従業員に聞いて回った。

「飯以外で困ることある?」

「洗濯」

 港で働く男が即答した。

「仕事着すぐ汚れるからな」

 別の男は髪を触った。

「散髪も遠いんよ」

「なるほど」

 冒険者にも聞けば、

「ダンジョン帰りの服なんて最悪だぞ」

「血とか泥とか?」

「魔物の臭いもな」

「それ洗う人かわいそうやな」

「仕事だから」

 需要は明らかだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ほな、やってみるか」

「またですか?」

 帳簿係が呆れる。

「小さくや、小さく」

 空いていた区画の一つを洗濯受付に。

 もう一つに簡単な散髪屋を置くことにした。

 ギルドへ行き、

「洗濯できる人と、髪切れる人おらん?」

 と聞く。

 紹介された中から、経験のある者を数人雇った。

 洗濯は衣服の受け取り、洗い、乾燥、返却。

 散髪は基本的な髪切りと髭剃り。

「ただしな」

 博之は散髪担当に言った。

「うちは美容院ちゃうから」

「美容院?」

「凝った髪型とか、飾り付けとか、女性向けの綺麗な仕上げとか。そういうん希望する人は、

 ちゃんと専門の店紹介したって」

「うちで全部やらないんですか?」

「全部やったら周りと喧嘩するやろ」

 安く、早く、清潔にする。

 そこまで。

「もっと綺麗にしたい人は向こう。髪飾りならあっち。そう分けたらええねん」

 実際、始めると客はかなり来た。

「洗濯お願いします」

「これ今日中いける?」

「三人待ち?」

 散髪にも港湾労働者が並んだ。

「思ってたより来るな……」

 エレナが洗濯物の山を見る。

「博之さん、これ全部うちでやるの無理ですよ」

「やっぱり?」

「やっぱりじゃありません」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そこで博之は、周辺の店を回り始めた。

 最初に訪れた洗濯屋では、店主が少し嫌そうな顔をした。

「最近、客そっちに流れてるぞ」

「やっぱそう思います?」

「思うよ」

「ほな、仕事こっちから流してええ?」

「……は?」

 博之は事情を話した。

「うちで受け切れへんねん」

 一日の受付量を超えた分を、近所の洗濯屋へ回す。

 散髪も同じ。

「待ち時間長い客に、『あっち空いてますよ』って言う」

「うちに?」

「そう」

「なんで?」

「全部俺がやる必要ないやん」

 店主がしばらく黙った。

「変なやつやな」

「よく言われる」

 さらに博之は、周辺の店から小さな看板や紙を集めた。

『靴修理はこちら』

『衣服の繕い承ります』

『女性向け髪結い』

『薬はこちら』

 それらを商会と横丁の一角にまとめて飾る。

「これ何です?」

 リクが聞く。

「近所の店案内」

「横丁の店ちゃうやん」

「せやからええねん」

 横丁に来た客が、そのまま周辺の店へ行く。

 周辺の店の客も、帰りに横丁で飯を食べる。

「客取り合うだけやったら疲れるやろ」

 さらに薬屋でうまくいった仕組みも広げた。

「うちの従業員、ちょっと安くしてくれへん?」「代わりにこれ」

 博之が差し出したのは、サンドイッチとミックスジュースの無料券だった。

「店主さんとか従業員さんで使って」

「これ、結構人気あるやつやろ?」

「せやで」

 洗濯屋。

 散髪屋。

 靴修理。

 服の繕い。

 薬屋。

 少しずつ提携が増えていった。

 エレナが商会の壁いっぱいに貼られた案内を見る。

「ずいぶん賑やかになりましたね」

「横丁の案内より周辺の店の方が増えてへん?」

「増えてます」

「まあええか」

「いいんですか?」

「この辺全部便利になったら、結局人来るやろ」

 博之は外を見る。

 飯を食べた男が散髪屋へ行く。

 洗濯を預けた女性がドーナツを買う。

 靴の修理を頼んだ冒険者が横丁でビールを飲む。

「俺が全部やらんでも、町が回ったらええねん」

「また大きいこと言ってますよ」

「そんなつもりないけどな」

 博之は笑った。

 本人としては、ただ喧嘩したくなかっただけだった。

 だが少しずつ。

 おっちゃんの隠れ家横丁は、飯を食べる場所から、

 この辺で困ったら、とりあえず行ってみる場所

 へと変わり始めていた。

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