十二か月目、セラと隣の地区へ。デートっぽくいきながらも仕事のことを考える。甘い商品。コメもある。
商会の立ち上げも、ようやく少し落ち着いてきた。
帳簿は新しく雇った三人が見てくれるようになり、倉庫の整理も少しずつ形になっている。
そんな日の夕方。
博之は横丁へ帰ってきたセラを見つけると、声をかけた。
「セラさん」
「ん?」
「そろそろ隣の地区、行こか」
セラの顔がぱっと明るくなる。
「ほんま?」
「うん。店も多少落ち着いたしな。それに俺も見たいもんあんねん」
「ご飯?」
「それもある」
博之は最近始めようとしている服の共同仕入れについて話した。
「安くて丈夫な仕事着、何種類か見本欲しいねん。隣の地区の服屋も見たい」
「ええやん」
セラが笑う。
「なんか、ちゃんとデートっぽいですよ」
「……そう?」
「ご飯食べて、甘いもの食べて、服見に行くんでしょう?」
「ほなデートっぽく行こか」
「えっ」
一瞬、セラが固まる。
「何?」
「いや……おっちゃんからそんなこと言うと思わんかった」
「俺もちょっとは学習すんねん」
横で聞いていたエレナが笑った。
「博之さんも少し勉強しましたね」
「いやいや。そんな大層なもんちゃうよ」
そう言いながらも、博之の笑い方は妙にぎこちなかった。
・・・・・・・・・・・・・
翌日。
二人で隣の地区へ向かった。
歩いてみると、同じ港都でも随分雰囲気が違う。
「こっち、ちょっと店きれいやな」
「おっちゃんのとこが庶民的すぎるんやって」
「安く食えたらええねん」
「そういうところ好きやけど」
「……急にそういうこと言うな」
セラが楽しそうに笑った。
最初に入った食堂では、博之が思わず立ち止まった。
「……米あるやん」
「知ってるん?」
「めっちゃ知ってる」
白い粒を炊いたものが、小さな器に盛られている。
「東の方の国ではよう食べるらしいで」
「この辺でも取れるん?」
「一部で作ってるって聞いたことある」
「へえ……」
博之は一口食べた。
「……米や」
「そら米やろ」
「いや、なんか懐かしい」
そこへ煮た魚や野菜が並ぶ。
「これ、うちでも使えそうやな」
「もう仕事になってる」
「あっ」
「今日はデートっぽくやるんでしょう?」
「せやったな」
セラが笑う。
その後、通りを歩いていると、セラが一軒の店の前で止まった。
「甘いもん食べへん?」
「ええで」
中へ入る。
そこで博之は、また目を丸くした。
「なんやこれ」
「冷たい菓子」
「アイスクリームやん」
「知ってるん?」
「知ってるけど、こっちでもあるんや」
魔道具で冷やした甘い乳菓子。
さらに別の皿には、厚めに焼いた柔らかな小麦の生地へ蜂蜜と果物が乗っている。
「……ホットケーキまであるやん」
「それも知ってる?」
「名前は違うと思うけど、似たもん知ってる」
一口。
「うまっ」
「おっちゃん甘いもん好きなん?」
「嫌いちゃうよ」
「意外」
「おっさんでも甘いもん食うわ」
博之は皿を見ながら考え始める。
「これ、うちにないな」
「また始まった」
「いや、甘いもん弱いねん、うち」
飲み物はある。
飯もある。
酒もある。
だが、わざわざ食べに来る甘味はほとんどない。
「アイスは冷却箱使えるかもしれんし、こういう焼いた甘いやつなら小麦と卵と牛乳で……」
「作り方分かるん?」
「分からん」
「分からんのかい」
「知ってる人に聞く!」
二人で笑った。
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最後は服屋へ。
博之は丈夫そうな上着、ズボン、下着を何種類か見ていく。
「これええな。飾りなくて安い」
「ほんま仕事着しか見てへんな」
「目的それやから」
「私の服は?」
「え?」
「冗談」
「……なんか買う?」
セラが少し驚いた顔をした。
「ええよ。今日はおっちゃんの仕事も兼ねてるんやろ?」
「そうやけど、なんか俺の用事ばっかりになってごめんな」
するとセラは首を振った。
「別にええよ」
「ほんま?」
「おっちゃん、ずっと楽しそうやったし」
服を見て。
飯を見て。
甘い菓子を見つけて。
また新しいことを考えて。
「それ見てるだけでも結構楽しいで」
「……そういうもん?」
「そういうもん」
博之は少しだけ照れた。
前よりは、セラと普通に話せるようになった気がする。
隣を歩く距離も、いつの間にか少し近い。
「ちょっと仲良くなったかな」
心の中でそう思う。
口には出さなかった。
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夕方。
横丁へ戻る頃には、博之の手には服の見本が何着か増えていた。
「どうでした?」
エレナが聞く。
「収穫あったで」
「服?」
「それもある」
博之は指を一本立てる。
「甘いもんや」
「甘いもの?」
「うち、そこ弱い」
アイスクリーム。
甘い焼き菓子。
果物。
蜂蜜。
「ちょっと考えるわ」
エレナが苦笑する。
「結局デートでも新商品考えて帰ってきたんですね」
「いやいや、ちゃんとデートっぽかったで」
後ろでセラが嬉しそうに笑っていた。
「まあ、前よりはな」
「何その評価」
「次はもっとデートっぽくしよ」
「……おお」
博之は少しだけ驚きながら頷いた。
そして次の瞬間には、
「でも甘いもん、何から試そかな」
「もう仕事の顔やん!」
セラの声が横丁に響いた。




