博之42歳。異世界12か月目の締め。博之の手元資金銀貨88枚www次に金を使う相手
十二か月目の末。
おっちゃんの隠れ家商会では、二度目の半月締めが行われていた。
「で、今回はなんぼ?」
博之が机の向こうに座る三人の帳簿係へ聞く。
「だいたい銀貨二十八枚ですね」
「利益で?」
「はい。細かい銅貨のずれはありますけど、銀貨二十八枚前後です」
「おお……伸びたな」
前半は銀貨二十一枚から二十二枚程度だった。
商会の建物。
倉庫。
帳簿係三人の給金。
新しく増えた店の家賃。
固定費が一気に増えたため、一時は利益がかなり落ちるかと思っていた。
「何が効いたん?」
「露店ですね」
現在、外部から入ってきた露店は六軒。
一軒につき月銀貨一枚を横丁代として受け取っている。
「半月分ですから銀貨三枚」
「何も料理せんでも三枚」
「嬉しそうですね」
「そら嬉しいやろ」
しかも露店が増えれば、そこへ買い物に来た客が横丁で飯を食う。
薬を買って唐揚げ。
古着を見てジュース。
日用品を買った帰りに餃子。
「人が人呼んでる分もありますね」
「なるほどなあ」
「服のまとめ仕入れも、まだ小さいですが利益が出ています」
「どれくらい?」
「銀貨一枚ほどですね」
「上出来やん」
見本を置き、一週間ほど注文を集めて、まとめて買う。
一枚ずつ仕入れるより安くなった分から、少しだけ商会の利益を取る。
「売れ残りほとんど出えへんのがええよな」
「そこは強いですね」
「俺、服屋やりたいわけちゃうから」
「もう十分やってますけど」
「やってへん。注文取ってるだけや」
皆が笑った。
さらに新しい露店との従業員割引も、思った以上にうまく回っていた。
「薬屋さん、また追加で仕入れたらしいですよ」
「ほんま?」
「隠れ家商会の人が結構買いに来るって」
「ほらな」
代わりに博之は、店主たちへサンドイッチやミックスジュースの無料券を渡している。
「飯はうちが得意。薬は向こうが得意。ちょっとずつ融通したらええねん」
「こういう細かいのが効いてますね」
「せやろ?」
博之は嬉しそうに帳面を覗いた。
「ほんで、まだ甘いもん本格的に売ってへんもんな」
「ホットケーキやドーナツですね」
「アイス乗せたジュースもな」
「ですので、まだ利益が伸びる余地はあります」
「ええやん。ワクワクするな」
すると帳簿係の一人が、別の帳面を出した。
「代表の手元資金も確認しておきます?」
「そうそう。それ聞こうと思ってた」
十二か月目の最初。
博之の手元には銀貨四十五枚ほどあった。
前半の利益が約二十二枚。
「六十七枚やな」
「そこから横丁の日除け」
「あの大きい傘な」
「それとマネキン、服の見本、その他細かな備品」
「ああ、結構使ったな」
それらを引き。
後半の利益、銀貨二十八枚を加える。
「現時点で、自由に使える手元はだいたい銀貨八十八枚です」
「……八十八か」
博之はしばらく黙った。
「一年でここまで来たんやな」
「かなり増えましたね」
「最初、銅貨一枚もなかったんやけどな」
もちろん別口もある。
エレナ。
ユーリ。
ソラ。
三人から返済された金については、商会の利益には混ぜず、借入返済や次の融資原資として
別に管理させている。
「それは別帳簿にしています」
「それでええ」
博之は椅子にもたれた。
「さて……」
「また何か考えてます?」
「金の使い道」
「甘いものでは?」
「それもやるけど」
銀貨八十八枚。
もう少しで金貨一枚分に届く。
「次、誰か鑑定させるか」
リク。
ミサキ。
まだ自分の適性を知らない子供たちがいる。
「それとも、セラさんにまた聞いて、治したら復帰できそうな冒険者探すか」
ユーリのように。
怪我さえ治れば、再び稼げる者がいるかもしれない。
「どちらにします?」
「それ悩んでんねん」
鑑定なら、一人の将来が分かる。
治療なら、一人の人生を仕事へ戻せる。
どちらも金貨一枚近い金が動く。
「昔は銀貨一枚使うだけで悩んでたのにな」
「今は金貨一枚を誰に使うかで悩んでますね」
「怖いこと言うなあ」
博之は笑った。
だが悪い気はしなかった。
飯を作って。
店を増やして。
人を雇って。
横丁を作り。
商会を作った。
その結果、自分の金を「何を買うか」ではなく、「誰の次の一歩に使うか」で悩めるようになった。
「まあ、焦らんでええか」
「珍しいですね」
「金は逃げへん。……たぶん」
「最後弱いですね」
「商売に絶対はないねん!」
笑い声が商会に響く。
十二か月目。
おっちゃんの隠れ家商会は、ようやく一年目を終えようとしていた。
そして博之の目の前には、次の金貨一枚を使う相手が、もう何人も見え始めていた。




