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博之42歳。異世界12か月目の締め。リクの鑑定。戦闘系ではなくへこむリクに博之が叱咤激励

 十二か月目の締めを終えた翌日。

 博之は帳簿の写しと、ずっしり重い銀貨の袋を持ってギルドへ向かった。

「また来ました」

「今日は何でしょう?」

「金の相談」

「博之さん、最近そればかりですね」

「商会主やからな!」

 机の上に帳簿を広げる。

「今、自由に動かせる現金が銀貨八十八枚くらい」

「かなり増えましたね」

「預金に入れるか、次の鑑定に使うか迷ってんねん」

 さらに別の袋を三つ置いた。

「これは返済分。エレナさんが銀貨三枚、ユーリさんが八枚、ソラが八枚」

「合計十九枚ですね」

「これは俺の利益に混ぜんと、それぞれの借金の返済に入れといて」

 職員が帳簿を確認する。

「順調そうで何よりです」

「まあ、飯屋の方はな」

 ホットケーキ。

 ドーナツ。

 アイスを使った飲み物。

「また甘いもんの店も考えてんねん」

「まだ増やすんですか?」

「考えてるだけや」

「博之さんの『考えてるだけ』は信用できませんね」

「最近みんなそれ言うな」

 博之は笑ってから、少し真面目な顔になる。

「でも、リクとミサキ待たせてるやろ」

「鑑定ですか」

「うん。金貨一枚いるから、全部現金で払うより、また借りられるなら借りたい」

 現在の商会利益。

 預金。

 これまでの融資返済。

 セラ分は完済済み。

 ユーリも返済中。

 ソラも実際に冒険者として稼ぎ、返済を始めている。

 職員が奥で確認して戻ってきた。

「現状でしたら、一人分の金貨一枚は問題ありません」

「ほんま?」

「ただ、預り金を銀貨十枚追加していただければ」

「なるほど。預金増やして信用積めと」

「はい。今回も返済総額は金貨一枚と銀貨十枚で」

 博之は少し考えた。

「ほな、一人やな」

「二人ともでは?」

「欲張らん」

 あと一か月。

 商会を回して、また利益を出す。

 ユーリやソラから返済も入ってくれば、次が見える。

「まずリク」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……俺?」

 話を聞いたリクの顔は明らかに引きつっていた。

「嫌なん?」

「嫌ちゃうけど……金貨一枚やろ?」

「借金やから金貨一枚と銀貨十枚な」

「増やすなよ!」

「事実や!」

 数日後。

 リクは緊張したまま鑑定室へ入った。

 結果が出るまで、博之、セラ、ユーリ、ソラ、ミサキも待っていた。

 やがて術師が紙を持って出てくる。

「適性が二つあります」

「おお」

「採取。それと……鑑定ですね」

「……え?」

 リクが固まった。

「剣とかは?」

「戦闘系の適性は、特には」

「魔法は?」

「ありません」

「……そっか」

 明らかに肩を落とした。

 ソラが槍の適性を得て冒険者になった。

 セラやユーリとダンジョンへ入り、銀貨を稼いでいる。

 自分もそうなると思っていたのだろう。

「俺……どうやって百十枚返すん?」

「何言うてんねん」

 博之が即座に言った。

「おっちゃん?」

「俺なんかスキルあるかどうかすら分からんまま、ここまで来とるぞ」

「でも……」

「自分にない札見てもしゃあないねん。持ってる札で勝負せえ」

「採取と鑑定で?」

「そう」

 博之は顎をかいた。

「……知らんけど」

「知らんのかい!」

 周囲が笑う。

「いやでも考えてみ?」

 薬草を採る。

 似た草の中から、本物だけを判別する。

 誰かが持ち込んだものを鑑定して、価値のあるものだけ買い取る。

「これ普通に商売できるんちゃう?」

 リクが顔を上げた。

「商売?」

「薬屋あるやろ」

 熱冷まし。

 胃腸薬。

 傷薬。

 止血。

 毒消し。

「薬草集めて卸したらええやん」

「俺が?」

「お前が」

「でも俺、薬屋ちゃうで」

「今から覚えたらええ」

 さらに博之は続ける。

「商会で買い取り窓口作ってもええぞ」

「え?」

「子供とか老人とかに採ってきてもらう。お前が鑑定する。ちゃんとした薬草だけ買う。

 それを薬屋にまとめて卸す」

 セラが腕を組んだ。

「それ、冒険者にも売れるな」

「せやろ?」

 ユーリも頷く。

「ダンジョン用なら傷薬や毒消しは需要ありますよ」

「ほら」

 博之はリクの肩を叩いた。

「やれること山ほどあるやん」

「……ほんまに?」

「なんなら一事業、お前に任せてもええ」

「俺が責任者?」

「いきなり全部できるとは思ってへん」

 最初の仕入れ資金。

 薬屋との交渉。

 商会での販売場所。

 そこまでは博之も手伝う。

「でも全部答え俺が出したら、お前おもんないやろ」

「え?」

「自分でも考え」

 どんな草を集めるのか。

 誰に売るのか。

 いくらで買って、いくらで卸すのか。

「最終的に自分で商会作ってもええんやぞ」

 リクはしばらく黙っていた。

「……俺でもできるかな」

「知らん」

「またそれ!」

「やってみな分からんやん」

 ソラが横から笑った。

「おっちゃん、それで俺も槍やらされたからな」

「ちゃんと稼いでるやんけ」

「まあな」

 リクもようやく少し笑った。

「おっちゃん、面倒見良すぎやろ」

「乗りかかった船や」

「金貨一枚の船やぞ」

「高い船やなあ!」

 皆が笑う。

 博之は最後に言った。

「戦うやつだけが当たりちゃうで、リク」

「うん」

「お前はお前のやり方で百十枚返してみ」

 槍を持つソラとは違う。

 リクにはリクの道が、ようやく見え始めていた。

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