↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
56/175

博之42歳異世界11か月目。少し変わった商会の働き方

 飯を食いながら話した三人について、博之は翌日には腹を決めた。

「よし。三人とも来てもらおか」

「三人ともですか?」

 エレナが少し驚く。

「うん。ほかの商家やったら月銀貨十枚くらい欲しいって話やろ?」

「そうですね」

「ほな、うちは銀貨七枚と飯」

 博之は指を立てた。

「仕事の日はまかない付き。朝でも昼でも、常識的な範囲で食ってええ。飲み物もな」

 酔っ払い気味の男が嬉しそうに聞いた。

「ビールも?」

「ほどほどやぞ」

「はい」

「その返事、信用できへんなあ」

 横から笑いが起こった。

 無口な女性には果物と牛乳、蜂蜜を混ぜた冷たい飲み物が置かれている。

「私はこれがあれば十分です」

「それ気に入ったん?」

「はい」

「ほな好きに飲み」

 三人で月銀貨二十一枚。

 安くはない。

 商会もまだ立ち上げたばかりだ。

「最初赤字になったら?」

 一人が聞いた。

「赤なら赤でしゃあない」

「いいんですか?」

「良くはないけど、最初から全部きれいにいくと思ってへんもん」

 博之は帳面を指で叩いた。

「多少数字ずれるくらいはええよ」

 三人が顔を見合わせる。

「ただし」

 そこで声だけ少し真面目になった。

「隠すのだけはやめてな」

「隠す?」

「十銅貨合わへんかった。分からん。なら、それ書いといてくれたらええ」

 計算ミス。

 数え間違い。

 仕入れの記録漏れ。

 そういうものは起こる。

「合わんから適当に帳尻合わせました、が一番困る」

「なるほど」

「間違えたなら間違えたでええ。後から一緒に探したらええから」

 無口な女性が小さく頷いた。

「それなら……やりやすいです」

「やろ?」

 そして、もう一つ。

「仮眠室作ろか」

「仮眠室?」

「余ってる一室に簡単な寝台三つ置く」

 昼飯の後、少し横になりたい。

 帳簿を締め終えて頭が疲れた。

 そんな時に使えばいい。

「ただし泊まりは禁止な」

「泊まっちゃ駄目なんです?」

「ここ宿屋ちゃうからな。昼寝はええ。夜は帰れ」

「歯ブラシとか置いていいですか?」

「置いとき置いとき。自分の箱でも作っとけ」

 男が笑った。

「ずいぶん緩い商会ですね」

「人間、一日中やる気続かへんって」

「代表が言います?」

「俺なんか一番続かへんぞ」

 博之は胸を張った。

「店見て、ぶらぶらして、急に『サンドイッチ作ろ』とか言い出すだけや」

「一番困る人じゃないですか」

「せやから、お前らが数字合わせてくれ」

 また笑いが起こる。

「机の前で八時間ずっと真面目な顔して座る必要ないねん。やること終わらせたら休んでええ」

「本当に?」

「その代わり締め日は頼むぞ」

 三人目の、普段はサボり気味だという男が頷いた。

「締める日はやります」

「ギルドから聞いた。それ以外の日サボるんやろ?」

「少し」

「堂々と言うな」

「でも締めだけは絶対合わせます」

「ほな、それでええわ」

 無口な女性が冷たい飲み物をもう一口飲む。

「なんか……ここならできそうな気がします」

「ジュースのおかげ?」

「半分くらい」

「仕事よりジュース強いな!」

 そうして、ようやく商会の中身が見えてきた。

 ただし三人の仕事は帳簿だけではない。

「あと、余裕ある時でええんやけど」

「はい」

「町の流行りとか、面白い飯とか聞いたら教えて」

「それも仕事ですか?」

「仕事にしてもええ」

 どこかで見た変わった食材。

 最近売れている酒。

 商人が運んできた珍しい香辛料。

「俺、一人で町中見て回られへんからな」

 さらに博之には、もう一つ考えていることがあった。

「最近、横丁に店出したいって人も出てくるかもしれへんやろ」

「行商人の方みたいに?」

「そうそう」

 すでに一人、乾燥果物などを売る行商人が横丁に場所を取り、共同設備の利用分として

 月銀貨一枚を払っている。

「そういう人来たら、条件説明したり、俺につないだりしてほしい」

「商会らしくなってきましたね」

「そうか?」

「仕入れ、帳簿、出店者との交渉までやるんでしょう?」

「……ほんまやな」

 博之自身が少し驚いた。

「飯屋やったはずやのにな」

 エレナが笑う。

「今でも飯屋ですよ」

「そうやんな?」

「ただ、いっぱいあるだけで」

「それが問題やねん」

 三人も笑った。

「まあ最初はこれでやってみよ」

 銀貨七枚。

 まかない。

 仮眠室。

 ある程度自由な働き方。

 その代わり、帳簿と銭だけは誤魔化さない。

「人足りへんようになったら、その時また雇う」

「ずいぶん適当ですね」

「最初から完成形作ろうとしたら、何も始まらへんやろ」

 博之は立ち上がった。

「ほな、おっちゃんの隠れ家商会、とりあえずこれで始めよか」

 三人がそれぞれ頷く。

 立派な商人ばかりが集まる商会ではない。

 少し酒に弱く。

 少し無口で。

 少しサボり癖もある。

 そして代表自身も、大概だった。

 だからこそ。

 妙に居心地のいい商会になりそうな気が、博之にはしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。