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十二か月目後半、横丁の中で金が回り始める。近所の店に商会従業員割引させる代わりにサンドイッチとジュースタダ券をプレゼントしたらうまくいった笑

 十二か月目も半ばを過ぎた頃。

 おっちゃんの隠れ家商会に、また少しずつ返済の金が戻ってきていた。

「博之さん、今月分です」

 エレナが銀貨三枚。

「はいよ。無理してへん?」

「大丈夫です」

 続いてユーリが銀貨八枚。

 ソラも銀貨八枚を机の上へ置いた。

「二人とも増えたな」

「最近、ちゃんと依頼取れてるから」

 ソラが少し得意げに言う。

「でも装備代残してる?」

「残してるって!」

「ならええわ。返済のために無茶だけはすんなよ」

 合わせて銀貨十九枚。

 博之は帳簿係へ渡した。

「これ返済分な。ちゃんと別で付けといて」

「はい」

「返ってきた金がまた次の鑑定とか治療に使えるようになったらええからな」

 そんな話をしながらも、博之の頭は相変わらず別の商売を考えていた。

「服、ちょっとやってみよか」

「本当にやるんですか?」

 エレナが笑う。

「やるいうても、服屋みたいなんちゃうで」

 今度セラと隣の地区へ行く時に、安くて丈夫そうな服を何着か買ってくる。

 上着。

 ズボン。

 下着。

「それ見本に置いとくねん」

「見本?」

「そう。『こんなん欲しい人』って一週間くらい注文取る」

 色や柄については何種類かに分けるが、細かい指定までは受けない。

「全部同じ色にしたらほんま囚人みたいやからな」

「まだそれ気にしてるんですね」

「気にするわ!」

 目的はお洒落ではない。

 服が破れすぎて仕事に着ていけない者。

 清潔な服が欲しいが、高い服を買う余裕はない者。

「そういう人用や」

「この地区なら需要ありそうですね」

「せやろ?」

 丈夫。

 単純。

 種類を絞る。

 そして注文をまとめて服屋へ持っていく。

「十着二十着まとめたら安してくれるかもしれんやん」

「安くなった分は?」

「少しうちが取る」

「やっぱり」

「商会やから!」

 博之は笑った。

「でも古着屋と商品かぶらせたないねん。あっちは選ぶ楽しみあるやろ?

 こっちは仕事着とか下着とか、ほんま地味なん中心」

「最悪、商会の仕事着にもできますね」

「それもある」

 売れなくても、従業員用に回せる。

「損しにくいやろ」

「そういうところだけ妙に慎重ですね」

「だけって何や」

 そして横丁では、また別の小さな変化が起きていた。

 新しく出店した薬屋の主人が、博之のところへ来た。

「人は多いんですが、もう少し固定の客が欲しいんですよね」

「ほな、うちの従業員ちょっと安くしてくれへん?」

「え?」

「風邪薬とか胃薬とか。従業員が買う時だけ少し割引」

「いや、それはこちらの利益が……」

「分かってる分かってる」

 博之は手を振った。

「その代わり、これやる」

 差し出したのは券だった。

「何です?」

「サンドイッチとミックスジュースの無料券。十回分」

「私に?」

「店の人らで使って」

「いやいや、それと割引は関係ないでしょう」

「あるやん」

 博之は笑う。

「こっちは飯を安く出せる。あんたは薬をちょっと安くできる。得意なもん交換したらええねん」

「なるほど……」

「うち従業員そこそこおるから、割引あるって言うたら何人か来ると思うで」

 薬屋はしばらく考えた。

「……試してみます?」

「試そ試そ。あかんかったらやめたらええ」

「博之さん、それ多いですね」

「人生だいたい試しや」

 実際に従業員へ、

「隣の薬屋、うちの人間ちょっと安なるで」

 と伝えてみる。

「ほんま?」

「胃薬も?」

「風邪の薬も?」

 数日のうちに、ぽつぽつと客が流れた。

 薬屋の主人が再び顔を出した時には、前より少し機嫌がよかった。

「思ったより来ました」

「やろ?」

「特に女性の従業員の方が何人か」

「売れた?」

「ええ。また仕入れます」

「ほな成功やん」

 薬屋は笑って無料券を一枚出した。

「じゃあ今日は、これ使わせてもらいます」

「おう。サンドとジュース食ってって」

「これ、意外といいですね」

「何が?」

「こちらは少し安く薬を売る。でも客が増える。私たちは飯を安く食べられる」

「お互い様やな」

 博之はそこで少し考えた。

 古着屋。

 薬屋。

 乾物屋。

 これから来るかもしれない洗濯屋や修理屋。

 全部、自分が経営する必要はない。

「……これ、横丁の店同士でちょっとずつ融通したらええんちゃう?」

 帳簿係が顔を上げる。

「また何か始めるんです?」

「いや、まだ考えてるだけ」

「その言葉、信用ないですよ」

「ひどない?」

 博之は笑いながら、冷たいミックスジュースを一口飲んだ。

 飯を売る。

 服を売る。

 薬を売る。

 互いの店を使う。

 従業員も店主も、少しずつ同じ場所で金を使う。

「なんか……金が外に逃げんと、この辺でぐるぐる回り始めてるな」

「商会らしくなってきましたね」

「俺、飯屋のおっちゃんやねんけどなあ」

 そう言いながら、博之は少し嬉しそうだった。

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