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博之43歳。異世界13か月目。リクの薬草買い取り所

 リクの鑑定結果が出て数日後。

 博之はリクを連れて、教会へ顔を出していた。

「神父さん、ちょっと相談あるんですわ」

「今度は何を始めるんです?」

「なんで最初から警戒してるんですか」

「博之さんですから」

「ひどない?」

 横でリクが笑う。

「まあ、こいつの鑑定が終わりまして」

「結果は?」

「採取と鑑定」

「それはまた、使い道の多い適性ですね」

「そうなん?」

「本人が分かってないんですか?」

「俺もそんな詳しないから」

「おっちゃん!」

 博之は気にせず続ける。

「それで、薬草の買い取りを始めようと思ってます」

 リク自身がギルドの採取依頼を受け、森や野原へ行く。

 だが、一人で集められる量など限界がある。

「せやから、ここの子供らとか、近所のおっちゃんおばちゃん、じいちゃんばあちゃんでも、

 暇な時に採ってきてもらえたらと思って」

「買い取るんですか?」

「うちの商会で」

 熱に使う草。

 腹の調子を整える草。

 傷に使われるもの。

 毒に対応するもの。

 薬屋が生薬として使うもの。

「ただ、素人が採ったら似た草混ざるやろ?」

「当然ありますね」

「そこでリクや」

 博之がリクの肩を叩いた。

「こいつが鑑定する」

「俺がな」

 リクも少し胸を張る。

「これは薬草。これはただの草。これは似てるけど違う、って教えていけばええやろ」

「なるほど」

「最初は間違えてもええねん。持ってきてもらって、これは買える、これは買われへんって分ける。

 そのうち採る側も覚えるやろ」

 子供にとっては、ちょっとした小遣いになる。

 重い荷物を運べない者でも参加できる。

「教会でも、暇そうな子おったら教えたってください」

「分かりました」

「ただし危ない場所行くのは禁止で」

「そこは徹底しましょう」

 翌日には、おっちゃんの隠れ家商会の一角に札が出た。

『薬草 買い取ります』

 リクが以前働いていた店の近くにも、小さな張り紙を出す。

 最初の日。

「リク、これどうや?」

 近所の老人が籠いっぱいの草を持ってきた。

「ちょ、ちょっと待って」

 リクが一枚ずつ鑑定する。

「これは薬草。これも……こっちは違う。ただの草」

「半分くらいあかんのか」

「でも次からこの葉っぱの形見て。こっちが使えるやつ」

「ほう」

 子供たちも持ち込んでくる。

「これ?」

「それ違う」

「こっちは?」

「それはいける!」

「やった!」

 少しずつだが、買い取り所らしくなっていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 リク自身も暇な日はギルドへ行き、採取依頼を受けた。

 どこに何が生えるのか。

 季節によって何が取れるのか。

 どの薬草が高いのか。

 そして戻ってきた薬草は、商会に集める。

「問題は売り先やな」

 博之はリクを連れて、横丁に出店している薬屋へ向かった。

「おっちゃん、この前サンドイッチとジュース券あげたやろ?」

「恩着せがましいですね」

「今日は商談や」

 鑑定済みの薬草を見せる。

「これ、まとめて買ってくれへん?」

 薬屋の主人が一枚ずつ確認した。

「状態は悪くありませんね」

「リクが鑑定してる」

「それならこちらも確認の手間が減ります」

「ほな仕入れ先になったって」

「値段次第ですね」

「そこはリクと相談して」

 商会へ戻ると、博之は紙を出した。

「まず売り値調べよ」

「先に買い値ちゃうん?」

「逆や逆」

「え?」

「お前が薬草を銀貨一枚で買って、八十銅貨でしか売れへんかったらどうするん」

「……損する」

「せやろ?」

 薬屋。

 薬問屋。

 ギルド。

 いくつか回って、買い取り価格を調べる。

「この草は百束でいくら。これは少し高い。こっちは安い」

 リクが必死で書いていく。

「なんでこんな安く買わなあかんねん」

「売値がこれやからや」

「採ってきた人かわいそうやん」

「気持ちは分かる。でも高く買いすぎて潰れたら、来月から誰の草も買われへん」

「……商売むずいな」

「めっちゃむずいぞ」

 十歳そこそこの子供には早いかもしれない。

 だが博之は容赦しなかった。

「これも修行や」

「おっちゃん助けてや」

「最初だけな」

「冷た!」

「でもな」

 博之は薬草を一束持ち上げる。

「草のまま売るだけが商売ちゃうぞ」

「どういうこと?」

「薬屋に聞いてみ。乾かすとか、粉にするとか、丸めて飲みやすくするとか。

 加工して値段上がることあるんちゃう?」

「ああ……」

「あと冒険者用にな」

 傷用。

 腹の薬。

 毒に備えるもの。

 必要なものを小分けして、一袋にする。

「ソラらに持たせたら便利ちゃう?」

「それ売れるかも!」

「ほら。また教えてもうた」

「ありがとう、おっちゃん!」

「俺ばっかり教えてたら、お前だけえこひいきしてるみたいで気持ち悪なってくるわ」

「じゃあ俺だけ特別サービスして」

「調子乗んな!」

 リクが笑う。

 少し前まで、戦闘適性がなかったことで肩を落としていた顔ではなかった。

「でもまあ」

 博之は帳面を閉じた。

「まず十五枚。これで買い取り始めてみ」

「うん」

「失敗しても全部なくす前に相談せえよ」

「分かった」

「ほんでいつか俺に、商売教え返してくれ」

「そこまでなるかな」

「知らん」

「またそれ!」

 槍を振るうソラとは違う。

 リクは薬草を見分け、人から買い、誰かへ売る。

 戦わなくても、ちゃんと一つの商売は作れる。

 その第一歩が、ようやく動き始めていた。

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