博之43歳。異世界13か月目。半月の帳簿締め、リクの商売も黒字になった
半月の締め日。
おっちゃんの隠れ家商会では、いつものように帳簿係の三人が数字をまとめていた。
その机の端には博之とエレナ。
そして今日は、リクも座っている。
「ほな、まずうちから聞こか」
博之が帳面を覗き込む。
「どう?」
「商会全体では、今期の利益がだいたい銀貨三十五枚ですね」
「三十五?」
「はい」
前の半月締めでは、銀貨二十二枚ほどだった。
「十三枚も増えたん?」
「甘味が結構効いてます」
「ああ、ホットケーキとドーナツか」
「それとジュースへのアイス追加ですね」
「当たったなあ」
博之は少し嬉しそうに笑った。
「まあ、ぼちぼちや」
「もう少し喜んでもいいんじゃないですか?」
エレナが言う。
「まだ分からんからな。そもそも甘いもん食う習慣ない人もおるし、普通の飯と比べたら
高いと思う人もおるやろ」
最初だけ珍しさで売れている可能性もある。
「半年、一年売れて初めて定番や」
「意外と慎重ですね」
「商売では慎重やぞ」
「ほかでは?」
「知らん」
笑いが起きた。
「ほんで、リクの方は?」
リクが急に姿勢を正した。
「俺?」
「お前の商売やろ」
帳簿係が別の紙を出す。
「薬草部門の売上が銀貨二十二枚です」
「おお」
薬草の買い取りに約銀貨十枚。
乾燥用の道具。
袋。
運搬。
細かな損失。
さらにリク自身の半月分の給金として銀貨三枚。
「全部引いて、事業利益が銀貨六枚くらいですね」
「……六枚?」
リクが何度も紙を見る。
「俺の給料三枚も取った後?」
「取った後」
「ほんまに?」
「帳簿係三人おるんやから、多分ほんまや」
「多分言うな!」
博之が笑った。
「ほな、その六枚から今月の返済な」
「月七枚やろ?」
「半月やから、今回は銀貨三枚返しとこ」
「残り三枚は?」
「置いとけ」
「返さんでええの?」
「返すな」
リクが不思議そうな顔をする。
「なんで?」
「次の薬草買う銭いるやろ」
「ああ」
「最初に俺が貸した銀貨十五枚あるやろ。そこへ利益の三枚を足して、事業の銭を少しずつ太らせる」
「十八枚?」
「そういうこと」
もちろん全部を一度に買い取りへ突っ込む必要はない。
「失敗するからな」
「失敗前提?」
「するする」
高く買いすぎることもある。
保存に失敗する。
思った値段で売れない。
時期がずれて価値が下がる。
「余裕資金なしで商売したら、一回失敗しただけで終わりや」
「……先生やな」
リクが感心したように言った。
「先生、先生」
「お前絶対そんな思ってへんやろ」
「ちょっとは思ってる」
「ちょっとかい」
エレナが笑った。
博之はリクの帳面を指差す。
「あと、採取依頼でお前自身が稼いだ分は、基本お前の銭にしてええからな」
「事業に入れなくていいん?」
「入れたかったら入れたらええ。でも別物や」
採取の経験も大事だ。
どこに何が生えるのか。
季節でどう変わるのか。
ギルドが何を欲しがっているのか。
「いろんな人と喋れ」
「俺が?」
「薬屋、採取専門の冒険者、薬問屋。全部一人で覚えようとすんな」
一人で採れる量など知れている。
だから人に採ってもらう。
自分は鑑定する。
まとめて売る。
「そのための責任者や」
「十歳くらいの俺に言う?」
「修行や」
「無茶苦茶やな」
「あと教会」
「教会?」
「時々顔出して、ちゃんとお布施してこい」
リクが露骨に嫌そうな顔をした。
「せっかく儲かったのに?」
「お前なあ」
博之は呆れる。
「神父さんが子供らに声かけてくれたから、薬草持ってくる人増えたんやろ?」
「あ……」
「そこ無料やと思ったらあかん」
毎月大金を出す必要はない。
だが、世話になったなら何らかの形で返す。
「誰かが人つないでくれてるから商売できてるんや」
「うん」
「ここでずっと俺の商会の事業としてやるなら、利益出た時に商会へ少し入れる形でもええ」
「おっちゃんには?」
「俺はまあええわ」
「ええん?」
「その代わり」
博之がニヤッとする。
「めっちゃええ薬草見つけた時、俺だけ特別価格な」
「結局取るんやん!」
「当然や!」
また笑いが起きた。
「ほんで次な」
「まだあるん?」
「薬草そのまま売るだけで満足すんなよ」
乾燥。
粉。
飲みやすい形への加工。
冒険者向けなら、傷、腹、毒などを小分けした携帯用も考えられる。
「それは薬屋に教えてもらいながらやれ」
「おっちゃん、また答え言うてる」
「……あ」
「全部俺に考えさせるんちゃうん?」
「また教えてもうたな」
リクが笑った。
「ありがとう、おっちゃん」
「まあ最初だけやぞ」
「先生やからな」
「だから絶対思ってへんやろ!」
商会は銀貨三十五枚の利益。
リクの小さな薬草事業も、初めて銀貨六枚の利益を出した。
槍を持つソラとはまったく違う道。
それでもリクは、自分の力で少しずつ銭を回し始めていた。
「まあ、ぼちぼちやれ」
「うん」
「急いで借金全部返そうとすんなよ」
「分かった」
「商売潰さず続ける方が先や」
「……やっぱ真面目やな、おっちゃん」
「真面目やねん」
博之は胸を張った。
「誰もそう見てくれへんけどな」
今度はエレナまで声を上げて笑った。




